11. 6月 2016 · 第45回館長アートトーク はコメントを受け付けていません · Categories: 教育普及

2016年6月11日(土)

 

高北幸矢館長アートトークはここ最近、目に見えてお客様が増えてきました。

大変嬉しいことです。館長も、準備とトークにますます力が入ります。

 

今日のテーマは「印象派オーギュスト・ルノワール、薔薇色の絵画」。

偶然かどうか、館長のシャツも薄い薔薇色でした。

 

ルノワールはフランス中部リモージュの町に、仕立て屋の父とお針子の母のもとに生まれます。

3歳でパリに移り、画業のはじめには、磁器の絵付け職人として働きました。

ちょうど、東海地方の名だたる画家たちが、若き日にノリタケで絵付けをしていた例がたくさんあるのと同じですね。

 

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↑ これは、ルノワールが絵付けした壺。よく残っていたものです。

その後、機械化の波で職人仕事がなくなり、美術学校や画塾に通って画家となります。

ただ、職人としての経験は、印象派の画家のなかでも穏健なルノワールの画業に影響していると考えられています。

 

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↑ こちらは印象派の画家アルフレッド・シスレー夫妻の肖像。

人物画に定評があるルノワールですが、とりわけ人生の喜びに満ち溢れた、幸せそうな人々を描くのが得意でした。

温厚で画家仲間に慕われたらしく、睡蓮を描いたことで名高いクロード・モネともイーゼルを並べて

パリ郊外アルジャントゥイユで余暇を過ごす人々を描いていたりもします。

 

 

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↑ 現在国立新美術館で開催中の「ルノワール展」にも出品されている名作《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》。

当時パリっ子たちの間で流行っていたダンスホールでのひとこまを描いたものです。

着飾った人々が屋外で楽しげに過ごす様子を、すばやいタッチでとらえています。

実は、この同じ場所を描いたゴッホの作品が残っていますが、建物の外観を描いたやや寂しげな作品です。

余暇の喜びを画面にみなぎらせたルノワールとは対照的。

 

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また、同じこの場所を描いたロートレックの作品もあります。

こちらは、都会の疲れが出たような、退廃的な雰囲気。

こうして比較して見てみると、ルノワールが何を重視して描いたのかが分かります。

 

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↑ これはルノワール(左)とセザンヌ(右)が描いた、南仏のサント=ヴィクトワール山。

二人は家族ぐるみで仲良くしており、互いの家を訪ねて交流し、作風も影響しあいました。

けれど、目指すものはそれぞれ違います。ルノワールは純粋に風景を美しく描くことに重きを置き、

セザンヌは画面をいかに構築するかという造形的な関心が強かったことがうかがえます。

 

 

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今回の館長アートトークは、モネやゴッホ、セザンヌといった画家たちとの比較を通して、ルノワールの個性を際立たせるものでした。

ルノワールがこれほどまでに日本人に親しまれ、愛される理由は、何よりも画面に人々の幸せを捉えようとしたことにあるでしょう。

幸せそうな家族の肖像、友人と集いおしゃべりやレジャーを楽しむ人々の姿は、

100年を経てなお生の煌めきを放ち、眺める私たちの心まで満たしてくれるのです。

 

 

次回の館長アートトークについてはこちらをご覧ください。

 

 

 

【開催中】

清須ゆかりの作家

中川幸作写真展 命が煌めく瞬間

会   期:2016年4月23日(土)~6月14日(火)

開館時間:10:00~19:00 (入館は18:30まで)

休 館 日:月曜日

観 覧 料:一般300円、中学生以下無料

19. 5月 2016 · 第2回清須アートラボ はコメントを受け付けていません · Categories: 教育普及

2016年5月19日(木)

 

今年度2回目の清須アートラボは、美術講座(西洋美術編①)ということで、

1600年頃のイタリアで活躍した画家カラヴァッジョを取り上げました。

 

カラヴァッジョ展

現在、東京・上野の国立西洋美術館で「カラヴァッジョ展」を開催しているのをご存知でしょうか。

西洋美術館は先日、ユネスコの世界遺産に指定されたことでも大注目されていますね。

カラヴァッジョの作品は、日本ではなかなか見ることができないので、とっても貴重な機会です。

 

