『愛知洋画壇物語 PARTⅡ』中山真一(風媒社、2016年)
A5版466ページに及ぶ大著である。表紙のデザインと本文を開いて見てこれは物語ではなく、愛知洋画壇辞典ではないかとその重量感も含めて思ってしまった。その内容は巻末で画家久野和洋が端的に述べているので引用する「『愛知洋画壇物語 PARTⅡ』は、これまで郷土愛知の洋画家たちの調査研究に並々ならぬ情熱を注いできた著者が、57名もの画家たちについて研究の成果をそれぞれわかりやすく述べるとともに、つねに問題意識としてある「画廊とは何か」を改めて本書で問い直そうとしている。 従来の美術画廊が持つ枠をこえ、新たな可能性を求めて、ここにはさまざまな試みが見られる。付録も含め資料性の高い研究の書といってよい。」
著者中山真一氏は、創業70年の歴史ある名古屋画廊をご両親から継いでの社長であり、私も親しくさせていただいている。その優しげな容姿と筋の通った会話から、声を耳にしながら本著を読み進め、この大著もあっという間に読み終えた。私が名古屋に居住を移して50年になる、その間美術館、画廊巡りは年間300回以上を常としてきた。多くの画廊が生まれては消えていった。画廊は一代と言われる美術界にあって、創業70年は途方もなく、先代から学び受け継いで、さらなる強い思いがなければ本著は生まれなかっただろう。
内容を紹介するには膨大すぎるので、目次にてその概要を察していただきたい。一/絆―愛知の洋画家たち 二/明治期、愛知の洋画家たち 三/大正期、愛知の洋画家たち―「愛美社」を中心に 四/大正末から昭和初期、愛知の洋画家たち―「サンサシオン」を中心に 五/大正末から昭和初期、愛知の在野系の洋画家たち―「緑ヶ丘中央洋画研究所」を中心に 六/愛知、シュルレアリスムの画家たち―「ナゴヤアバンガルドクラブ」を中心に 七/愛知、滞欧の画家たち 八/戦後の愛知洋画壇 そして〈付録一〉/『愛知洋画壇物語』(パートⅠ)の周辺 〈付録二〉/先達に学ぶ―美術への眼差し
名古屋画廊は画商でもある。数人の社員と膨大な美術作品を抱えての企業である。その社長である中山真一氏はどうしてここまで画家を愛し、その絵画を愛し、美術界を大切に思い、はては世界における日本の美術を憂い、期待を寄せることができるのか。こういう方が愛知美術界をいつも国際的視野から俯瞰していると知れば、どれほどにこの地の美術に関わる者は幸せかと想う。
なお『愛知洋画壇物語』(パートⅠ)について著者は、「明治時代から平成まで、おおまかながらも愛知洋画壇の通史として読めるように(略)明治以降の主な郷土画家、戦前(1945年)生まれまでの108名を登場させる。(略)一時間少々もあれば読了できてしまうような愛知洋画壇史(略)A5晩105ページ」と記している。パートⅠもぜひ手にとっていただきたい。