10. 12月 2021 · December 10, 2021* Art Book for Stay Home / no.81 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『ガウディの伝言』外尾悦郎(光文社新書、2006年)

1980年春、初めて憧れのバルセロナを訪れた。それまでに訪れたヨーロッパのどの街とも異なる空気で私を迎えてくれた。その空気とは芸術の力が湧いてくる源のようなものだ。ピカソ、ミロ、ダリを生み出した街だからではない。このような街だからピカソ、ミロ、ダリを生み出すことができたのだ。そしてサグラダ・ファミリアと出会う。

訪問前からサグラダ・ファミリアのことは戸田正寿デザインのサントリーローヤルの広告(ポスター、雑誌広告、TVCM)で知っていたが、その存在感は遥かに予想を超えるものだった。「建築は実物を観るまで絶対観たことにならない。身体で観るものだから」というのがこのとき得た教訓。

二度目のサグラダ・ファミリアとの対面は1995年、ガイドさんがあそこに見える日本人の彫刻家の方が外尾悦郎さんですと、指差し紹介してくれた。離れていたが外尾さんは軽く手を振ってくれた。

『ガウディの伝言』は、ガウディのこと、サグラダ・ファミリアのことについて、詳しく書かれている。サグラダ・ファミリア専任の彫刻家、外尾さんでなければ書けない尊敬してやまない愛おしいガウディの思想、サグラダ・ファミリアへの切ないばかりの愛。京都市立芸術大学を出て間もない日本人の若者が、サグラダ・ファミリアの専任彫刻家に成って行けた訳。外尾さんは自らのことを石彫職人と呼ぶ、そしてそうなりたかったのだと。現在、日本人の彫刻家で単独の彫刻作品を持たない最も有名な人物であろう。そしてそのことに大きな誇りを持って、これからもサグラダ・ファミリアに彫刻を彫り続けていくであろうこと。それは私たち日本人としても誇らしいことと思う。

2005年、三度目のバルセロナの訪問。私は海外初個展をバルセロナで開こうとしていた。翌日、個展会場となっているカーサ・アジアでのオープンニングレセプションにはバルセロナ領事をはじめ多くの人が詰めかけてくれた。もちろんバルセロナにおける私の知名度は全く無く、個展開催の労を引き受けてくださった広告代理店新東通信社の力に負うものである。2ヶ月の開催期間、会場で何人もの方とコミュニケーションを取る事ができたが、そしていつもその美意識に流れているものはガウディであった。ガウディの精神や造形は私の最も尊敬するものの一つであるが、真似ようと思ったことなど一度もない。はるか遠くにあって届くものではない。しかしバルセロナの地に私の作品を置いてみると、そこには脈々と流れる魂の共通するものがあり、感涙に咽ぶこととなった。

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