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カラヴァッジョの特徴を簡単に言うと、

①当時の衣服を着た人々の日常の情景を描いたこと

②人や物を写実的に描くのが抜群にうまかったこと

③光と影のコントラストが強い、これまでにない新しい描き方をしたこと

 

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今回は、上記の展覧会にも出品されていない、イタリア・ローマにある

教会のために描かれた大作(宗教画)を中心にお話しました。

なじみの薄い、キリスト教の聖書の物語がベースになっているので、

初めて聞く登場人物の名前に戸惑った方も多かったと思います。

ですが、画面の緊迫感、ただならぬ雰囲気に、みなさん食い入るように見入っていました。

 

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カラヴァッジョの作品は、後の画家たちにも大きな影響を与えています。

実人生においては、喧嘩っ早く、しょっちゅうもめごとを引き起こし、

ついには殺人まで犯してローマから逃亡。

けれど、その波乱万丈の人生と、残した作品の魅力とで、現代の私たちをもひきつけてやみません。

 

 

さて、次回6月のアートラボは、徳川美術館の「ジャパン・デザイン」展にお邪魔する予定です。

洋の東西を問わず、時代も古いものから新しいものまで、

古今東西のアートを股に掛けて、みんなで楽しんじゃいましょう!

 

 

 

 

【開催中】

清須ゆかりの作家

中川幸作写真展 命が煌めく瞬間

会   期:2016年4月23日(土)~6月14日(火)

開館時間:10:00~19:00 (入館は18:30まで)

休 館 日:月曜日

観 覧 料:一般300円、中学生以下無料

04. 5月 2016 · 新年度 はコメントを受け付けていません · Categories: 展覧会, 教育普及

2016年5月4日(水)

 

新年度・・・といっても早くも1ヶ月が過ぎてしまいました。

世はゴールデンウィークまっただなか。お天気もよくお出掛け日和です

 

私事ですが、はるひ美術館に来てようやく1年が過ぎ、

徐々に「はるひ民」になっているのかなぁとしみじみ思います。

(周りの方々にはもう何年もいるみたい、と言われますが…)

 

4月はバタバタしているうちにあっという間に終わってしまったので、ここでちょっと振り返り。

 

清須ゆかりの作家 中川幸作写真展 命が煌めく瞬間

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今年度1発目の企画展です!これまで2人の作家を取り上げてきた「清須ゆかりの作家」シリーズ第3弾。

清須市在住の写真家である中川幸作さんは、おもに人物写真を撮り続けています

節談説教師・祖父江省念をはじめ、伝統工芸などに携わる職人、画家、彫刻家、音楽家や、

俳優、ダンサー、指揮者、オペラ歌手などの舞台芸術家、そして「きんさんぎんさん」も被写体になっています。

作品総数はなんと145点!

展示作業は夜遅くまで続きましたが、中川さんは誰よりもアクティブに動き回っておられました

重いカメラや機材を担いで日本中飛び回る中川さんやっぱり体力が違います。

よく笑い、よくしゃべる、とても素敵なお人柄です。

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表情や動きの一瞬の煌めきを捉えた作品の数々。

指揮者の振るオーケストラの音色を聞いたり、画家の描いた作品を見たりすることがあっても、

それらを生み出す人の表情というのはあまり意識することがないのではないでしょうか?

今回の展示では中央に不思議な立体物も。ぜひ間近でご覧ください。

 

清須アートラボ

毎年恒例の生涯学習講座、清須アートラボ今年は15名の方にご参加いただくこととなりました。

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第1回はオリエンテーション。

館長のお話やメンバーの自己紹介をしたあと、中川幸作展の鑑賞会もおこないました。

緊張気味のみなさんでしたが、これから仲良くなっていくことでしょう

1年間同じメンバーで活動するというのは市の生涯学習講座のなかでも異色(なはず)。

美術講座やミュージアム鑑賞ツアーを通して自らの知識や経験を蓄えることも大切ですが、

それらの体験を仲間と共有することが何よりも醍醐味なのではないかと思います

 

清須アートサポーター

今年度のアートサポーターの活動も始まりました。

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美術館のさまざまな活動をお手伝いしていただいているボランティアのみなさん。

アートラボを卒業された有志の方々がメンバーとなっています。

昨年度のアートラボ受講生からも数人仲間入りして、総勢23名。活動場所が少々手狭になってまいりました…

「美術館運営チーム」「イベント企画チーム」「広報チーム」に分かれて活動していますが、

新メンバーも加入しましたのでチーム替えもおこないました。

新しい風を感じながら、初回からみなさん活発に議論していて、大変たのもしいです!!

