07. 3月 2023 · 【後編】アーティストシリーズVol.101古橋香「クロストーク 古橋香×鷲田めるろ」 はコメントを受け付けていません · Categories: はるひ絵画トリエンナーレ, 展覧会

前回に引き続き、「アーティストシリーズVol.101古橋香」関連イベント「クロストーク 古橋香×鷲田めるろ」の様子をご紹介します。
後半は、古橋さんの絵具へのこだわりや、油彩と水彩ドローイングの関係についてのお話、さらに来場者からのご質問に古橋さんがお答えする場面もありました。

左《Between Flickers》2022-2023年/右《Kaari》2021年

 

 

 

 

 

 

 

 

 


絵具について

鷲田:ここからは絵具についてお聞きしたいと思います。
古橋さんの作品を実際に拝見すると、写真では分からない絵具の物質感が見えてきます。特に透明感のある絵具がよく使われていて、それがまた層の重なりを生み出しているように思うのですが、この絵具は一般的なものですか?

《Between Flickers》(部分)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古橋:これは油彩用のメディウムというもので、画用液として一般に流通しています。油絵具に混ぜることで速乾性や堅牢性、透明感を増したり増粘剤として使われるものです。
もともと水性の絵具や油彩のステイニング(1)に関心があったのですが、それだけで表現することに限界を感じて、滲みに近い効果を探る中でこのメディウムにたどり着きました。ただ、完全な無色透明ではなく褐色の色味がついているので緑色の絵具と混ぜると濁った感じになってしまい、今もいろいろ調べながら使っています。絵具の流動的な感じがありながら色の濃いところは強調されて、絵具の盛り上がっている部分を通して下の層が見えているような状態を求めています。

鷲田:ひとつの画面の中に、絵具の盛り上がりや筆跡を見せる部分とフラットな部分を意図的に共存させようとされていますか?

古橋:そうですね。画面全体が油絵具でガチガチに固まった状態にはしたくなくて、水彩ドローイングのように一気に描き上げた感じを油彩でも取り入れたいです。以前、大学の先生から私のドローイングについて「(絵から)視線がはね返ってこない感じ」と言われ、その言葉に納得感があって意識しています。それは油彩の塗り残しや滲みの表現にも通じている気がします。

鷲田:具体的には、画面の中の余白や下地のまま残して抜け感があるようなところでしょうか?

《草色と午後、忘れること》(部分)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古橋:はい。そういった絵具のタッチとタッチの間を繋がない描き方も大事にしたいと思っています。油絵具は描き重ねるとどんどん物理的に強くなって抵抗感が増していく。その抵抗感が「はね返ってくる感じ」ということなんでしょうね。強さを求めていないわけではないですが、描いているうちに絵具が別物に成りかわってしまわないように、ということも考えます。

鷲田:そういえば、キャプションの素材欄を見ると綿布のキャンバスを意識的に使っているようですね。一般的に油絵のキャンバスは麻布が多いと思いますが。

古橋:実は麻布の荒い布目が苦手で。紙にラフに描く時のような感覚を油彩でも求めています。

《展示計画のためのドローイング》2022年

 

 

 

 

 

 

 

 

鷲田:透明感のある絵具だけでなく、シルバーやパールなど光を反射する絵具も使っているようですね。《展示計画のためのドローイング》や《F0 のためのドローイング》の水彩ドローイングにもそのような絵具が使われています。

《F0 のためのドローイング》(部分)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古橋:パールの絵具の上に他の絵具をのせることで生まれる諧調を最近試しています。シルバーの絵具は、以前シルバーの上に白で網目を描こうとしたら、ラインがくっきり出てしまい、ぼかしがうまくいかなかったんです。他の絵具とは違う使い方をしなければと考え、今回出品しているF0号の作品に取り入れるまで1~2年くらい温めていました。

《shine. 1.31.2023》2023年

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鷲田:絵画上の「イリュージョン」や「イメージ」に対する「物質」という点で、シルバーは絵具の中でも物質感が強く出るのかもしれませんね。
展覧会名の「点滅-Between Flickers-」は、このような絵具の光り方にも繋がるのでしょうか?

古橋:そういったことも含めて作品の配置による明暗や、作品に描いている望遠と見下ろしの視点の切り替わりを鑑賞者に促すようなイメージからつけました。

 

展示構成について

鷲田:今回の展示では、F0号から幅数メートルの大作まで様々なサイズの作品を展示されていますね。

 

 

 

 

 

 

 

古橋:単純に広い空間なので、これまでやってきたことを一望するような展示にしました。今回は作品のもとになっているスケッチも展示しています。これまでは、たくさん描いたスケッチの中から、水彩絵具でモノクロに転換して、色彩に置き換え、それを油絵具の物質にするというプロセスで制作してきましたが、そのプロセスを見つめ直す状況を展示の中でつくってみたとも言えます。

《F0 のためのドローイング》2022-2023年

 

 

 

 

 

 

 

 

鷲田:実験を積み重ねて洗練させてきた表現から発想を転換する手段として、作品のサイズや手法を変化させることもありますか?

古橋:そうですね、この展示で試したことが今後1~2年の制作に関わってくると思います。

鷲田:大きな作品の場合は、遠くから全体を観ることでイリュージョンやイメージが見え、近づくと絵具の物質感が見えてくる。一方、F0号などの小作品は最初から近づいて観るので物質感に目がいく、という違いがあると思いますが、そういったことは展示構成でも意識されたのでしょうか?

古橋:今までの制作経験から、大きなサイズの絵の一部分を切り取るようにして小さなサイズの絵を描いてみると大抵うまくいかないんです。そういったサイズに対する意識の違いは今回の展示構成にもあると思います。

 

作品のタイトルについて

鷲田:作品のタイトルはどのように決めているのでしょう。例えば《Sleeping Seabirds》は?

