
企画展「アーティストシリーズ+ 観察のしるし」では、過去の「清須市はるひ絵画トリエンナーレ」で入選、佳作となった方々から、清水彩瑛さん、土屋裕央さん、平松絵美さんをグループ展形式でご紹介しています。
今回のブログでは関連イベント「アーティストリレートーク」より、平松絵美さんのトークをご紹介します。

平松絵美(撮影:山田聡)
アーティストリレートーク
日時:2026年7月19日(日) 13:30~(1時間ほど)
出演:清水彩瑛、土屋裕央、平松絵美(いずれも出品作家)
聞き手:加藤恵(清須市はるひ美術館学芸員)
展示風景・作品写真|撮影:守屋友樹
加藤:ここまで2人の作家さんの作品を観てきましたが、平松さんの展示ではまた雰囲気が変わります。平松さんは会場下見に来てくださった時からこの展示プランを具体的に構想されていらっしゃいました。まず、今回の展示構成を考えた理由やアイデアの元は何かありますか?
平松:最近の作品では「逃げてきた娘が見た景色」というテーマをもとに制作をしていて、物語が感じられる空間にしたいなと思い構想しました。
加藤:「逃げてきた娘」は一つのキーワードになると思いますが、平松さんの中でどういった存在なのでしょうか?
平松:架空の人物ではあるのですが、普段、絵を描く時は自分に起こったことや身の回りのことを絵に落とし込もうと思っているので、「娘」と言いつつそれは自分ではないかと思っています。あと《娘が残したスケッチ》を観た人から「娘さん絵が上手ですね、何歳ですか?」とよく言われるのですが、実際に娘はいません(笑)。

《娘が残したスケッチ》鉛筆、紙など サイズ可変 2026 年

《娘が残したスケッチ》部分
加藤:今回もスケッチや小物などを取り入れて平松さんが思い描く「逃げてきた娘」の存在が感じ取れるようなインスタレーションになっていますね。「逃げてきた」という言葉もとても気になりますが…。
平松:逃げたくなることってないですか?何もかも捨てて逃げたい気持ちというか、そういう絵が描きたくて。《雨は天から横には降らず 風の吹きよで横に降る》では、トランクにいるものだけ詰めて急いで走ってきた娘の荷物と、その周りに集団で生きるものたちの象徴として、ミツバチやイワシ、草だったりを描いています。娘の孤独を引き立たせるための周りの集団、孤独と集団を意識して描いています。

中央:《雨は天から横には降らず 風の吹きよで横に降る》岩絵具、矢車、雲肌麻紙、パネル 112×194cm 2023 年

奥:《机の上の怖い話》岩絵具、矢車、雲肌麻紙、パネル 112×194cm 2025 年
手前:《地上の家》紙、木など サイズ可変 2025 年~
加藤:展示では進みながら物語の場面が展開していく構成になっていて、右手の木製チップが敷き詰められている壁が地上、反対の壁は地上から机の上、そして天国へ行く場面。その奥に並んでいる屋根のついた作品は、娘が地上から天国へ行く時に窓から見えた風景ということですが。
平松:楽園の暮らしぶりを窓から覗いているイメージにしたくて作品に屋根をつけました。私の絵は現実にあるものを描いているのですが、描いた絵の世界は実際にはあり得ない。カラスが布を被っていたり、ちょっと現実にはないなと思い、私って楽園を描いているんだと気づいた時があって。それからは「楽園を描いています」と言うようにしています。楽園は楽しい世界だといいなという願いも込めながら。

展示風景
加藤:もともと楽園のイメージを描いていたわけではなく、平松さん自身が描いてきたものから楽園を見い出した、そのアプローチは面白いですね。そして、私が特に気になったのは絵の描き方です。平松さんは美大で日本画を専攻されてそれが表現の素地になっていると思いますが、絵画ではいろいろなものを全て均一に描いているように見えます。
平松:日本画って平面的で線の芸術とも言われるのですが、輪郭線をとても大事にしています。植物を採ってきて、右手に鉛筆、左手に植物を持って枯れる前に描く。それを塗り絵みたいに塗るとこのような絵になる。描くだけではなく、もみ紙という手法で紙にシワを寄せて、わざと水分の多い絵具を乗せてそのシワが効果的に出るような表現も取り入れています。
加藤:あくまでも実際に見たものや現実にあるものを描いているけれど、その組み合わせは非現実的な感じがします。《雨は天から横には降らず 風の吹きよで横に降る》ではイワシが木に吊り下げられていて、ちょっと儀式的な雰囲気も感じられます。このようなモチーフの取り合わせはどのように決めていますか?
平松:身の回りで気になったものを組み合わせて描いたら勝手にこうなる、という感じで、「こんな絵を描こう」という構想はありますが、モチーフは自分の好きなものを組み合わせて最終的にどう見えるかはあまり考えずに描いています。

