『青木繁 世紀末美術との邂逅』髙橋沙希(求龍堂美術選書、2015年)
本著において著者はそのテーマである「世紀末美術との邂逅」を明らかにするために、先行する著述を徹底的に読み解いている。論文を書こうとするならばこうした態度は当然であるが、本著はその精度に驚く。したがってその文は客観的に収められており、青木作品の深い魅力については、他の著述の引用となっていることが多い。
先行する著述について「『塗り残しや下描きが残された未完成風であること』『際立った想像力と豊富な知識によって描かれた神話画が数点あること』『ラファエル前派をはじめとする西欧の世紀末美術の影響を受けていること』この三点を中心にして述べられてきた」と明解にし、なおその主な論文も紹介している。
本著の目的「世紀末美術との邂逅」を述べる前に、「青木繁の構想画に見る壁画的性格」「デッサンから見る海外の美術作品との交流」「青木繁とラファエル前派」についてそれぞれ章立てで分析、論考を述べている。それぞれ興味深い視点ではあるが、ラファエル前派を除いては説得力の欠いたものになっている。ただ、美術表現、創作に関して述べる際、きちんと分析しきれるものではなく、その資料の精度も曖昧である。明治の洋画という特異性も十分に配慮された論考で、手本とする西洋絵画の紹介、黒田清輝による理解と指導、当時の画集の発刊と日本に持ち込まれていた画集と聖書などの関係書の確認、その上で青木自身がそれらを見たかどうか。著者はそのあたりを詳細に報告して論文の精度を上げている。
ラファエル前派から世紀末美術への邂逅については、本著の核心部分であり、説得力も極めて高い。
「世紀末美術との邂逅」の後、「旧約聖書物語の挿絵」「晩年における青木繁作品」について2章を割いているが、本論のテーマを曖昧にさせるものとして受け止めた。