古橋:最近は作品の中で具体的に描いていないものをタイトルに付けようと思っています。説明的にはしたくないけど「Untitled(無題)」にもしたくない。タイトルのつけ方も探っているところです。

《Sleeping Seabirds》2022年

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

色について

鷲田:全体的に明るくて淡い色を多用している印象を受けますが、それも意識的なのでしょうか?

古橋:色は組み合わせで考えることが多いです。以前はビビッドな色も取り入れていましたが、色に関する課題に取り組む中で、ジョセフ・アルバース(2)の著書『Interaction of Color』(3)に書かれている色の相互作用を意識するようになりました。確か《草色と午後、忘れること》を制作していた頃です。それから、色単体ではなく色同士の組み合わせに関心を持って中間色を多く用いるようになりました。

鷲田:19世紀末の印象派の作品に見られる筆触分割(4)によって絵画の色調が明るくなったという革新があり、その後、観る人の目と絵具という物質との関係で絵画も成立するという考え方に移行していきます。これまでのお話から、古橋さんの作品もその流れの中にあるのではないかと感じました。

 

 

 

 

 

 

 


<来場者からのご質問>

___会場に入った時、大中小さまざまな絵がいろいろな高さで掛かっていて、そのリズムに不思議な印象を受けました。そのリズムの中に強い色の作品《石拾い、冬、折れた髪》がありますが、この作品は何か意図があったのでしょうか?また、フェンスの網目によって自然に画面分割が生まれると思いますが、それも意識していますか?

古橋:この作品については確かに異質ですね。実は、今回の展示では奥の空間を暗くする計画があり、この作品の配置によって手前と奥の空間を繋ぐ意図がありました。残念ながらトラブルがあり暗色の空間をつくることはできなかったのですが…。
反対側に展示している《Looking up/down, Crevasse》も暗く強い色を使っています。これは、画家の熊谷守一の作品で長女が亡くなった時にお供えした卵を描いた絵(5)があるのですが、卵の乗っているお盆の部分が暗い色を塗り残すように描かれていて、なんだか虚空に繋がってるような感じがいいなと思ったんです。それが、調和を断絶するような強い色を取り入れてみようと思ったきっかけです。
画面分割は描きながら意識しています。

左《石拾い、冬、折れた髪》2020年/右《Looking up/down, Crevasse》2022年

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___手前のフェンスの網目と後ろの背景の位置関係は描きながら決めているのでしょうか?

古橋:はい、同時に進めています。

___どのような風景を起点にして描いているのでしょうか?例えば実際にある自然の風景なのか、想像上の心象風景なのか、あるいはテレビや映像から刺激されて生まれてくる風景なのか。

古橋:自分の作品に対して明確に「風景画」という認識はないのですが、今の住まいの近くにある「筑波山」や田んぼの景色など、日常生活の中で目にしているものが反映されていることはあると思います。

 

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古橋さんの作品を様々な視点で読み解きながらトークを進行してくださった鷲田さん。古橋さんも普段の制作から自然体の言葉が引き出され、貴重なお話をお聞きできたように思います。絵画や作品に対する見方・解釈も深まるトークになったのではないでしょうか。
鷲田さん、古橋さん、参加してくださった来場者のみなさま、ありがとうございました!


(1)画布に絵具を染み込ませながら描く技法
(2)Josef Albers(1888-1976)ドイツ出身のアーティスト。バウハウスのメンバーであり、アメリカへ移住後もブラック・マウンテン・カレッジやイェール大学などで美術教育に携わった。
(3)日本語版として現在以下の2冊が刊行されている。
・Josef Albers著、白石和也訳『色彩構成―配色による創造』ダヴィット社、1972年
・Josef Albers著、永原康史監訳・和田美樹/ブレインウッズ株式会社訳『配色の設計 色の知覚と相互作用 Interaction of Color』ビー・エヌ・エヌ新社、2016年
(4)絵具自体を混ぜ合わせるのではなく、画面上で隣り合う色を見た人が網膜上で重ね合わせることによってひとつの色に見えるようにする技法。
(5)熊谷守一《仏前》1948年 豊島区立 熊谷守一美術館蔵

清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズ Vol.101 古橋 香 展 点滅-Between Flickers-

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04. 3月 2023 · 【前編】アーティストシリーズVol.101古橋香「クロストーク 古橋香×鷲田めるろ」 はコメントを受け付けていません · Categories: はるひ絵画トリエンナーレ, 展覧会

 

公募展「清須市はるひ絵画トリエンナーレ」の受賞者を個展形式で紹介する「アーティストシリーズ」。第101回目は「清須市第10回はるひ絵画トリエンナーレ」で準大賞を受賞した古橋香さんの展覧会です。今回のブログでは、展覧会初日の2/11に開催した古橋さんと鷲田めるろさん(十和田市現代美術館館長・当公募展審査員)によるクロストークの様子をご紹介します。


古橋 香(ふるはし かおり)
1982年東京都生まれ。2004年筑波大学芸術専門学群美術専攻卒業。2007年筑波大学大学院修士課程芸術研究科修了。2022年「3331 ART FAIR 2022」3331 Arts Chiyoda(東京)、グループ展「絵画のゆくえ2022」SOMPO美術館(東京)、2020年「シェル美術賞展2020」国立新美術館(東京)[2018]、2019年個展「泥濘の島」Viento Arts Gallery(群馬)、「中之条ビエンナーレ2019」旧第三小学校(群馬)[2015]、「FACE展2019 損保ジャパン日本興亜美術賞展」損保ジャパン日本興亜美術館(東京)、2017年「BankART Life V‐観光 Under 35 2017」BankART Studio NYK(神奈川)など。

 

鷲田めるろ(わしだ めるろ)
十和田市現代美術館館長、清須市第10回はるひ絵画トリエンナーレ審査員。
京都府生まれ。1998年東京大学大学院美術史学専攻修士課程修了。金沢21世紀美術館キュレーターを経て2020年から現職。専門は現代美術。第57回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館キュレーター(2017年)。あいちトリエンナーレ2019キュレーター。2020年に著作『キュレーターズノート二〇〇七ー二〇二〇』(美学出版)を刊行。


