22. 11月 2025 · アーティストシリーズ+ 対話する風景 リレートーク[植田陽貴] はコメントを受け付けていません · Categories: はるひ絵画トリエンナーレ, 展覧会

開催中の企画展「アーティストシリーズ+ 対話する風景」では、過去の「清須市はるひ絵画トリエンナーレ」入選者から植田陽貴さん、阪本結さん、谷内春子さんをグループ展形式でご紹介しています。
前回、前々回に引き続き、今回も関連イベント「アーティストリレートーク」より、植田陽貴さんのトークをご紹介します。

植田陽貴(撮影:谷澤撮影)

アーティストリレートーク
日時:2025年10月11日(土) 13:30~(1時間ほど)
出演:植田陽貴、阪本結、谷内春子(いずれも出品作家)
聞き手:加藤恵(清須市はるひ美術館学芸員)

展示風景・作品写真|撮影:麥生田兵吾


加藤:私は「第10回はるひ絵画トリエンナーレ」で初めて植田さんの作品を拝見して、どこか不思議な印象の絵だなと思いました。今回は入選作のプロトタイプとなる作品も出品していただいています。一貫して神聖、神秘的な風景を描き出しているところが特徴と言えるように思いますが、一方で、やはり筆の動きが見えてくる。絵具をキャンバスの目に引っ掛けるような描き方だったり、絵筆を動かす時の物質感も受け取れます。
まずは、描いているモチーフや風景について教えていただけますでしょうか。

《注釈のない国》油彩、キャンバス 45.5×38cm 2021 年(第10回はるひ絵画トリエンナーレ入選作のプロトタイプとなる作品)

植田:寒い場所が好きなので、とにかく北へ北へ取材に行くことが多いです。その場に自分が行って取材して、そこで感じた肌感覚、風が強くて森がザワザワしていたとか、光が眩しかったとか、その感覚を絵画表現に落とし込みたくて描いています。

《世界の合言葉は、》油彩、キャンバス 227.3×181.8cm(2点) 2024 年

加藤:《世界の合言葉は、》も、取材を元に描いたものですか。

植田:複合的ではあるのですが、今、奈良と三重の県境にある森で週1日仕事をしていて、同じ森を定点観測していると1週間で森の色が変わっていたり、天気によっても見え方が変化するので、(この作品は)その森の集合体のようなイメージです。実際に森の中の“ここ”という場所は決まっていないのですが、 森を歩いている最中によく見る木とか、印象的な場所は何回歩いても同じだったりします。

加藤:人物も描かれていることが多いですね。

植田:人型のものを描く時と、後ろ姿の人間として描いている時があります。人型のものは人間というより自分とは違うもの、境界線の向こう側にいるものたちとして描いています。山深い森の奥へ入っていくと、これ以上先に進むと人間の領域じゃないと肌感覚で感じる場所がある。その境界線の向こう側にいる存在や、彼らの領域のようなイメージです。

加藤:そういうものを描くきっかけは何かありましたか?

植田:ずっと境界線が気になっていて、生きているものとそうではないものとか、人間と動物、国籍や言語の違う人たちとか。境界線のこちら側と向こう側は、自分がいる場所を少しずらすと向こう側の景色や見えるかたちも変わる、といったことが気になっています。

《母語》油彩、キャンバス 162×130.3cm 2025 年

加藤:《母語》のように、焚き火や火のある風景もこれまで長く描かれていると思います。火の風景についても教えてください。

植田:火は、私が今考えている境界線のこちら側と向こう側の存在全てに共通する言語であると考えています。祝う時にも弔う時にも使われるし、明るさだったり、何かを食べる時にも使う。そこから火を言語として扱っています。《森の翻訳機》で描いている彼らが持っているものは、小さい声、小さい言葉としてランタンを持たせています。

《森の翻訳機》油彩、キャンバス 50×60.6cm 2025 年

植田:《母語》は大きな火で、人型のものと、抱いているのはよく猫と言われるのですが子鹿です。奈良に住んでいるので鹿が身近なのですが、 私は鹿のことを隣人と定義していて、外のものだけど一番近い他者。その鹿の子どもを抱いています。

加藤:奈良だと鹿は神の使いと言われていたりもしますね。

植田:森にもいて、道で遭遇したりします。

加藤:《世界の合言葉は、》では、右端の後ろ姿の人物は割と私たち鑑賞者に近い存在のようですが、《母語》では向こう側の存在がこちらを見つめていて作品を観ている私たちと対面しているようですね。

植田:(《母語》の人型は)目は合うけど通じるような通じないような。《whispering》でも、言葉(ランタン)を持ってはいるけれど目が怖い。これは青森を取材した作品です。

《whispering》油彩、キャンバス 145.5×112cm 2024 年

加藤:《whispering》では、向こう側の人が動きながらこちらを見ているのも特徴的ですね。
《光について》は、火ではなく光を描いていますが、これは実際に光が乱反射している風景に遭遇したのでしょうか?

