27. 12月 2022 · December 27, 2022* Art Book for Stay Home / no.108 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『中部美術縁起』馬場駿吉編(風媒社、2022年)

「本書は『中部美術縁起』というタイトルの下に、2018年(平成30年)4月から2020年(令和2年) 3月まで、ほぼ2年間にわたって中日新聞夕刊(祝日等の休刊日を除く金曜日)に連載された論説を集約し一冊としたものである。 執筆者は中日新聞編集局文化部で選ばれた美術にかかわる様々な領域の学識者、作家など16名がリレー執筆するという形式で進められた。そのうち1名の方が、個人的理由で辞退された(略)」編者あとがきより。

 執筆者は誰か、本著の魅力と深く関わるものなので、所属・肩書(執筆当時)もそのまま転載する。馬場駿吉(美術評論家・元名古屋ボストン美術館館長)、 拝戸雅彦(愛知県美術館企画業務課長)、栗田秀法(名古屋大学大学院教授)、 高橋綾子(美術評論家・名古屋造形大学教授)、 中山真一(名古屋画廊社長)、 佐藤一信(愛知県陶磁美術館学芸課長)、 笠木日南子(アートコーディネーター)、武藤隆(建築家)、島敦彦(金沢21世紀美術館館長)、岡本光博(美術家)、 小田原のどか(彫刻家)、 ホンマエリ(美術家(アートユニット キュンチョメ))、田中功起(美術家)、小泉明郎(美術家)、 副田一穂(愛知県美術館学芸員)※執筆順。

馬場から佐藤までは「豊かな地域文化展望として」という副題があり、作品が誕生し育まれ、作家が活動する場に主に焦点が当てられている。画廊や美術館、教育現場を通して、全て中部地域における実名施設、実名作家での論考は、私などリアルに現場を観てきた者にとっては極めて興味深い。もちろん観ることが叶わなかった部分が殆どであり、知識の層に厚みをもたせてくれる。中でも「公共空間と芸術」についての高橋の論説は、多視点に立っての冴えた文章力が一際楽しく読むことができた。

笠木日南子から小泉明郎までは、当時開催されていた「あいちトリエンナーレ2019」における「表現の不自由展・その後」に関わってのものである。読者としては展開が急にタイムスリップしたかのように現代に押し出される。しかし、本著は新聞連載の論説である、国内芸術祭最大の問題を無視して新聞というジャーナリズムはありえない。8人の執筆者は騒動の中、全くたじろぐことなく書き切っている。少し視点の異なる小田原の「津田大介芸術監督による招聘作家男女同数の実現」についての論説は、私自身が強く関心を持っていたこともあって、その的確な指摘に感銘を受けた。

最後に副田の「美術を記録する」は、本著『中部美術縁起』に収められていることに違和感を覚えた。美術館学芸員ならではの作品保存、紹介、記録等、赤裸々にレポートされている。そのことは『中部美術縁起』から離れて、なお美術作品、美術活動、美術教育において極めて重要なことであり、ぜひ別著として成就していただきたいものである。

「15名による新聞連載の集約を一冊の著書に」は、読者を戸惑わせる事が多かったが、中部美術過去現在未来という点で貴重な集積となっている。

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