14. 10月 2021 · October 12, 2021* Art Book for Stay Home / no.77 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『キュレーション 知と感性を揺さぶる力』長谷川祐子(集英社新書、2013年)

著者長谷川祐子は、京都大学法学部卒業後、東京藝術大学美術学部芸術学科へ進学、東京藝術大学大学院美術研究科西洋美術史専攻修士課程修了。その後、水戸芸術館学芸員、ホイットニー美術館研修(ACC奨学金)、世田谷美術館学芸員、金沢21世紀美術館学芸課長のち美術館芸術監督、東京都現代美術館チーフキュレーターを務め、併せて多摩美術大学美術学部芸術学科教授、東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科教授を務める。一方で国内外のビエンナーレ、芸術祭をキュレーションするという華々しい活躍で知られる。正に長谷川自身が知と感性を揺さぶってきた存在である。

キュレーションとは何か、同じ作品がキュレーションによってどういう意味を持つのか、これまで行われてきたキュレーションに対して異なる新たな価値観を提示することの興味、意味を指摘している。長谷川は「作品はそのままで存在するのではなく、鑑賞するという体験を通して初めて芸術作品として存在する。どのような空間、文脈、関係性で見せられるかによって、体験は異なる」としている。つまり、芸術作品と鑑賞者の間にキュレーターの副次的クリエーションが大きな意味を持つとしている。

長谷川が多く関わってきた現代美術においては、作家に対してキュレーターは、常に応援団ではなく批評的プロデューサーとして、批判と称賛を交互にくりだすことで、作家の気分と動機を高める。そのやり取りの中で、最後は作家が勝利するというシナリオを演じる。しかし鑑賞者は、そのキュレーションの具体的なワーキングを意識することなく作品の鑑賞に没頭する。キュレーターとはそういう存在である。

『キュレーション 知と感性を揺さぶる力』は、キュレーションは何かという問いを、豊富な体験をもとに具体的に示して答えている。結果、キュレーションもまた重要なクリエーションであることを知る。