今後の活動が美術館にどう生かされていくのか、乞うご期待です。

 

 

今年度は中川幸作展にはじまり、6月18日(土)・19日(日)には清須市4中学校美術部展、

夏の特別展には「アルフォンス・ミュシャ デザインの仕事」展、

秋の企画展にはアートアニメーションの「榊原澄人展」が控えております!

それぞれよい展覧会にできるよう、せっせと準備中です。ぜひぜひお越しください。

 

 

 

【開催中】

清須ゆかりの作家

中川幸作写真展 命が煌めく瞬間

会   期:2016年4月23日(土)~6月14日(火)

開館時間:10:00~19:00 (入館は18:30まで)

休 館 日:月曜日

観 覧 料:一般300円、中学生以下無料

 

 

 

 

24. 3月 2016 · 第4回アートサポーター親子ワークショップ はコメントを受け付けていません · Categories: 教育普及

2016年3月24日(木)

 

先週19日(土)、親子ワークショップ「写真たてをつくろう!」を開催しました。

 

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美術館のすぐ外では川津桜が満開。ヒヨドリがさかんに蜜を吸っています。

 

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アートサポーターのイベント企画チームの皆さんは、開始の1時間前からスタンバイ!

この日のために、何を作るか、どうやったら子どもたちが楽しんで作れるか、

試作品を持ち寄り、みんなで知恵を出しあって型紙やパーツなどを準備してきました。

 

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今回の申込者は、3~9歳の子どもたち8人とその親御さんたちです。

 

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材料はダンボール。

かたちは、飛行機、パンダ、機関車、さる、ゾウの中から好きなものを選べます。

まず、どのかたちの写真たてをつくるか決めて、その型紙にそってダンボールを切ります。

 

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こちらではお兄ちゃんを真似て、3歳の女の子がダンボールを切るのに夢中。

小さな手で、驚くほど巧みにハサミを操って分厚いダンボールを切っていました。

 

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写真たての中央に開ける窓の部分は最も苦労するところ。こちらは上手にカッターを使いこなしています。

 

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ダンボールが切れたら、絵具で色を塗っていきます。

絵具と筆を使うのは初めてという子が多かったようですが、

あっという間に鮮やかな色に変わる様子を見て、目が輝いていました。

加える水の量を調節するのが少し難しかったね。

 

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写真たての裏側に細長いダンボールを3本貼って、写真を固定する枠づくり。

取り付ける場所が肝心です。

サポーターさんたちが優しく教えます。

 

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最後にスタンド部分をつくります。

2本切り目を入れて、真ん中を少し折り返すと出来上がり。

 

みんなの作品。とっても素敵な写真たてができました。

絵を描いて、さっそく写真たてに飾ってみた子もいます。

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中央の写真、パンダの窓部分には、笹の葉をもつパンダの手が描かれています。

ユニークな発想にサポーターさんたちもびっくり。

 

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こちらは大好きなトーマス。

 

みんな、おうちに大事に持って帰って、使ってくださいね。

たくさんの素敵な写真が、この手作り写真たてに飾られますように!

 

大好評のアートサポーターワークショップ。

これからも年に3回ほど開催していく予定です。ご期待ください

 

 

【開催中の展覧会】

貸ギャラリー展示

■清須市文化協会 第10回春日絵画クラブ作品展

会   期:2016年3月22日(火)~3月27日(日)

開館時間:10:00~18:00(最終日16:00まで)

 ■清須市文化協会 第12回春日写影会写真展

会   期:2016年3月22日(火)~3月27日(日)

開館時間:10:00~18:00(最終日16:00まで)

19. 3月 2016 · 第47回館長アートトーク はコメントを受け付けていません · Categories: 教育普及

2016年3月19日(土)

 

本日の高北幸矢館長アートトークのテーマは、「遠くを見る瞳、彫刻家舟越桂の精神世界。」

現在、三重県美術館で企画展「舟越桂 私の中のスフィンクス」(4/10まで)が

開催されているのに合わせたものです。

すでにご覧になった方もいらっしゃると思いますが、

「遠くを見る瞳」をもつ作品の世界観を損なわないよう、作品と作品のあいだに空間をたっぷり確保してあるので、

舟越ワールドにひたれる素敵な展示空間になっています。

 