鷲田:鷲田です。よろしくお願いします。
古橋さんの作品を最初に拝見したのは、実は「清須市はるひ絵画トリエンナーレ」よりも前で、2020年に「シェル美術賞」(1)という公募展で審査員を務めた時でした。その公募展で古橋さんが出品されていた作品が《A Hundred Mornings》でしたね。

左より《A Hundred Mornings》2019年/《10.Isolated Point》2021年/《草色と午後、忘れること》2021年

鷲田:「清須市第10回はるひ絵画トリエンナーレ」の作品《草色と午後、忘れること》にも共通していることで私が興味を持った点が2つあります。ひとつは絵画の中に複数のレイヤー(層)の重なりがあること。もうひとつは絵具の物質感。特に絵具が盛り上がっている部分とフラットな部分が画面の中で共存しているところに興味を持ちました。
また、今回の展覧会では、作品自体もひとつの物質と捉えて空間に配置している印象を受け、支持体自体の物質感に対する繊細な意識が感じられました。展示作品は2015年から7、8年間のものですが、一貫したテーマがあるように思います。
まず、この特徴的な網目のような図像はどういったものなのでしょうか

古橋:今日はクロストークの機会をいただきありがとうございます。
この網目は「現象を一番手前に描いてみる」という発想がもとになっています。フェンス越しに風景を眺めている時、目のピントを奥の風景に合わせると手前のフェンスはぼやけて見える。そうやって風景を眺めるのが子供の時から好きで。絵画の中でも、手前にぼんやりした現象を、奥に物質感のある絵具でくっきりとした風景を描けるだろうか、という問いが最初の素朴な動機でした。油絵では手前のものをはっきり描くのがスタンダードな方法としてありますが、それを逆転することができるのか挑戦してみようと思ったのも、きっかけになっています。

鷲田:西洋の遠近法で、手前をはっきりと、奥はぼやけて描く空気遠近法という手法がありますが、その方法を逆転させてみる挑戦とも言えそうですね。

 

レイヤー(層)の重なり

鷲田:近年コンピュータ上で絵を描くことが普及して、社会の中でも「レイヤー」という言葉がキーワードとして使われ出したように思います。コンピュータ上で図像を操作しながら描く行為の中には、透明なシートに描いた絵を重ねて順番を入れ替えていくような感覚があるように思うのですが、古橋さんの作品にも透明な層が重なっているような印象を受けました。その考え方が《dialogue with light》を観て理解できたように思います。

《dialogue with light》2014年

古橋:この作品は和紙を3枚重ねたものにアクリル絵具や水彩絵具で描いています。以前は窓の前に吊るすかたちで展示したこともありました。通常、和紙は絵具が滲まないように目止めという処理をするのですが、この和紙は目止めしていないものを使っているので下の和紙に絵具が滲んでいく。その風合いが面白くて、和紙を重ねる順番を入れ替えたり、窓の光に透かしてみたところ、色あいや細部が違って見えてきました。その見え方を流動的に変えながら糸で縫い合わせてみたり。そのような、入れ替えたり固定したりする制作が心地よくできたと感じる作品です。

テーブル上の作品《F0 のためのドローイング》2022-2023年/壁の作品《dialogue with light》2014年

鷲田:複数のレイヤーの入れ替えを3つの和紙の層によって物理的に行う。この考え方が他の作品でもベースとなっているように思います。
さらに、同様の作品でライトボックスを使って展示しているものもありますね。先ほどは壁に吊るして展示されていましたが、こちらでは後ろから光をあてて展示されている。この展示室は窓がないですが、この展示方法によって、窓の光を透過させた見せ方と透明なレイヤーの意識が繋がるような気がしました。このライトボックスはあえて光を均一にしなかったそうですが…?

古橋:これはボックスの中にイルミネーション(電飾)を入れていて、ムラのある光によって作品の中で見え方が変わる部分と変わらない部分をつくっています。色々な光について考えていたのですが、身近なものを使って日常に近い光があるといいのではないかと思い、今回の展示では取り入れてみました。

左《making green》2014年/右《making red》2014年

鷲田:以前、私が金沢21世紀美術館で勤めていた時に美術館の建物の設計にも携わったのですが、展示室に自然光を取り入れるため天井に半透明のガラスを採用しました。そこで重要だったのが、自然光を拡散して展示室を均質な光で満たすだけではなく、太陽の動きが展示室の中にいても感じられるような解放感や、屋外と屋内の繋がりでした。
その時の経験を重ねてみると、古橋さんがこの展示方法で試みたことは、ライトボックスの面をひとつのレイヤーとして、その奥に別の空間、別の光をつくろうとしたのかなと。そのことで作品の奥に新たなレイヤーが加わるような感じがしました。そして、この状況が垂直になり窓の光になった場合も、窓ガラスを通した向こう側の世界や光の移り変わりによって新たな空間のレイヤーが生まれるのではないでしょうか。

 

実像と虚像

鷲田:ライトボックス上の《making green》では、上下が反転した図像から最初はロールシャッハ・テスト(2)のようなものを思い浮かべましたが、古橋さんから「鏡のように描くことを意識した」とお聞きして、図像を反転させることで(絵画内の)空間を複雑にしているような印象を受けました。
一方《不在の召喚》では水面を感じさせるところがあり、水面の反射による実と虚に加え、水の奥が透けて見えているような二重写しになっている。それらの要素が画面の中に重層的な構成を生みだしているように思いました。

