26. 11月 2024 · November 26 , 2024* Art Book for Stay Home / no.154 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『森山大道論』東京都写真美術館企画・監修(淡交社、2008年)

本著は、東京都写真美術館で開催された「森山大道展 Ⅰレトロスペクティブ1965-2005 /Ⅱハワイ」を記念して刊行された。多彩な執筆者による論文に加え、一般公募により選出した論文一編を加えて論が展開されている。そのほか東京都写真美術館収蔵作品と森山大道から提供された54点の写真で構成されている。

因みに執筆者は、多木浩二(思想家、評論家)、カール・ハイド(イギリスのテクノ音楽グループUnderworldのヴォーカル、ギター)、大竹伸朗(画家)、金平茂紀(ジャーナリスト、TBS報道局長)、平野啓一郎(小説家)、岡部友子(東京都写真美術館学芸員)、鈴木一誌(グラフィックデザイナー)、笠原美智子(東京都写真美術館事業企画課長)、渚ようこ(歌手)、林道郎(上智大学国際教養学部教授)、甲斐義明(ニューヨーク市立大学グラデュエート・センター博士課程在籍)※公募論文、清水穣(同志社大学言語文化教育研究センター教授)。その多彩さは意図したものと思われる。

学者や評論家は深読み、あるいは自身の研究専門分野に基づいて論が展開されており、その専門性を理解していない読者にはかなり難解なものとなっている。小説家の平野や画家の大竹伸朗は、大道の熱い共感者であり、その思いが伝わってくる。

最も客観的で解りやすいのは学芸員の岡部友子であり、写真というもの、森山大道のストーリー的分析を展覧会、書籍、活動から読み解いている。

執筆者の多彩さは、森山大道の多彩さでもあり、深さ、広がりでもある。12点の論文は、大道作品を二次元から三次元、四次元へと浮かび上がらせる。浮かび上がった雲のような存在は、本書の成果であるが、2008年以降の大道ではない。また予測されるものでもない。2023年、大道は今も写真を取り続け、発表を続け、我々に問い続けている。

16. 11月 2024 · November 16, 2024* Art Book for Stay Home / no.153 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『いつも今日 私の履歴書』野見山暁治(日本経済新聞社、2005年)

本著は103歳で死去した著者が、84歳のときに日本経済新聞に連載した『私の履歴書』に1年かけて書き足し、85歳で出版したものである。
野見山暁治の文は、痛快で読者ファンも多く、著書は26冊、共編著8冊と画家とはとても思えない数である。それは103歳という長寿のキャリアが為せる技でもあるが。
一方で画集・作品集は8冊で、東京芸術大学4年の勤務以外は定職を持たず、ひたすら画家として生きてきた人生には少なすぎる。ただそこにも著者の生き様があって、デッサン、テクニック、画風など絵の小さなこだわりを超えて、本音で描き、自分をなぞらず、生きるために絵を手放し、それらの作品がどこにあるのか、関心をを持たなかったがゆえに、晩年の画集に作品が確認できなかったことにもよる。多くの著名な画家が、子供時代からの作品を大切に残しているのに比べ、これはもう愉快というしかない。
画家の著書というのは、作品があって、その作品の魅力の一端を知る思いで著書を紐解くことが多い。だが野見山暁治に関して言えば、彼の作品を全く知らなくとも著作はおもしろい。本著においても、絵画作品に関しての著述は殆どなく、書かれているのは著者の人生であり、人間であり、生き方考え方である。
読後感としては、「あゝ、この人生があって、あの絵なんだな」と納得する。
戦争体験を含む80年を超える画家人生は、多くの著名画家との出会いが書かれているが、その誰をもほんの数行で人物の魅力を浮かび上がらせる。その観察眼は、そのまま自身の絵画作品の制作眼なのだろう。