26. 3月 2020 · 【卒業ブログ】展覧会から溢れる学芸員のカラー はコメントを受け付けていません · Categories: その他

2020.3.26

本日をもって、学芸員Fは清須市はるひ美術館から卒業します。

新型コロナウイルス感染の拡大防止のため、今月末まで臨時休館中・・・。

来館者の方やサポーターの方にもう会うことなく、去るのか・・・と、大変名残惜しく、

ブログで思いを綴っていこうと思います

このブログでは、Fが企画してきた展覧会を振り返りながら、

展覧会から滲み出る担当学芸員の個性・こだわり・モットーの面白さをお伝えしたいと思います。

また、学芸員について少しでも馴染みを持ってもらえる機会になれば幸いです!

わたしが、清須市はるひ美術館にきたのは2016年12月のことです。

(それまでは大学院で19世紀フランス美術(特にドガ)の研究をしていました。)

ここでわたしが企画・担当した展覧会は・・・

〇収蔵作品展「四季と日本画、ふたつの移ろい―星野逸朗コレクションを中心に―」

〇特別展「イラストレーター 安西水丸―漂う水平線(ホリゾン)―」

〇企画展「清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズ Vol.84 生川和美」

〇企画展「清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズ Vol.86 野中洋一」

〇特別展「元永定正展 おどりだすいろんないろとかたちたち」

〇企画展「清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズ Vol.87 田中秀介」

〇企画展「清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズ Vol.89 堀至以」

〇収蔵作品展「どこからみる?彫刻・立体作品の魅力」

〇企画展「清須ゆかりの作家 岡崎達也展 セラミックデザインとクラフト」

〇収蔵作品展「はるひ美術館の足跡」

〇企画展「嗅覚のための迷路」

〇企画展「清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズ Vol.92 羽尻敬人」

〇収蔵作品展「つなげる、過去から未来へー作品の修復ー」

みなさん、いくつ来ましたか?

当館に在籍している学芸員は2名。

1年に開催する展覧会(6本くらい)を交互に担当します。

(したがって、大体1年3本を担当することに!)

ほとんどの方は、展覧会を見にいって「これは学芸員の○○さんが担当したんだ~」と

考えることはないと思います(同業者間では、結構考えたりします)。

作品の魅力を引き出す企画・展示を考えるのは学芸員の仕事では当たり前ですが、

やはりわたしたちも人間。担当者のこだわりや好みはあります。

作品の見せ方、空間作りは個人によってどうしてもかわってくるのです。

わたしが展示構成を考えるときには、まず、第一印象を大切にしています

展示室に足を一歩踏み入れたときの「わぁ!」という気持ち。

なんかよくわからないけれど「楽しそう!」と思ってもらえる空間。

わくわくした気持ちで美術館に来てほしいと常に思っています。

たとえば・・・

▲元永定正展(2018)の展示室2

本展では、メインとなる作品をはじめにもってきて、来館者をお出迎え。

入ってすぐに壁を立てて、全体をすぐに見渡すことができないようにしました。

そして壁の向こうには、広がる色の海

章解説は、ポンジ生地のものを天井から吊るしました。

 

実はこれ、前年に開催した安西水丸展でもやっていました(笑)

▲安西水丸展(2017)

そう。わたしは、これがだいすきなんです!

静的な展示室で風に揺れる章解説。

動きのあるものが存在すると、展示室の空気がスッと抜けるような、

なんともいえない安心感がでていいなと気に入っています。

(とはいえ、動くから少し読みにくいですよね・・・すみません。)

また、ここでは・・・

▲元永定正展(2018)の展示室1

わたしの優柔不断さが・・・(笑)

本当にいいものって、ひとつに決められない。

そこはいっそ欲張りになって、全部みせちゃえ!と考えています。

▲元永定正展(2018)、岡崎達也展(2019)のフライヤー

これらも、決められなかった例のひとつです。

バリエーションのあるフライヤーになりました。

元永定正展に関していえば、左は大人向けで、右は子ども向けのつもりでつくりました。

フライヤーを手に取るときも、選べた方が絶対に楽しい!

