10. 3月 2021 · February 9, 2021* Art Book for Stay Home / no.58 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『名画の値段―もう一つの日本美術史―』瀬木慎一(新潮選書、1998年)

 アートブックは私が読んだ本の中から美術が好きで、もっと美術のことを知りたいと思う人にお勧めする本である。美術への疑問に対して答える本もあるが、美術がもっともっと好きになって、もっともっと知りたいと思うようになるそんな本を紹介している。したがって、その領域やテーマはバラバラである。可能な限り紹介したいと考えているので選び方や順番はかなり主観的である。もし10冊を選べと言われればたいへん困るのであるが、間違いなく10冊に入れるというのが本著『名画の値段・・・』である。

名画の値段について述べた本は、極めて少ない。ただ美術流通品として値段を語るなら、それはカタログである。瀬木慎一は日本を代表する美術評論家として知られる。しかし、瀬木は美術社会学研究者としても知られる。つまり経済の視点で美術を論じることを重要視している。そういう背景を持って本著が書かれている。

美術と美術品は異なるものである、美術価値と値段のつく流通品価値とは異なる。その上で美術の値段が美術の価値に影響を与え、ひいては美術史に大きな影響を与えてきた。表紙に書かれているように「美術を評価するに際して価格を与えなければならない」という矛盾を抱えているのである。

「芸術が純粋で清いものであって欲しい、あるべきだ」という考えは、値段を示さず鑑賞するだけという美術館、経済社会と深く関わって来ている美術史に値段が語られていないこと。そういった矛盾に真っ向から突っ込んで論じる本著は、美術大好き人間の中にあるモヤモヤとした霧を晴らしてくれるだろう。