『増補版 ゲルハルト・リヒター 写真論/絵画論』ゲルハルト・リヒターほか、清水穣訳(淡交社、2005年)
増補版とあるように、本著は1996年に原著”Gerhard Richte Texte:Schriften und Interviews.“の抜粋訳として出版されたものに増補されたものである。9ページから16ページに渡って、本著に関わるリヒターの重要な作品をカラーで紹介。25ページからは第一章「INTERVIEWS 1972〜1993」として、リヒターへ6人のインタビュー。インタビュアは美術史家、美術ジャーナリスト、美学者、美術評論家、キュレーターの論客である。139ページからは増補版として第二章「INTERVIEWS 2001〜2005」、更に4人の論客のインタビュー。233ページから「NOTES 1962〜1992」としてリヒターのエッセイが綴られている。
リヒターについて、多くのインタビュアがキーワードにしているのは、その作品の多様性である。画家(リヒターは自らを画家とする)リヒターのスタイルが固定されないことだ。90歳という長命の作家がピカソのように多様なスタイルを持つことは理解されるが、ピカソの場合、「青の時代」「薔薇の時代」「キュビスム」「アニミズム」と時系列される。リヒターは、フォトペインティング、グレイペインティング、アブストラクトペインティング、カラーチャート、ガラスなど多岐に渡り、かつ時系列ではない。そこにインタビュアは戸惑い、その理由を求める。リヒターは飄々として「そうかも知れないし、そうでないかも知れない、それは両方とも私である」とする。強く主体的であることを拒むかのようだ。
リヒターにとって、造形的スタイルは結果としてあるものであり、追求すべき価値ではない。大切なことは「絵画とはなにか、絵画に何ができるのか、絵画の未来の可能性」である。「見る」こととはどういったことなのか、多くの画家達が当然のこととしてきた絵画の常識を突き放し、新たな絵画を提示し続ける。そこに大きく関わって写真がある、写真論/絵画論は別々のものではなく、一体であり、混然としたものである。