《不在の召喚》2015年

古橋:この作品では最初から水面に反射して映っているものを描きたかったわけではないのですが、(鏡のように描きながら)手の動きをリピート(反復)しているうちにズレが生まれる。そのズレによって、どちらが実か虚か分からない世界を絵画ならつくることができると気づきました。さらに、反射を描くと虚の部分は抵抗感がなくなって奥に行くような効果もあり、そのような選択肢がこの作品から広がったように思います。

鷲田:対して、先ほどの《A Hundred Mornings》では、実と虚の対応があまりはっきりしていないように見えます。しかしカーブしたラインの下は水面を思わせるところがあり、そこが面白いと感じたところでした。

手前の作品が《A Hundred Mornings》

古橋:このカーブの表現は一番苦労したところです。最初はラインがもっとはっきりして絵具の物質感も強かったのですが、最終的には筆跡が付かないように弱めていくことを考えながら描きました。また、おっしゃるように、ラインの上下で完全に反射していると言いきれない状態にしたくて、描いては消してを繰り返していました。

鷲田:フェンスの金網の部分ですが、これまで白色だったのがこの作品では黒い色が使われていることで、光ではなく影のように見えました。それによって、この影をつくっている光源と物体が自分の目よりも後ろにあるような感じがして、この絵を構成するレイヤーの中に自分の目が挟み込まれているような感覚を受けました。

古橋:この色は意識的に変えました。子どもの頃に見ていたフェンスの色も暗い色だった記憶があり、その記憶を追ってみようと思ったのですが、暗い色で描くことは技術的にとても難しかったです。白の絵具は基本的に不透明なので隣り合う色と重ねてぼかしたりする表現がしやすいのですが、黒い絵具ではそれがうまくいかない部分もあり…でも、こういった挑戦はもっとしていきたいです。

 

次回、後編に続きます。


(1)40歳以下の若手作家へ向けた平面作品の公募展。2022年より「Idemitsu Art Award」に名称変更。
(2)心理検査方法のひとつ。インクや絵具をのせた紙をふたつに折って広げた時にできる左右対称の図像を用いる。

清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズ Vol.101 古橋 香 展 点滅-Between Flickers-

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19. 1月 2023 · 「いい作品」ってなんだろう問題 はコメントを受け付けていません · Categories: はるひ絵画トリエンナーレ, 展覧会

「いい作品」って何でしょうか?

美術館で働く人間でありながら(だからこそ?)、その問いに答えるのはとても難しい。

「アーティストシリーズVol.100瀨川寛展」の関連イベント、瀨川寛×高北幸矢(当館館長)クロストークで、作品を審査することについての話が出たので、少し取り上げたいと思います。

瀨川寛さんと高北館長

瀨川さんの作品《耕地/中標津町》は、公募展「清須市第10回はるひ絵画トリエンナーレ」で審査員賞〈高北幸矢〉を受賞しました。

応募総数554点のなかから選ばれた1点。

私は過去2回の審査会に立ち会い、審査員によって作品が選ばれていく過程を目の当たりにして、その都度「いい作品ってなんだろうなあ」と考えさせられました。

そもそも個人の表現に優劣をつけること自体ナンセンスであるという意見もありますが、客観的な視点を得られたり、制作のモチベーションにつながったりと、コンクールにもそれなりの役割と意義があります。今私たちが見ている過去の「名画」も、誰かがどこかで「いい作品だな」と評価したからこそ保存されてきたわけですからね。

しかしその「いい作品だな」と思う基準は、時代や、地域や、人によって当然違います。美術館で見られる作品は「いい作品」なんだろうけど、どこが「いい」んだろう?と思うことは誰しもあるのではないでしょうか。良さがわからないのに「いいもの」として押し付けられる感覚が美術館嫌いを引き起こすのもわかります(自戒を込めて)。

コンクールとなると、それこそわかりやすく「賞」なんかが付けられるので、その作品に絶対的な価値があるように思われがちです。が、作品を選ぶのも人間です。もちろん客観的な判断ができる人材が任を担いますが、価値を明確な数値などに表せない以上(作品評価額などはまたややこしくなるので置いといて)、主観的な好みや考えを排除することは不可能です。というか、それでは審査員の意味がない。アートのコンクールでは「この審査員に見てもらいたい!」という動機で応募する作家さんも多いため、本公募展ではとくに審査員の個性に重きを置いてきました。

上位の賞であっても、必ずしも全会一致で決まるわけではありません。意見が割れて議論が平行線になることもあります。前回の公募で「審査員賞」という個人賞を新たに設けたのも、多数決でない評価方法が必要ではないかという提案を審査員から受けたことがきっかけでした。確かに、10人がなんとなくいいな、と思う作品と、たった1人が涙を流すほど感動した作品を比較して、多数決の原理を採用するのは・・・どうでしょうか。

また、トークで高北館長から述べられたのは「応募されたたくさんの作品のなかで求められるのは他と違う個性」ということです。当然といえば当然ですが、やはり美術の表現にも流行や類似はあります。ましてや数百点の作品を一度にすべて目視するなかでは「他の作品とは違う良さがある」ことが評価ポイントのひとつとなります。技術的に優れていたり、見た目にインパクトがあったりすることはとても素晴らしいですが、そういった要素を備えている作品はたくさんあるので、コンクールにおいてはどうしても本質的な評価ポイントにはなりにくいんですね。

言い換えれば、コンクールでの評価は相対的なものだということです。審査員によって見方は違うし、作品のラインナップ、置かれた環境によって結果が変わることは大いにあり得ます。ここでの「いい作品」とは、あくまで特定の条件下においてということであり、だからこそ具体的な価値をもつのだと思います。


 

さて、グーグルアースなどの衛星画像をもとに俯瞰した大地を描く瀨川さん。写真(デジタル画像)を用いた絵画は現代では珍しくありませんが、多くはモデル・モチーフの記録のためであったり、現実の代替として位置付けられます。一方で衛星画像は、現実の人間には物理的に困難な視界(地球を真上から見下ろし、静止したり自由に拡大/縮小したりする)でありながら手のひらで操作できる日常的なイメージでもあります。現実の風景よりもSNSなどで見る写真画像のほうがむしろリアリティを感じる現代の私たちにとって、見慣れたイメージとしての衛星画像を描いた瀨川さんの作品は現代ならではの風景画と言えるのではないか。そういった写真と絵画の関係性を想起させるオリジナリティが評価されました。