三重県美術館←三重県美術館

三重県美術館 舟越桂展は→こちら

 

さて、舟越桂への注目度が高まっていることもあってか、いつにも増して大勢の方が集まってくださいました。

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舟越桂は、1951年、彫刻家である舟越保武を父として生まれます。

彩色をした上半身の木彫で広く知られ、小説の表紙などにもたびたび採用されています。

黒、灰、青といった落ち着いた色調が使われ、どこか瞑想的で静寂な雰囲気。

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この雰囲気は何に由来するのでしょうか。

特徴はその表情です。

大理石がはめ込まれた瞳はわずかに外向きにずらしてあることが多く、

わたしたちが像の前に立って見ても、視線が合いません。どこか遠くを見ているよう。

この、遠くを見やり物思いにふけるような表情の人物は、

文学的で暗示的なタイトルとあいまって、作品の詩情をいっそう高めています。

 

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男性、女性という性別を超えて、中性的な魅力を放つ作品も。

最近では、両性具有の人体にも取り組んでいます。

 

今回、館長は「異形の人」というテーマから、ここ三十年ほどの舟越作品の変遷を紹介しました。

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肩が盛り上がり、山のような景色を生み出している人物。

頭から角や人工物が突き出ている人物。

背中から手が生えている人物。

胴体を共有するふたりの人物。

 

これらは、通常の状態から逸脱した「異形(いぎょう)」です。

作品から伝わってくるのは、その異形の者たちを蔑視し排除するのではなく、

人間を深く理解しようとする、人間愛のまなざし。

舟越桂はこう言っています。「個人はみな絶滅危惧種という存在」だと。

 

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「異形」というテーマは、見る人の心を強烈にとらえる魅力をもっています。

そして、アートだからこそ取り組めるものです。

常に標準的であり明瞭を旨とするデザインではとても扱えない。

 

今回の館長アートトークは、舟越桂の作品の魅力に迫るだけでなく、

デザインとの比較を通してアートの特性にも迫る内容でした。

 

舟越作品は慎重に「異形」の度合いを増し、

近年ついに、「スフィンクス」のシリーズを生み出すに至りました。

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首や耳など、これまで以上にデフォルメ(変形)を加えられたその生き物の威容は、

大いなる自然を内包し、人間の力を超えた、超越的な存在に見えます。

 

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スフィンクスは、わたしたちに人間存在とは何かを問いかける怪物。

私自身も三重県美術館の展示を拝見しましたが、

屹立するスフィンクスの前に立つと、人間は一体どこへ向おうとしているのか?と

問いを投げかけられているように感じました。

 

次回の館長アートトークは4月30日(土)16:00~

「造形を着る、三宅一生のファッションスピリット」

2016年度上半期のスケジュールはこちらをご確認ください。

 

【開催中の展覧会】 貸ギャラリー展示

■高橋遊写真展「み仏」

会   期:2016年3月15日(火)~3月21日(月・祝)

開館時間:10:00~19:00(最終日16:00まで)

 ■こどもデザイン室展2016

会   期:2016年3月16日(水)~3月21日(月・祝)

開館時間:10:00~19:00(最終日17:00まで)

 

20. 2月 2016 · 第41回館長アートトーク:マリー・ローランサン、華やかなマドンナ画家。 はコメントを受け付けていません · Categories: 展覧会, 教育普及

2016年2月20日(土)

 

前回に引き続き、今回もエコパリ展に関連した作家がテーマです。

マリー・ローランサンはエコール・ド・パリの芸術家のひとりで、パリ生まれの女性画家

やわらかく丸みをおびた身体にパステルカラーのドレスをまとい、どこか物憂げな表情を浮かべた女性像などで人気を集めています。

現在、碧南市藤井達吉現代美術館でも展覧会が開催されていますね!

