『アウトサイダー・アート 現代美術が忘れた「芸術」』服部 正(光文社新書、2003年)
20年前本著が出版されたばかりの頃、この未知識のアウトサイダー・アートについて読んだ。頭の中が整理しきれないまま、「アウトサイダー・アートとは何か」の概念を掴んだ気になっていた。
それから20年、アウトサイダー・アートを取り巻く状況は少しずつ活発化し、アウトサイダー・アートに替わる言葉としてアール・ブリュットが使われはじめた。ほかにもエイブル・アートや障害者アート、2022年春に滋賀県立美術館で開催された展覧会では「人間の才能 生みだすことと生きること」としている。またNHK Eテレでは、2021年より「no art, no life」を放映、「既存の美術や流行、教育などに左右されず、誰にもまねできない作品を創作し続けるアーティストたち。唯一無二の作品を紹介する」としている。
アウトサイダー・アートもアール・ブリュットも障害者アートのことではなく、決して差別的意味を含むものではない。しかしながら多くのこれらの展覧会が障害者アートにウエイトが置かれていることも事実である。自治体の文化予算だけではなく福祉予算や教育予算が使われていることもある。そして「障害がありながら、素晴らしいアートを制作するなんて凄いね」という間違った考えが広がりつつあることは残念であるが事実である。
アウトサイダー・アートやアール・ブリュットにおいて抱えざるを得ない差別や逆差別について明確にしつつ、本著は「アウトサイダー・アートとは何か」を丁寧に解説している。2022年再度読み終えて、その的確さに感銘を受けた。
「まず、アウトサイダー・アートは否定的で差別的な意味を持つ言葉ではなく、それらの作品を積極的に評価するものであるということだ。そして第二に、アウトサイダーアートは障害のある人が制作した作品という意味の言葉ではないということである。」
「アウトサイダー・アート」とは、精神病患者や幻視家など、正規の美術教育を受けていない独学自習の作り手たちによる作品を指す。それらの作品は新たに人間の生きる力としての魅力に溢れている。