瀨川さんの表現意図は評価ポイントとはまた別のところにあるのですが、第三者が作品を見て思考を広げたり、多様な解釈をすることができるというのも、現代アートにおいては重要な要素かもしれません。

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清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズ Vol.100 瀨川 寛 展「大地と耕地」

 

25. 5月 2021 · 清須市 第10回はるひ絵画トリエンナーレ 開催中! はコメントを受け付けていません · Categories: はるひ絵画トリエンナーレ, 展覧会

現在、当館では「清須市 第10回はるひ絵画トリエンナーレ」を開催しています。
1999年に「夢広場はるひ絵画展」として始まり、新進作家の発掘と顕彰をめざし続いてきたこの公募展。めでたく10回目を迎えました!

今回は全国から554点の作品が集まりました。
応募してくださった皆様、本当にありがとうございました。
これからも作品制作をされる皆様のご活躍ご発展を願っております。

展覧会では応募作品の中から審査で選ばれた28点を展示しています。
入賞・入選された皆様、おめでとうございます。

 

 

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清須市が行っている生涯学習講座「清須アートラボ」、「清須キッズアートラボ」や、「清須アートサポーター」でも本展覧会を鑑賞するプログラムを行いました。
今回はその様子をご紹介します。

 

〇清須アートラボ

清須市在住・在勤・在学の方を対象とした年間プログラム。
今回は10名の方が参加し、みんなで展覧会を鑑賞しました。
多種多様な作品がそろう本展覧会。1人だと「どう観ていいのか分からない…」と思うような作品でも、他の人とお話ししながら観ることで新しい見方や解釈につながります。

 

 

〇清須キッズアートラボ

小学生を対象とした年間プログラム。
今回は「みる・きく・つたえる 気になる作品を紹介しよう!」と題し、展覧会を観て気になる作品を見つけて紹介し合いました。

まずは展示室をまわってじっくり作品を鑑賞。その後グループに分かれて気になった作品の注目したところを話し合いました。
選ぶ作品もそれぞれですが、同じ作品でも見え方や注目するところは様々。子どもたちは自分だけでなく他の人の見方にもふれながら作品鑑賞を楽しみました。

 
最後に、気になった作品について紹介カードを書きました。
紹介カードは展覧会の会期中、当館ロビーにて展示しています。
これからご来場される方はこちらもぜひご覧ください♪

 

〇清須アートサポーター

いつも当館の活動を支えてくださるサポーターのみなさんと鑑賞会を行いました。
みんなでワイワイお話ししながら、ところどころ学芸員が話を織り交ぜて、それぞれのペースで作品を観てまわりました。
最後にみんなで「美術館賞」の投票に参加しました。(「美術館賞」の詳細は後述)

 

※清須市生涯学習講座「清須アートラボ」、「清須キッズアートラボ」の本年度申込受付は終了しています。また、清須アートサポーターは現在メンバーの募集は行っておりません。ご了承ください。

 

――美術館賞について――

「清須市 第10回はるひ絵画トリエンナーレ」では「美術館賞」を設けています。
展覧会を観に来てくださった皆様にお気に入りの作品1点を投票していただいております。
ご来場の際はぜひご参加ください。

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「清須市 第10回はるひ絵画トリエンナーレ」、会期は6/20までです。
皆様ぜひお出かけください♪

清須市第10回はるひ絵画トリエンナーレ

24. 1月 2019 · アーティストシリーズVol.88 田岡菜甫展「全く同じ家」 はコメントを受け付けていません · Categories: はるひ絵画トリエンナーレ, 展覧会

当館恒例企画のアーティストシリーズは、開館当初からおこなっている絵画(平面作品)の公募展「はるひ絵画トリエンナーレ」の受賞者のなかから選抜してご紹介する展覧会です。

新しい審査体制となった第9回はるひトリエンナーレで大賞を受賞した田岡菜甫さんの個展を開催中です。

大賞受賞作《遠吠え》

田岡さんの作品を予備知識なしで見たとき、「なんだかよくわからないけどなんか変??」みたいな感想を抱く人が多いのではないかと思います。

描かれているものはなんとなくわかるけど、どうやって描いているのか、画面上で何をしているのかがとらえがたいというか、ノイズが入った途切れ途切れの音声のような、捕まえられそうで捕まえられないもどかしさを感じます。

田岡さんの関心は、オリジナリティの追求にあります。

芸術作品である以上それは当たり前といえば当たり前のことなのですが、田岡さんの場合は制作の過程がおもしろい。

例えば、

・実物を見て描いた絵と、描いた絵を見ながらそっくりそのまま写した絵を並べる

・両手で同じ題材を同時に描く

・キャンバスの四辺から異なる題材を描く

・自由に手を動かして引いた線を避けながら、別の絵を重ねて描く

・モノの輪郭線の一部を写し取り、脈絡なく別の部分のラインを繋ぎ合わせていく

・見たことのないものを想像で描く

等々、作品ごとにいろいろなことをおこなっているのですが、すべて描くうえでストレスとなるような行為であることがポイントです。

自分の好きなものを描いたり、思い通りに描くことをせずに、あえて「やりにくい」状態で描くことで、オリジナリティ(制御されてもなお発生してくるもの、癖や無意識の領域にあるようなもの)をあぶり出していく、という手法で制作しています。

田岡さんは、完成した一枚のキャンバスではなく、描く前の画材選びから展示空間にすべての作品を配置するところまでを含んで一つの作品ととらえています。

綿密に練られた展示構成のなかでは、見上げるような高さにある作品や、床に平置きされている作品、壁に立てかけられているだけの作品も。

また絵に描かれた題材の実物や造花などのモノも重要な役割を果たしています。

そういう、「なんか変」な展示のなかで、私たちは否応なく作品とモノを見比べたり、見る角度を変えてみたり、「なんでこれがこんなところにあるんだろう?」とか、「隣同士にあるこの作品たちはこういうところが共通しているな」とか、単純に「なんか変な組み合わせだな~」とか、翻弄されたりヒントを得たりしながら鑑賞していくことになります。

(謎の提灯!)