(美術館サイト→マリー・ローランサン 愛と色彩のシンフォニー

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ここ最近で最多の参加者です!ローランサン人気、おそるべし

 

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ローランサンはお針子の母に育てられ、名門女学校にも通いますが、画家として生きる道を諦めきれず、母の反対を押し切って前衛芸術の世界に足を踏み入れます

モンマルトルの共同アトリエ「バトー・ラヴォワール(洗濯船)」で交流したのは、ジョルジュ・ブラックやピカソなどキュビストたちでした。

詩人のギヨーム・アポリネールとも出会い、恋人関係に。ローランサンの画業に大きな影響を与えます

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あえて形を単純化・平面化して、稚拙にも思えるような画面に仕上げるのは、素朴派アンリ・ルソーからの影響です。

伝統的な写実絵画からは程遠い表現技法は、当時の前衛芸術家たちの目には新しく魅力的なものとして映ったようです

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やがて作品にはキュビスム的な要素が入り込んできます。が、その難解な理論には興味を示さず、自分らしい表現をつくりあげるうえでの一要素として、表面的に摂取していたといえます

存在感のある建物の輪郭線が画面を分割しながらも、グレーやピンクの淡くくすんだ色調はローランサンらしいやわらかさを感じさせます。

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第一次大戦後に、現代の私たちがイメージする「ローランサンらしい」画風が確立されます。

細く幾何学的だった人物の身体はふっくらと肉感を持ち、黒く鋭い輪郭線は消え、パステルカラーの色面で画面が構成されているのがわかります。

灰色を基調としながらも、ピンクや水色などの割合が増してより明るく華やか、フェミニンな印象に

当時の上流階級のご婦人方はこぞってローランサンに肖像画を注文したのだとか

まさに、女性による、女性のための、女性らしい作品として受け入れられていたのでしょう

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今回は館長独自の視点として、東山魁夷や東郷青児も取り上げられました。

東山魁夷が描いた白馬シリーズや、東郷青児が描いた物憂げな少女は、どことなくローランサンの作品を思わせる独特の美しさによってファンを得ています。

直接的な影響関係というよりは、多くの人々が理屈抜きで「なんだかいいな」「部屋に飾りたいな」と思うような作品の「愛されポイント」のひとつとして、「ローランサン風」という特徴が共通しているということなのかもしれません。

 

変遷の過程がなかなか面白いマリー・ローランサンの作品。エコパリ展では初期と晩年の二作品を展示しています

同じ作家の作品の画風の違いなどもぜひ比較してみてください

 

【開催中】

北海道立近代美術館・札幌芸術の森美術館コレクションによる

エコール・ド・パリ -パリに咲いた異邦人の夢-

会   期:2016年1月9日(土)~2月28日(日)

開館時間:10:00~19:00 (入館は18:30まで)

休 館 日:月曜日

観 覧 料:一般700円、中学生以下無料

 

 

14. 2月 2016 · 染め花でつくるバラのコサージュ はコメントを受け付けていません · Categories: 展覧会, 教育普及

2016年2月14日(日)

 

次々と開催しております、エコパリ展のイベント。

今回はワークショップ「染め花でつくるバラのコサージュ」です。

講師は「染め花horry」の矢野仁代さんです。

イベントを企画するにあたり、展覧会に合ったワークショップを何かできないだろうか~と思い悩んでいたところ、矢野さんの染め花作品を見つけ、これだとひらめきました。

矢野さんはいろいろな染め花作品を制作されていますが、儚げな造形や美しくくすんだ色合いがどこかエコール・ド・パリの作品と通じるところがあって、とても魅力的です

身に着けられるコサージュは、形に残る展覧会の思い出にもなるのではと思い、講師をお願いするに至りました

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染め花というのは、染料で染めた布でつくった植物のこと(つまり、造花です)

本来は布を染める段階から作業が始まりますが、今回は手軽なワークショップということで、矢野さんが1人ずつにキットを準備してきてくださいました。

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何種類かの花びら、がく、葉、飾りのリボンなどのパーツを組み立てていきます

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まずは芯に最初の花びらのかたまりを貼り付けて、つぼみのようなバラの核を作ります。

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次に大輪に咲く花びらのニュアンス付け。5~6枚重なっている花びらの端にボンドを少しつけて、すぐに手のひらでこすり合わせて、あえて「しわ」や「めくれ」を付けます。

そのままでもきれいな花びらですが、この一手間を加えることで華やかさが全然違ってくるんですね

みなさん「ここまでやっていいの…?」とおそるおそるこすっていましたが、思い切ってゴシゴシとしたほうが全体的にきれいなバランスになるようです。

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大きさが少しずつ異なる花びらの束にボリュームが出ました

重なっている花びらはそれぞれ生地の素材も違っていて、それらを組み合わせることで独特の味わいが生まれるんだとか。

すこしだけ濃いピンク色に染められた部分がポイントになっています

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だんだんと花の形が見えてきて・・・

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茎や葉、がく、リボン、ブローチピンも取り付けて、完成です!

