2015年1月7日(水)
新年、明けましておめでとうございます。
年の初めの今日は、気分も新たに、清須アートラボの第8回目を開催しました。
少しでも美術の見方、楽しみ方をお伝えしたいと始めた講座です。
美術講座として今回取り上げたのは、
西洋美術史のなかでも燦然と輝く、ルネサンスの幕開けとなった、
ボッティチェリの《ヴィーナスの誕生》です
ご存知の方も多いと思いますが、海で生まれたヴィーナスが、貝に乗り、西風に吹かれて陸にたどり着いたところ。
このヴィーナスは一糸まとわぬ姿で、全身で優美なS字曲線を描いて立っています。
さて、ルネサンスとは、「古典古代の再生」を意味します。
つまり、ルネサンスの芸術家たちは古代ギリシア・ローマ文化を再評価し、
ギリシア彫刻のポーズや質感を取り入れて、新たな絵画作品を創り出しました。
《ヴィーナスの誕生》は、ギリシア神話の女神であるヴィーナスを、
堂々たるスケールで、裸体像として描いた、ルネサンスで初めての作品です。
約1000年続いた中世の間、不吉なものとして隠避されてきたギリシアの神像に生命を吹き込み、
瑞々しい裸体像として再生させたのです。
まさしく、ルネサンスという新しい時代の幕開けとなった、記念すべき作品と言えるでしょう。
では、その新しい絵画を描く時にヒントになったのは何だったのでしょうか。
それは、古代の彫像の「恥じらいのヴィーナス」(左上)のポーズだったり、
先輩格の画家が描いた「キリストの洗礼」(右上)のポーズだったりします。
ボッティチェリは、すでにあるギリシア彫刻やキリスト教絵画を良く学び、
それらをミックスし、当代風にアレンジして、独自の新境地を切り拓いたのですね。
↑ それからこちらは、同じくボッティチェリの名高い傑作 《春》という作品。
こちらも中央にヴィーナスがいますが、裸体ではなく衣装をまとっています。
ヴィーナスの周りには、この女神にまつわる神々が一堂に集まり、華やかな様子。
この《春》の登場人物たちも、先輩の芸術家の作品を元に、構想が練られたと考えられます。
例えば、↑ ヴィーナス(左上)は、当時たくさん作られていたマリア像(右上)がヒントになっています。
右側の作品は、あくまで参考資料としての例ですが、
少し奥まったところでアーチ型の構造物の中に収められている姿が共通していますよね。
また、旧約聖書の登場人物ダヴィデ(右上)の姿が、ボッティチェリの作品では
ギリシア神話の神であるメルクリウス(左上)に姿を変えて、受け継がれています。
このように美術史は、たくさんの芸術家によって人物やモノの姿勢・形態が受け継がれていく歴史でもあります。
意味や内容の違うものを別の事物に応用した結果、思わぬ効果を上げ、
私たちの目を楽しませてくれることもしばしば。
作品鑑賞の醍醐味は、
芸術家たちが何をヒントに作品を制作したのかを探ることでもあります。
では、裸体のヴィーナスが描かれた《ヴィーナスの誕生》と、
着衣のヴィーナスが描かれた《春》と、どうして2つあるのでしょうか
↑ こちらはボッティチェリの作品から約30年後に描かれたティツィアーノの《聖愛と俗愛》という作品。
着衣のヴィーナス(左)と、裸体のヴィーナス(右)の二人が描かれています。
着衣のヴィーナス(地上のヴィーナス)は、世俗的で物質的な愛を表し、
裸体のヴィーナス(天上のヴィーナス)は、それよりも高位の、精神的で貞節な愛を表します。
地上と天上の、異なるヴィーナスが融合するのが最高の美徳だとされ、
ルネサンスの時代、二人のヴィーナスを描くことが流行したのです。
そうしたことから、ボッティチェリの《ヴィーナスの誕生》と《春》は、それぞれ、
天上のヴィーナスと、地上のヴィーナスを描いていると考えられています。
絵画は、描かれた対象の表現を鑑賞する楽しみ、
描かれた史実や物語を知る楽しみ、そしてベースとなった思想に触れる楽しみなどがあり、
いろんな切り口で楽しめるものです。
次回は愛知県美術館で開催される「ロイヤル・アカデミー展」を見に行きます。
みなさん、それぞれに好きな作品を見つけて、楽しんでもらえたらなと思います。
こちらもどうぞお楽しみに。
【開催中の展覧会】
清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズ Vol.75 木下 令子 展
会期:2015年1月6日(火)―1月24日(土)
開館時間:10:00―19:00
休館日:月曜日(祝日の場合は開館、翌火曜日が休館)
観覧料:一般200円、中学生以下無料