展覧会が開幕する前からも楽しいという感覚を味わってもらいたかったのです。

さて、

「で、Fともうひとりの学芸員Oとの違いは!?」と気になりますよね。

このブログを書くにあたって、過去の展覧会の写真を見直したり、

Oさんに「展示のときに気にしていることは?!」と(いまさらながら)聞いたりして、

(後任の学芸員Iさんがナイスなことをいってくれたおかげで!!)わかってきたのは、

「調和」の違いでしょうか。

わたしの展示は、

建物や展示室に作品が馴染むような「空間を統一する調和」だとすると、

学芸員Oさんの展示は、

建物や作品の新たな面をみせるような「メリハリある調和」といえるのかもしれません。

 

学芸員Fの場合・・・

▲元永定正展(2018)

トイレの鏡に丸いカラーシールで、絵本『ころころころ』にでてくるシーンを再現。

▲いろんなかたちと素材を楽しむスペース。

\わたしは、館内全体を展覧会カラーに染めるのが、とにかく好きでした。

(ボールと友だち・・・ならぬ、建物と友だち

「○○の空間には、こういうスペースが似合いそうね」とか考えたり・・・

展覧会をみて得た気づきや感動、学びを展示室のなかだけで完結させたくない。

家まで、(なんなら今後の人生まで)持ち帰ってもらえればと思って企画しました。

 

一方、学芸員Oさんは・・・

MAYA MAXX展(2019)

作品に合わせて片方の壁色を黒色に!!

宮脇綾子展(2017)

一点一点、作品の魅力を損なわないように、かつ単調にならないように、展示に緩急を付けています。

(ちなみに、学芸員Oさんは段違いに展示するのが好き

▲宮脇綾子展と同時開催していたモンデンエミコ展(2017)

モンデンさんが1日1点ずつ制作している《刺繍日記》。

カレンダーに見立てて展示することで作品の日記的要素を提示したり、

▲モンデンエミコ展(2017)

作品にも使われている赤い糸を作品を囲むように巻き付け、

結界のかわりにしたり。

(ここでは、モンデンさんの一日一日の出来事に注目してもらいたかったようです。)

 

一言断りをいれておきたいのですが、

もちろん個人の「好き」ですべて展示しているわけでは決してありません。

「どの作品を展示すべきか、その作品をどうみせるか」が第一にあって、

その手段としてよく使う(好きな)方法があるというお話になります。

そこには担当学芸員の個性が溢れていて、そこが魅力だったりするのだろうと思います。

それから、展覧会の企画内容について。

とりあえずわたしは、「やったことのないことをやってみたい!」という挑戦心が

強くありました。

▲収蔵作品展「どこからみる?彫刻・立体作品の魅力」

当館は、公募展「清須市はるひ絵画トリエンナーレ」をベースに作品をコレクションしているため、収蔵作品は平面(絵画や額に入った作品)がほとんど。

わずかに収蔵している立体作品を展示する機会はあまりありませんでした。

▲収蔵作品展のイベント様子

「彫刻をあらゆるところから見てほしい」と思い、展示室で横になるワークショップを企画・・・!

大変シュールな光景となりました。

 

▲嗅覚のための迷路(2019)展示室2

「嗅覚のための迷路」展では、

スマートフォンやパソコンといったデジタル画面をみることに辟易し、

視覚情報ばかりで目も心も疲れた・・・という日常での気づきと、

パリの香水博物館での経験が加わり、「嗅覚をつかった展覧会がしたい!」と

企画を進めていきました。動機はほんの些細なことなんです。

進めるうちに、越えなくてはならない壁がいくつも出てきました。

たとえば、

「香りアレルギーの方が来た時の対応はどうするのか」

「何かあったときは誰がリスクをとるのか」

「木で迷路をつくるには、予算が足りない!でも展示したい!」

(実際には、当初予定していた作品3点のうち2点を変更することに)

展覧会が開幕できるか、白紙になるか、

それは結構、担当学芸員の熱量&愛にかかっているのかもしれませんね。

(もちろん、作家さんやまわりの力も必要ですが!あとは運!!)

学生の頃から、ずっとなりたかった学芸員。

そのデビューがはるひ美術館で本当によかったと思っています。

わたしは本日で、はるひ美術館とさよならですが、

学芸員Fの担当した展覧会が好み!という、そこのあなた!!

近い将来、「この展覧会気になる~」と思ったものが

実はわたしの企画だったりして・・・!なんて。そうなるといいですね。

 

展覧会は一人では決して作り上げることはできません・・・

いつも応援してくださっている、はるひ美術館ファンの皆様!!

(美術缶アンケートやTwitterなど全部読んでおります!心の支えでした。)

収蔵作家の皆様に、サポーターさん、展覧会に携わってもらった全ての方々、

そして、美術館スタッフの皆さん。

本当にありがとうございました!

はるひ美術館で学芸員として過ごせてしあわせでした。

またどこかでお会いしましょう。

 

清須市はるひ美術館学芸員

藤本 奈七

 

 

 

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