手作りとは思えないクオリティ、みなさんすばらしいです一番外側の花びらの位置やしわの付け方などでそれぞれの個性が出ます。色は白とピンクから選んでいただきましたが、どちらも素敵に仕上がりました

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落ち着いた色とデザインなので、どんなお洋服にも合いやすそうです

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10人という少人数制のワークショップで、それぞれのテーブルではわきあいあいと会話も弾ませながら作業を進めている様子がみられました

1時間半ほどで作り上げたコサージュたち、美術館の思い出になれば幸いです

 

【開催中】

北海道立近代美術館・札幌芸術の森美術館コレクションによる

エコール・ド・パリ -パリに咲いた異邦人の夢-

会   期:2016年1月9日(土)~2月28日(日)

開館時間:10:00~19:00 (入館は18:30まで)

休 館 日:月曜日

観 覧 料:一般700円、中学生以下無料

 

 

 

 

 

 

07. 2月 2016 · バイオリン・コンサート はコメントを受け付けていません · Categories: 展覧会, 教育普及

2016年2月7日(日)

 

今日は名古屋出身のバイオリニスト、中川香さんと松本一策さんをお招きして、エコパリ展関連イベントとして「バイオリン・コンサート」を開催しました

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中川さんは武蔵野音楽大学音楽学部器楽学科を首席で卒業。現在はセントラル愛知交響楽団団員としてご活躍されています。

松本さんは信州大学理学部物理科学科を卒業後、愛知県立芸術大学へ進学。卒業後は自主企画のコンサートをはじめ、レッスン、依頼演奏やアマチュアオーケストラの指導など、後進の育成にも力を入れています。

今回はエコール・ド・パリ展にちなんで、同時代の音楽家やフランスの映画音楽などを中心に、全部で10曲(+アンコール1曲)演奏していただきました

1. ジュ・トゥ・ヴ (サティ)
2. シェルブールの雨傘 (ルグラン)
3. Where is your heart (オーリック)
4. 2台のヴァイオリンのためのソナチネ (オネゲル)
5. 亡き王女のためのパヴァーヌ (ラヴェル)
6. ハバネラ (ビゼー)
7. 月の光 (ドビュッシー)
8. 愛の賛歌 (モノー)
9. 私の心はヴァイオリン (ラパルスリー)
10. ツィガーヌ (ラヴェル)

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先着50名のイベントでしたが、立ち見も出るほど大勢のお客様にお越しいただきました

エコパリの芸術家たちが生きた時代、同じくパリで活動していた音楽家としてよく知られているのはエリック・サティやモーリス・ラヴェル。

少し上の世代にはクロード・ドビュッシーなどがいます。

オネゲル、オーリックは「フランス6人組」と呼ばれる作曲家集団のなかの2人で、彼らはモンパルナスの画家のアトリエで、美術と音楽のコラボレーション企画などもおこなっていたそうです

諸芸術が花開いた20世紀初頭のパリにおいて、絵画や彫刻だけでなく、音楽の世界にも新しい波がもたらされたことがうかがえますし、彼らがアトリエやカフェなどで芸術談義を交わしていたのだろうか・・・と妄想が膨らみます

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ご夫婦でもあるお二人。息ぴったりの演奏で、会場がパリの空気に包まれました

聞きなれた美しい旋律のメロディーもあれば、20世紀らしい個性的な調性の音楽もあり、エコパリ展の雰囲気をより深く味わっていただけるようなラインナップでした

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とくに、超絶技巧を要するラヴェルの「ツィガーヌ」は圧巻の一言!弾き終わるとみなさんの感嘆のため息が洩れました

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音楽家や曲のエピソード、練習の裏話などのトークも交えながらの楽しい1時間となりました

展覧会と合わせて、余韻に浸りながらお帰りいただけたのではないでしょうか?

