13. 7月 2021 · July 13, 2021* Art Book for Stay Home / no.70 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『デザインの場所』河北秀也(東京藝術大学出版会、2014年)

著名なグラフィックデザイナーが書いた『デザインの場所』という書名の本は、「デザインとは何か」「優れたデザインをするために」といったような直接的な指南書ではない。美しい装丁を開くと、右ページにエッセイ、左ページには気分のいい写真で構成されている。写真はナショナルジオグラフィック、サライなどの雑誌に毎月連載、東京メトロ車内ポスターの「いいちこパーソン」広告に使われているもの。「いいちこ」は、河北がその全広告のアートディレクションを務める焼酎の銘柄。

さてエッセイであるが、河北のグラフィックデザイナー、アートディレクター、また東北芸術工科大学教授(執筆当時)としての日常を題材に書かれている。デザインについて特にあれこれ語っているわけではないが、そこにはデザインにとって大切なこと、魅力的なデザインが生まれていく過程、デザイン思考が加わっている。したがってデザインのことを全く意中にない人が読んでも楽しいエッセイだ。たとえば、毎月第一月曜日の夜、いっしょにお酒を飲む会「月一会」のこと。地域の本当の魅力を考え探す「宝さがし」のこと。毎日欠かさない「ウォーキング」のことなど。

エッセイも終わりに近づいたあたりで河北の意見の爆発がある。「小泉首相の頃、(東京)藝大へ数人の官僚が来た。各省から人材を出し、省をまたいで『人がうらやむ日本を作る』ためのチームがつくられたのだそうだ。そして開口一番こう言った。『私達は経済のことだったらよく分かります。一時間でも二時間でも話せます。ところが文化のことはさっぱり分かりません。』産業重点国家を作ってきた日本は大切なものをたくさん失った。こんなことで本当にいいのだろうか。こんなことを、堂々と高級官僚が公に言っていいのだろうか、と思った。」全く同感である、いっしょになって感情が爆発する私がいた。