「全く同じ家」という展覧会タイトルには、コピーやトレース、シンクロといったイメージが含まれていますが、展示の内容と合わせて想像を膨らませていただければと思います。

かめばかむほどおもしろい“スルメ作品”ですので、ぜひ会場にて空間全体をじっくり鑑賞してみてください。

 

【開催中の展覧会】

清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズVol.88 田岡菜甫展「全く同じ家」

会期:2019年月1月16日(水)~2月8日(金)

開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)

休館日:月曜日(ただし祝日の場合は開館、翌火曜日が休館)

観覧料:一般200円 中学生以下無料

 

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06. 7月 2018 · 清須市第9回はるひ絵画トリエンナーレ閉幕と美術館賞! はコメントを受け付けていません · Categories: はるひ絵画トリエンナーレ, 展覧会

2018年7月1日(日)をもちまして、清須市第9回はるひ絵画トリエンナーレが閉幕いたしました。

ご来館いただいたみなさま、誠にありがとうございました。

前回のブログでも触れましたが、今回は前回のトリエンナーレに比べてお客様の賛否が両極端に分かれたような気がしています(あくまで個人的な印象ですが)。

好きな作品、嫌いな作品、とても共感できる作品、まったく意味が分からない作品。

いろいろあって当然です。それが公募展の醍醐味でもあります。

美術館はさまざまな価値観を受け止め、生み出す場所でありたいと思っています。

ポジティブなものであれ、ネガティブなものであれ、何かしらみなさまの琴線に触れる体験となったならば、幸いです。

・・・

さて、入館者の投票によって展示作品(入賞、入選)28点から選出される「美術館賞」が決定しました。

干場 月花《青になるまで。》 96票

全投票数493票のうち約2割もの票を集めました。

本作は「きよす賞」とのダブル受賞(きよす賞は入選のなかから選出されていますので、合わせるとトリプル受賞!)となりました。

日常の何気ない風景を切り取り、目の覚めるような青緑色とダークな色味のコントラストで仕上げた新鮮な作品です。

干場さん、おめでとうございます!

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今回は28点の作品すべてに1票以上の投票がありました。

それはどの作品にもそれぞれの魅力があり、また私たちの感性が千差万別であることを裏付けています。

正解のないアートだからこそ、自由に楽しみたいものです

 

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15. 5月 2018 · 清須市第9回はるひ絵画トリエンナーレ、審査会の様子。 はコメントを受け付けていません · Categories: はるひ絵画トリエンナーレ, 展覧会

過ごしやすい季節になり、はるひトリエンナーレの審査会がおこなわれた2月末が遠い過去のよう。。。

受賞作品展が5月4日より開幕しております。→展覧会詳細

各種広報媒体でもお伝えしている通り、第9回を迎えた本展、過去最高の応募点数が集まりました。

※はるひ絵画トリエンナーレとは何ぞやという方はこちら

怒涛の準備を終え、新たな顔ぶれの審査員が揃った審査会の様子を少しだけお届けいたします

 

2018年2月27日(火)・28日(水)@清須市春日B&G体育館

直接搬入・委託搬入で集まった作品は全部で1,200点以上。これらの作品をどうやって審査するかと言うと、

体育館を仮設パネルで仕切り、いくつか通路を設けて作品をずらっと立てかけ、

審査員が通路を歩きながら作品を見ていく、という方法。

第8回から採られた審査方法ですが、審査員が座って作品が流れていくという方式よりも、審査員自身のペースで作品を見ることができ、また近寄ったり離れたり、気になる作品を再度見ることが出来たりとメリットが多いのです。(座って見るより疲労も軽減されるようです。)

審査員は各自付箋を持ち、気になる作品に貼って投票していきます。

もちろん票が重なることもありますが、最初の段階では投票数ではなく、1票でも投票されていれば通過としました。単純な多数決になることを避け、できるだけ多くの作品に可能性を残すためです。

これを何度も何度も繰り返し、少しずつ上位作品を絞っていきました。(一次審査では、作品を並べる→審査→撤去のサイクルを36回!)

高北幸矢館長、岡﨑乾二郎さん、杉戸洋さん、加須屋明子さん、吉澤美香さん、5名の審査員それぞれが1点1点の作品と真剣に向き合っている様子がわかると思います。

1,200点以上という膨大な数の作品を数時間で見るという作業は大変過酷です。しかも作品の個性は十人十色、審査員たちの個性もまったく違います。

作品の中身はもちろん、通過条件などの細かい審査内容についても、その都度議論を重ねながら進めていきました。

 

こうして2日間にわたり、一次~十二次の工程を経て、大賞1点、準大賞2点、優秀賞5点、入選20点、佳作30点が選ばれたのでした。

 

今回の受賞作品は、例年よりも「とがっている」印象を受けるかもしれません。

展覧会が開幕し1週間ほど経ちましたが、「面白い」「斬新」といった意見もあれば、「よくわからない」「理解できない」といった声もあります。

明確な審査の方針があったわけではありませんが、終わってみると確かに、万人が納得するような作品というよりも、今までにない表現や新鮮さ、技術だけでない純真さ、粗削りであっても挑戦的な意思が感じられる作品が選ばれたように思います。上位であってもすべての審査員が推したわけではなく、作家の個性と審査員の個性のぶつかり合いのなかで組まれたチーム編成、のような感覚に近いのではないでしょうか。(ここらへんの詳細はぜひ展覧会図録の「座談会」をお読みください!)