 

残すところ会期もあと20日ほど。

まだ・・・という方も、もう一度!という方も、ぜひぜひお越しくださいませ。

 

【開催中】

北海道立近代美術館・札幌芸術の森美術館コレクションによる

エコール・ド・パリ -パリに咲いた異邦人の夢-

会   期:2016年1月9日(土)~2月28日(日)

開館時間:10:00~19:00 (入館は18:30まで)

休 館 日:月曜日

観 覧 料:一般700円、中学生以下無料

 

 

 

 

 

 

 

31. 1月 2016 · 「まるでパリじゃん!」 はコメントを受け付けていません · Categories: 展覧会, 教育普及

2016年1月30日(土)、31日(日)

 

エコパリ展のビッグイベント、「まるでパリじゃん!」が1月30日(土)、31日(日)の2日間をかけて開催されました

グラフィックデザイン、アートディレクション、イベント企画など幅広く活動するユニット、holidayの堀出隼さんによる似顔絵イベントです

堀出さんはいわゆる「似顔絵師」ではなく、さまざまな活動の内の一つとして、出会った人たちの似顔絵をその場で描く似顔絵イベントを各地でおこなっています。

(※holidayについてはこちら→http://we-are-holiday.com/

今回はエコール・ド・パリ展の内容に合わせ、モンマルトルやモンパルナスの街角にいるような似顔絵画家をヒントに、お客様がまるでパリの下町にいるかのような気分を少しでも味わっていただきたく、堀出隼もといCROQUIS MONSIEUR(クロッキームッシュ)として似顔絵を描きまくっていただきました!

ちなみに「まるでパリじゃん!」というタイトルも堀出さんのアイデアです。(ダジャレになっているの、気がつきましたでしょうか?)

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似顔絵はムッシュが手にしているトリコロールのカードに描きます。油性ペンで一発勝負。一人当たり5分ほどで完成させます。

(手前のカンヴァスはディスプレイですが、ムッシュの息子さんが2歳のときに描いた作品とのこと。)

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開館直後からたくさんの方にご来場いただき、瞬く間に予約でいっぱいに・・・

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お一人の方もいれば、カップルやご家族も。なかには「1枚は一人で描いてもらって、2枚目は家族と!」というお客様もいました

性別も年齢層もさまざまで、「美術館で似顔絵」という企画に興味津々。

しかしいざ始まるとけっこう緊張するもので・・・ スタッフも合間に描いてもらったのですが、誰かにずっと見つめられたり、5分間とはいえ目の前の人と言葉を交わさずじっと目を合わせたりというのは思っていたよりもどぎまぎしてしまうことがわかりました。これもひとつのコミュニケーションですね。

 

恥ずかしがりながらもモデルを努めたみなさん。

完成した似顔絵を目にすると思わず歓声と笑顔が!

とても特徴をとらえていて、名前もかっこよくデザインされています

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終日予約は途切れることなく、最終的に2日間で約80人の方に参加していただきました

展覧会を見たついでに寄っていかれた方、イベントを目当てに来られた方、みなさんがとても充実した表情で館をあとにされるのを見て、スタッフも大変嬉しかったです

エコール・ド・パリ展をちょっと異なる視点から楽しんでいただけたのではないでしょうか。

 

描き続けて腱鞘炎になってしまったムッシュも、「楽しかった!」と言いながら帰っていきました。

参加していただいたみなさま、堀出さん、本当にありがとうございました!

 

次のイベントは2月7日(日)14:00~のバイオリン・コンサートです。

名古屋出身のバイオリニスト、中川香さんと松本一策さんによるデュオをお楽しみいただけます。

★料金無料(要観覧料)

★先着50名(当日13:30から整理券配布)

 

 

【開催中】

北海道立近代美術館・札幌芸術の森美術館コレクションによる

エコール・ド・パリ -パリに咲いた異邦人の夢-

会   期:2016年1月9日(土)~2月28日(日)

開館時間:10:00~19:00 (入館は18:30まで)

休 館 日:月曜日

観 覧 料:一般700円、中学生以下無料

 

 

 

 

 

 

 

23. 1月 2016 · 第40回館長アートトーク:エコール・ド・パリ 藤田嗣治、困窮からパリの寵児へ はコメントを受け付けていません · Categories: 展覧会, 教育普及