《光について》油彩、キャンバス 162×130.3cm 2024 年

植田:もとはエノコログサ(猫じゃらし)のような植物がたくさん咲いている様子を写真に撮ったら(エノコログサが)反射して写ったものを描いています。私はとても目が悪くド近視で、ずっとそれが自分の弱点だと思っているのですが、ぼやけた視界で一番はっきり分かるのは光と色なので、光は気になるものなのだと思います。

加藤:確かにピントのあっていないぼやけた風景のように見えます。描き方についても聞いてみたいです。筆跡を残しながら薄めの絵具を重ねて描いているように見えますが、描き方について普段意識していることはありますか?

植田:私はなるべく短い時間で絵を完成させたくて。長く取り組むと視野の狭さも相まって絵具がねちゃねちゃになるので、なるべく一発で決めたいという考えが強くあります。《光について》もドローイングを描いた後にF3号サイズの作品で一度発表しているのですが、 それをもとに(今回出品している作品は)F100号サイズで描きました。この作品もほとんど一晩で描いています。絵具が乾かない間に一番明るい部分をぬぐい取ったりするので、とにかく迷わずザッと描けるようにと思っています。絵具が薄いのはそのためでもあります。

加藤:一気に描くのは、自分の中に溜めていたものを一気に吐き出すようなイメージでしょうか?

植田:できれば居合切りのように描きたい。そのために小さい絵やプロットをたくさん描いてなるべく迷わないようにと思っているのですが、やっぱり大きな絵は小さい絵を拡大するだけでは描けないので迷いはします。

ドローイング(筆者撮影)

加藤:植田さんはドローイングもたくさん描かれていて、しかも紙ではなくキャンバスをA4サイズに切ってそれに油絵具でドローイングをされている。今回は特別に資料コーナーでファイリングしたものを出品していただきました。ドローイングは自分の中のイメージ出しでもあり、描きの訓練でもあるのでしょうか?

植田:はい、筆運びや絵具選びを迷わないように、ドローイングは筋トレだと思っていて、深く潜る訓練と呼んでいます。

手前《みなも》油彩、キャンバス 116.7×116.7cm 2024 年
奥:《願いを言え》油彩、キャンバス 46.5×42.5cm 2025 年

加藤:今回は奥のスペースにも作品を展示しています。植田さんがこの展覧会のために下見に来てくださった時、このスペースも使ってみたいと提案されて。面白い展示になったと思います。《みなも》は水面を描いた作品ですね。

植田:これは琵琶湖ですね。琵琶湖は家から通えるのでたびたび行っていて。《あわいに舟》も琵琶湖でカヤックに乗った経験をもとに描いています。

《あわいに舟》油彩、キャンバス 45.5×38cm 2023 年

加藤:ありがとうございます。また他の作家さんお2人からもご質問ありますでしょうか?

谷内:資料コーナーのドローイングを拝見して一発で描きたいという感じがとても伝わってきて、 今お話を聞いてやっぱりと納得したのですが、一方で《世界の合言葉は、》は少し違う印象を受けました。 割とじっくり描かれたのかなと。

植田:トータルで1週間かかっていないくらいですが、サイズが大きいのでどうやって整理するかは考えていました。森のザワザワした感じを筆致で表現できないかとか、なるべく色数も絞って、 細かい描写を重ねましたが、時間はそれほどかかっていないです。

谷内:そうなんですね。他の作品は目が合うとか、印象が一瞬で決まるのですが、《世界の合言葉は、》は時間を感じるというか、じっくり観て、観る側も考える、そういう時間も含めて表現されてるように思いました。

植田:自分の中で最大サイズの作品だったので試行錯誤はあったと思います。

加藤:確かに私もこの作品はちょっと違う印象を受けました。他の作品は真正面の印象が強いですが、《世界の合言葉は、》は斜めの視線誘導があるというか、先に左手の人型に視線が行って、その後右手の人間に目が行く。(時間を感じるのは)観る側の視線の動きもあるのかなと思います。このような斜めの構図の作品は今までもありますか?

植田:2枚組、3枚組で間隔を空ける展示はよくやるのですが、この作品は描く前に展示する場所が決まっていて、作品の前にベンチがある場所だったのでじっくり観れる絵にしようと考えていました。場所ありきで描くことはよくあります。

阪本:私は色の使い方が気になって、作品によって色が果たしている役割が違うように思いました。例えば《あわいに舟》のカヤックは鮮やかな色が使われていて一気に目を引く。あるいは全体がモノトーン調で一部だけ濃い色が使われいたり、絵のポイントとして彩度を変化させているのかと思いきや、《5月の風》などはまた違った色の使い方をしている。それが作品のテーマなのか、制作過程の中で決まってくることなのか気になりました。

植田:取材した時の風景の温度ですかね。特に《5月の風》は5月、しかも島を取材したものだったので、その違いもあると思います。

《5月の風》油彩、キャンバス 22×27.3cm 2024 年


こちら側と向こう側、その境界線など、植田さんが描く神秘的な風景に入り込んでいくような興味深いお話をお聴きすることができました。植田さん、ありがとうございました。

企画展「清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズ+ 対話する風景」は12月4日(木)まで開催しています。
3人の作品による展示空間をぜひお楽しみください!

清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズ+ 対話する風景

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