自分だったらこの作品を大賞にするのに、とか、この作品のどこが良いんだろう?とか、審査員に代わって作品を鑑賞することができるのも公募展の面白さかもしれません。

会期中には来場者による「美術館賞」の投票も受け付けています。多種多様な作品28点のなかから、ぜひお気に入りの作品を選んでいただければと思います。

 

また、予想をはるかに超えた応募数に対し事務作業が追い付かず、受付確認や作品返送が遅れるなど応募者の皆さまには大変ご迷惑をおかけいたしました。

この場を借りて、お詫び申し上げます。

 

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【開催中の展覧会】

清須市第9回はるひ絵画トリエンナーレ

会期:2018年5月4日(金・祝)~7月1日(日)

開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)

休館日:月曜日(ただし祝日の場合は開館、翌火曜日が休館)

観覧料:一般300円 中学生以下無料

 

 

 

06. 1月 2018 · アーティストシリーズ Vol. 84 生川和美展 はコメントを受け付けていません · Categories: はるひ絵画トリエンナーレ, 展覧会

2018年1月6日(土)

あけましておめでとうございます。

今年も多くの方にアートの魅力を発信できるよう頑張っていきます!

さて、今年もやってまいりました。

そう!!

企画展「アーティストシリーズ」の時期です。

毎年冬に開催される展覧会になります。はるひ絵画トリエンナーレ(2007年までビエンナーレ)

入賞・入選した作家を取り上げるシリーズの第84弾となります。

つまり84人目!!

当館では昨年12月20日(水)より「アーティストシリーズ Vol. 84 生川和美展」を開催しています。

生川和美さんは、2015年に開催された「清須第8回はるひ絵画トリエンナーレ」で入選した作家です。

ああa入選作品《Rose tree》

鮮やかな色をしたバラの花、葉っぱの緑の上にふわふわと漂っているようなイメージを浮かばせます。

生川さんの作品は、写実的な表現なので「写真みたい!」と思われる方もいるかもしれませんが、

カメラのように、一点のみにピントを絞ってはいません。

画面全てに、または複数の箇所にピントを当てています。

というのも、生川さんは全ての花や葉は等価値だと考えているためです。

描かれている花のひとつひとつに思い出があるので、全ての花が主役となります。

作品制作には写真を用いていますが、膨大な写真を元に、自身の中でそれらを再構成して作品に落とし込んでいるため、

写真とは異なる、ちょっと違和感のある空間になっています。

「 デッサンをとるように写真を撮ります 

生川さんとお話をしているときに伺った興味深い言葉です。

今回の展示では、生川さんの表現の変遷をたどってもらおうと、ほぼ制作年順に並べてみました。

花のクロースアップを描いていた時期から、次第に距離をとって花を捉えるように。

視野がひらけてきた現れといえます。

そして、本日14時よりアーティストトークを開催しました。

作家本人の口から作品についてお話を伺える絶好の機会です。

たくさんの方にご参加いただきました。ありがとうございました。

アーティストトークでは、作品を描いていた頃のエピソードや、

モチーフを選ぶまでの過程(生川さんの場合、まず、頭のなかに色や雰囲気のイメージが浮かび、

そのイメージに合うモチーフを探しに行く)などを伺いました。

やはりアーティストトークの醍醐味といえば、作家の作品に対する思い入れを感じられるところです。

鑑賞者は作品を一瞬で見ようと思えば見ることができますが、作家はその作品に何か月または何年、何十年と時間をかけて向き合っています。

学芸員でさえ計り知れない思いが絵具層のなかに、または一本一本の線に込められているのです。

アーティストトークがはじまる前は緊張していた生川さんですが、終盤には緊張も解けたようで、とても楽しそうに話されていました。

アットホームで温かさに満ちた時間が流れていました。

生川和美展は1月17日(水)までです。

みなさまのお越しを心よりお待ちしております。

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【開催中の展覧会】

清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズ Vol.84 生川和美展

会期:2017年12月20日(水)~2018年1月17日(水)

開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)

休館日:月曜日(ただし祝日の場合は開館、翌火曜日が休館)

観覧料:一般200円 中学生以下無料

 

 

 

 

 

 

07. 12月 2017 · はるひ絵画トリエンナーレ Q&A はコメントを受け付けていません · Categories: はるひ絵画トリエンナーレ

清須市第9回はるひ絵画トリエンナーレ、12月25日まで応募受付中です。

お問合せの多い事項についてお知らせいたします。参考にしてくださいね。

 

Q.応募規格に「搬入出及び審査の際の作品保護のため、仮額等で額装すること」とありますが、どういうことですか?

A.作品を一時的に保管する際はまとめて立てて並べますので、保管時に作品画面が他の作品に接触しないよう、画面より高さのある額で保護していただく必要があります。

フック・ヒートン等の吊り金具も、立てて並べたときに他作品に接触する恐れがありますので付けないでください。

また審査は作品を壁に立てかけた状態でおこないますので、作品を自立させるためにも、額装をお願いいたします。

(作品画面の保護・自立が確実になされていれば額の素材や額装の方法は問いません。なお、入賞・入選し展示する際はご希望により額を取り外すことも可能です。)

 

Q.応募料は一律10,000円ですか?

A.はい。応募点数はお一人3点までとなっていますが、作品点数にかかわらず応募料はお一人10,000円です。

 

Q.応募票に口座名義を記入する欄がありますが、なぜ必要なのですか?

A.応募料のお振込みがなされたかどうかを、応募票にご記入いただいた口座名義と照らし合わせて確認します。

応募者本人の名義での口座をお持ちでない方などもいらっしゃることを考慮して、応募料をお振込みいただく口座名義のご記入をお願いしています。

 

Q.委託搬入って何?