2016年1月23日(土)

 

2016年最初の館長アートトークのテーマは「藤田嗣治」。

現在当館で開催中の「エコール・ド・パリ -パリに咲いた異邦人の夢-」展に作品が展示されている作家の一人です。

展覧会と合わせてご来場いただいた方が多かったようで、いつもより密集度高めです

藤田嗣治の人気の高さもうかがえますね

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エコール・ド・パリのなかでもとくにその名が知られる藤田嗣治。

東京美術学校(現在の東京藝術大学)卒業後、1913年に渡仏。

ピカソやモディリアーニなど当時の前衛美術の最先端にいた芸術家たちと交流しながら独自の画風を築き上げ、1920年代にはフランス国内で高い評価を得るようになります。

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この独特の風貌、見覚えある方もいらっしゃるかもしれません。

おかっぱ頭に丸眼鏡、両耳にリングのピアスをつけて粋なスーツを着こなす藤田は、当時のパリでもかなり個性的だったようです

(上映中の映画「FOUJITA」ではオダギリジョーが藤田を演じていますが、完璧に再現されていますね・・・!)

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藤田をフランス語表記にすると FOUJITA になることから、頭の「FOU」をとって「FOUFOU(フーフー=お調子者)」という愛称でも親しまれていました。

奇抜な格好をしたり、ユーモラスな愛称をつくったりすることは、彼にとって自己表現のひとつであったと言えます。

モンマルトルやモンパルナスにヨーロッパ中から大勢の芸術家の卵たちが集まってきた1920年代。遠い東の異国からやってきた名もなき日本人画家が、芸術の都パリでいかにして生き抜いていくかということは、非常に重要な問題だったでしょう。芸術家としての技術はもちろん、自分を売り込むための自己プロデュース力も必要になってきます。藤田はその点で突出した才能を見せ、一躍パリの寵児になったのです

 

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彼の作品の代表的な特徴といえば、乳白色の肌の裸婦です。特殊なメディウムの配合でつくり出されたなめらかで艶やかな肌の色は唯一無二のもの。

藤田は終生、自らの表現技法について誰かに教えることはなかったのだとか(近年研究が進み、タルク(ベビーパウダーの材料)を使用していたことが指摘されています

またその乳白色を際立たせているのが、日本画で使用する面相筆と墨を使って描かれた繊細な輪郭線です。

浮世絵をはじめ日本の文化がフランスで流行していたことは有名ですが、藤田は日本人という自分のアイデンティティを強みにして、作品表現に生かしていた部分もあったのでしょう

 

その後、世界恐慌から第二次世界大戦へと続く激動の時代に入り、藤田は日本に帰国します。

フランスで確立したスタイルだけでなく、そのときの興味関心や描く対象によってさまざまな画風を見せていることから、藤田の類稀なる芸術センスと技量がうかがえます

 

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戦中は軍からの要請で、戦地の様子を伝えたり兵士たちや国民の戦意を高揚させたりするような「戦争画」を手がけています。

こういった作品に対して今なおさまざまな意見がありますが、当時の日本に生きる画家として戦争に向きあい、彼ができることをやった結果であるということは言えそうです。

 

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戦後、藤田をはじめとする戦争画家たちは戦犯として糾弾されることとなります。彼はそのような日本の美術界に見切りをつけ、再びフランスへ。フランス国籍を取得し、キリスト教に改宗して洗礼名「レオナール」を授かります。

晩年は教会建築にも携わり、フランス人「レオナール・フジタ」として生涯を終えました。

 

美しい女性や可愛らしい子どもの絵だけではない、藤田の多様な作品。

いまだ謎めいている部分も多く、魅力は尽きません

 

今回のエコパリ展では藤田作品を3点展示。

独自の画風を確立する以前の初期の作品と、最晩年の作品になります。

貴重なラインナップなので、ぜひこの機会をお見逃しなく

 

【開催中】

北海道立近代美術館・札幌芸術の森美術館コレクションによる

エコール・ド・パリ -パリに咲いた異邦人の夢-

会   期:2016年1月9日(土)~2月28日(日)

開館時間:10:00~19:00 (入館は18:30まで)

休 館 日:月曜日

観 覧 料:一般700円、中学生以下無料

 

 

 

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