02. 6月 2024 · 今尾拓真インタビュー《work with #10(清須市はるひ美術館 空調設備)》 はコメントを受け付けていません · Categories: 展覧会

現在開催中の企画展「今尾拓真 work with #10(清須市はるひ美術館 空調設備)」。美術館に既存の空調設備を使い、建物全体をサウンド・インスタレーション作品として構成した今尾拓真さんに、インタビューをおこないました。

――まず「work with」シリーズを制作し始めたきっかけについて教えてください。

芸術大学で彫刻を学んでいるなかで、制作行為と、素材調達や展覧会で他者に共有する行為との断絶の具合に関心を持ったことが背景としてあります。また父が画家で自宅をアトリエにしており、制作活動が身近な環境で育ったので、制作行為が特別なものとして世間から扱われることにも違和感を覚えていました。
そういったことから、作品の輪郭というか、何をもって「作品」となるのか、「美術」や「芸術」の定義とは何なのか、「つくる」とはどういうことなのかといったことにずっと関心を持っています。
音を扱い始めたのは、生まれては消え形に残らないあり方が自分の作品という枠組みへの関心と重なると思ったからです。音を鳴らすための装置を作品として作っていくなかで、インフラである空調設備が楽器を鳴らす装置になるとともに、作品と作品の外部のつながりをもたせる機構にもなると考えました。

work with #1(大学会館ホール 空調設備) 2015年

 

――どのようなプロセスで制作していくのでしょうか。

まずは展覧会の会期と制作期間、予算、空間の規模といった条件を自分のなかに落とし込みます。そのうえでさまざまな可能性を実験し、加工のプロセスを選択していく。条件の制約と実験の結果がうまく噛み合うこともあれば、摩擦を起こすときもある。そうやって時間が経過しながら、濾しとられるように、作品の輪郭が見えてきます。
「work with」を制作していると、世の中のものづくりのプロセスや、ひいては世界の成り立ちのような遠大な事柄の一端を手元で追体験している感覚になることがあります。個人の範疇を超えたはかりしれないものについて想像し、それに触れている感覚になることがおもしろいです。今回はこれまでのシリーズと比べて企画としても空間としても大規模で、大規模であるが故に小さな誤差がどんどん広がって機能に問題が起こったりしてくるので、今まで1mm単位で認識していたスケールを0.1mm単位に切り替えたり、自身の身体スケール感を見直すことにもなりました。
あと、空間や鑑賞者が音で振動することや、作品のなかにいる人々の視線や気づきもプロセスの一部と考えているので、会期が終わってはじめてつくり終えたといえるのだと思います。

――今回は「work with」シリーズの10作目にあたりますが、清須市はるひ美術館という主題をどのようにとらえていますか?

建築としての大きな特徴は、建物全体に同じ形の空調ダクトが目に見えるところにはりめぐらされていることです。清須市はるひ美術館は作品を見せるための展示室とそれ以外の場所がはっきり分かれていますが、大きく弧を描く曲線が空間全体をつないでおり空調もそれに沿って据え付けられているので、 「work with」において空間を等価に扱いやすいと思いました。僕は空調を通して場所に介入しますが、もともとあるその場の特質を改変するのではなく、どのように対応するかという意識で考えています。最初に話したことにもつながりますが、展示室という、美術館の中でも「特別な空間」とそれ以外の空間それぞれの特質を、空調を軸に繋ぐことでより際立たせる結果になったのではないかと思います。美術館という、特定のモノに特権を与える構造を、展覧会というフォーマットを使って問い直すことができるということも展示をする前から思っていました。
それから、今回は3Dプリンタを制作に導入したこともあり形の有機性に気を遣いました。空調をはじめ工業製品は素材も生産の形態も人工的なものですが、大量生産されたそれらが時折とても有機的に見えたりもします。空調による空気の循環を人間の呼吸になぞらえるように、作品を鑑賞者の身体感覚につなげたかったんですね。リコーダーやハーモニカを使い続けているのも、多くの人が触れたことのある楽器で音を鳴らす感覚を想像しやすいからです。
建築や設備を即物的にとらえることはできるけれど、人ってもう少し文脈や比喩で世界を認識しているところがあると思うんです。機能が駆動するなかで常に人の念や想像や解釈がつきまとっているというか。そういう風に、機械的にではなく有機的に世界どうしの接続が起こっているようにも最近は感じています。
「work with」でおこなっているのは、自分と自分の外側にあるものとの関係を結ぶことです。自身にとって作品をつくるというのは、完成に向けて対象をコントロールすることではなく、自分ではどうしようもできないこととどのように付き合っていくか考えることで、そのことに繊細でいたいと思っています。

――今尾さんは「work with」シリーズだけでなく、パフォーマンスやイベントの企画・演出など多様な活動をおこなっていますが、今尾さんにとってそれらはどのような位置づけにあるのでしょうか?

人目に触れるときにたまたまそれが現代美術の姿だったり音楽や演出という姿だったりするだけで、やろうとしていることは同じです。自分は区切られた一つの領域のなかで居続けるのが苦手な人間で、出来るだけいろんな種類の場所を行き来することを心がけているので、特定のジャンルの作法を別のジャンルで応用できるなとか、気づきを得ることはたくさんあります。
いずれの活動にせよ、人々の認識の外に置かれがちな事象一つ一つが確かにそこにあることを取り扱いながら、同じ物語を共有し中心を作り出そうとする引力に抵抗し続けたいと思っています。

 

今尾拓真 work with #10(清須市はるひ美術館 空調設備)

 

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