A.遠方などの理由で応募者本人が作品を会場に搬入できない場合、輸送業者を利用して搬入する方法です。

業者の指定はありませんので、ご自身でご手配ください。なお輸送中の作品破損等については責任を負いかねますので、安全な梱包はもちろんのこと、必要な方は運送保険も検討されてもよいかもしれません。

(輸送・保険ともに応募者の負担となります。)

搬入日時と場所をよくご確認いただき、日付・時間指定でお送りください。指定日時(2018年2月23日(金)10:00-16:00)以外は受付不可です。

 

Q.委託搬出って何?

A.遠方などの理由で応募者本人が作品を搬出できない場合、輸送業者を利用して搬出する方法です。

主催者が搬出を委託するヤマトロジスティクス株式会社を通じて、応募者負担(着払い)で返送します。

料金等は社の規定に則しますので、ご不明点はヤマトロジスティクス株式会社中部美術品支店(TEL:0568-51-3961)まで直接お問い合わせください。

 

Q.応募後に作品点数の追加はできますか?

A.できません。

応募受付が完了した時点で受付番号を発番していきますが、同一応募者の作品1点ずつを通し番号で管理していますので、他の応募作品の受付に影響が出てしまいます。

逆に作品点数を減らすことは可能ですが、点数にかかわらず、応募後の内容変更は極力ご遠慮ください。

万一やむを得ない理由で内容を変更する場合は、事務局(清須市はるひ美術館:TEL052-401-3881)までご連絡をお願いいたします。

 

 

応募要項をよくお読みいただき、必要箇所に内容をご記入&2か所に切手貼付をお忘れなく、申し込みしてくださいね!

たくさんのご応募、お待ちしております!

http://www.museum-kiyosu.jp/triennale/index.html

 

 

 

 

 

26. 11月 2017 · はるひ絵画トリエンナーレ、もうすぐ応募受付開始です! はコメントを受け付けていません · Categories: はるひ絵画トリエンナーレ, 未分類

あの一大プロジェクトが3年ぶりに帰ってくる(絶賛てんやわんやで準備中)・・・そう、「トリエンナーレ」。

「トリエンナーレ」といえばアート界隈の方や東海のみなさまにとっては「あ〇ちトリエンナーレ」かもしれませんが、、、

当館にとって「トリエンナーレ」といえば「はるひ絵画トリエンナーレ」!です!!

開館当初から、当館の各事業として開催している全国公募展。

1999年の開館記念でおこなわれた「夢広場はるひ絵画展」からスタートし、おかげさまで今回第9回を迎えることとなりました。

応募受付は12月1日(金)からです。みなさんもう準備は整えられていますでしょうか!?(→詳細はこちら

知らない方、迷っている方のために、トリエンナーレに応募すべき理由を改めてお伝えします。

①確かな実績

8回の開催を重ね、高いレベルを備えた新進作家の登竜門として広く認知されています。応募数は右肩上がりに伸びており、前回の応募数は506名、1021点。厳しい審査をくぐり抜けた受賞者の多くが、現在国内外で活躍しています。

【過去のトリエンナーレ】

【過去の受賞者たち】

②豪華な審査員(←NEW!)

今回より審査員メンバーが大幅に変更することとなりました。これまでの先生方も豪華すぎましたが、今回もすごい。これだけのメンバーが揃うのは、これまで築いてきた実績があるからこそ。

画家、デザイナー、批評家、キュレーターと、多様な視点から幅広い領域をカバーされる方々ばかりです。

【開催概要】スクロールすると審査員のご紹介があります。

③表現技法不問(←NEW!)

はるひ「絵画」トリエンナーレと銘打っていますが、平面であれば基本的になんでもOKです。日本画、洋画、アクリル画、版画、ドローイング、写真、デザイン、染色、刺繍、切り絵、、、

昨今アートの領域横断的な表現が多いことへの対応です。展示するキャパや審査の関係で守っていただきたい点はありますので、細かい規定はご確認くださいね。

【応募規定】

④年齢制限なし

新進作家の発掘といえど、眠っている才能に年齢制限はありません。団体展などの所属も関係なし。真の実力を見出します。

⑤個展のチャンスがある

当館では、トリエンナーレで高い評価を受けた作家を個展形式でご紹介する「アーティストシリーズ」を毎年恒例の企画展として組み込んでいます。実力ある作家を発掘するだけでなく、育成・顕彰することも美術館の役割。受賞作以外の作品を展観することで、鑑賞者はより作家のことを深く知ることができますし、作家にとっても改めて自身の画業を俯瞰できる貴重な機会となっています。

12月20日からの「アーティストシリーズ」では第8回展の入選者のなかからご紹介します。

【生川和美展】 【川邉耕一展】 【野中洋一展】

 


 

この18年の間には本当にいろいろなことがありました(私が関わっているのはここ数年ですが…)。

2年に一度のビエンナーレ形式から3年に一度のトリエンナーレ形式に変わったり、審査員の何名かが交代されたり、スタッフが幾度か入れ替わったり、市町村合併で美術館が春日町立から清須市立になったり。

応募規約など細かいところも微妙に変遷していて、伝統と革新のバランスを保ちながら、その都度時代に即したよい公募展であろうと努力してきたことがわかります。

全国的に文化行政が厳しい風にさらされているなか、いろいろなピンチに遭遇しながらもなんとか継続してこられたのは、美術館に携わってきた多くの方々やトリエンナーレ関係者、そして作品を応募してくださる作家のみなさんや作品を見に来てくださるお客様のおかげであることを実感します。

アーティストシリーズと同時開催の収蔵作品展では、これまでの大賞作品を一堂に展示する予定です。

「現代アートはわからない」「知らない人の作品だから」と言わず、現代に生きる私たちだからこそ、現代にいままさに生きて描いている作家の作品を見るべきなんだと思います。

どうぞお楽しみに!&たくさんのご応募お待ちしております!

 

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