奥:《机の上の怖い話》岩絵具、矢車、雲肌麻紙、パネル 112×194cm 2025 年
手前:《地上の家》紙、木など サイズ可変 2025 年~
加藤:カラスが複数の作品に登場していますね。どのカラスも赤い糸をくわえています。
平松:カラスは私の中で「毒」を象徴するものとして描いていました。人の悪口とか、自慢話より悪口のほうが聞いていて面白かったりするので、そういう「毒」を絵の中にも出せたらいいなと思って描き始めたのですが、観た人から「可愛いね」と言われることが多くて。自分でもよく分からなくなってきました(笑)。赤い糸は絵の中に繋がりを持たせたくて、《机の上の怖い話》では、上の世界が楽園、下の世界が地上、赤い糸はその橋渡しをしている。『蜘蛛の糸』じゃないですけど、楽園と地上を結ぶものなのかなと最近は思っています。
加藤:赤い糸は複数の作品に描かれているので、作品同士を繋ぐものでもあるのでしょうか?
平松:一つの展示空間の中で物語をつくりたいので、そういう意味では繋がっていると思います。

展示風景
加藤:絵画と《地上の家》やトランクなどの小物を一緒に展示することで、絵画の世界と現実の世界を同時に見せているようにも感じます。
平松:私自身も絵本の中に入り込みたいとか考えることが好きで、自分の作品も空間の中に入って感じてほしいと思ってしまうようです。《地上の家》では、木製の家はつくってもらい、窓や屋根の配置を自分で考えて制作しています。全部違うかたちで今513個くらいあります。煙突にさしている枝がうしろの絵と重なって影が絵や壁に映ったりすると、自分の思い描いた空間ができていると感じて嬉しくなります。

《地上の家》

展示風景(撮影:会亀千尋)
加藤:ブランコは《生まれ変わる前に落とし物をした》にも描かれていて、ここでも絵と現実の世界が繋がっていますね。
平松:ブランコは揺らすと影が面白くて。楽園で遊んでいるような光景に思いを馳せながら観ていただければと思います。
清水(出品作家):特にブランコは絵の世界を体感できて面白いなと思いました。カーテンやブランコの展示構成は会場を見てから決めたのですか?
平松:そうですね。どのような布を使うかなど会場を見て具体的に決めていきました。
土屋(出品作家):絵画と立体はそれぞれ独立して展示することは考えないですか?
平松:それだと雑貨っぽくなりそうで、絵だけを展示することはありますが、立体はあくまでも空間をつくる要素として、立体越しに絵があることが大事だと思っています。

奥:《生まれ変わる前に落とし物をした》岩絵具、矢車、雲肌麻紙、パネル 80.3×130.3cm 2026 年
平松:今回、一番奥に展示した《生まれ変わる前に落とし物をした》は、最近描いた中では割と大きな絵で、ブランコに1枚だけ黒い羽が乗っています。それで、3年前に描いた《雨は天から横には降らず 風の吹きよで横に降る》のカラスは《生まれ変わる前に落とし物をした》から生まれ変わったカラスだったのではないかと気づいて。今回、この展示空間をつくって(この2つの作品が)繋がったことが嬉しかったです。
・・・
<来場者からのご質問>
___《雨は天から横には降らず 風の吹きよで横に降る》の魚が、パッと見た時は泳いでるように見えたのですが、よく見ると木からぶら下げられている。その表現がとても新鮮でした。
平松:その魚たちは群れで旅をするイメージで描いています。
絵画とそれらに関連する立体や小物によって展示空間をつくり出した平松さん。多様な表現は日常で起こる体験や感情を見つめ、自分自身の作品を振り返ることからも生まれているというお話が印象的でした。平松さん、ありがとうございました。
「アーティストシリーズ+ 観察のしるし」は9月3日(木)で終了いたしました。
たくさんの方にご来館いただきありがとうございました!
清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズ+ 観察のしるし
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