『森山大道論』東京都写真美術館企画・監修(淡交社、2008年)
本著は、東京都写真美術館で開催された「森山大道展 Ⅰレトロスペクティブ1965-2005 /Ⅱハワイ」を記念して刊行された。多彩な執筆者による論文に加え、一般公募により選出した論文一編を加えて論が展開されている。そのほか東京都写真美術館収蔵作品と森山大道から提供された54点の写真で構成されている。
因みに執筆者は、多木浩二(思想家、評論家)、カール・ハイド(イギリスのテクノ音楽グループUnderworldのヴォーカル、ギター)、大竹伸朗(画家)、金平茂紀(ジャーナリスト、TBS報道局長)、平野啓一郎(小説家)、岡部友子(東京都写真美術館学芸員)、鈴木一誌(グラフィックデザイナー)、笠原美智子(東京都写真美術館事業企画課長)、渚ようこ(歌手)、林道郎(上智大学国際教養学部教授)、甲斐義明(ニューヨーク市立大学グラデュエート・センター博士課程在籍)※公募論文、清水穣(同志社大学言語文化教育研究センター教授)。その多彩さは意図したものと思われる。
学者や評論家は深読み、あるいは自身の研究専門分野に基づいて論が展開されており、その専門性を理解していない読者にはかなり難解なものとなっている。小説家の平野や画家の大竹伸朗は、大道の熱い共感者であり、その思いが伝わってくる。
最も客観的で解りやすいのは学芸員の岡部友子であり、写真というもの、森山大道のストーリー的分析を展覧会、書籍、活動から読み解いている。
執筆者の多彩さは、森山大道の多彩さでもあり、深さ、広がりでもある。12点の論文は、大道作品を二次元から三次元、四次元へと浮かび上がらせる。浮かび上がった雲のような存在は、本書の成果であるが、2008年以降の大道ではない。また予測されるものでもない。2023年、大道は今も写真を取り続け、発表を続け、我々に問い続けている。