15. 8月 2025 · August 15, 2025* Art Book for Stay Home / no.170 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『ビアズリーと世紀末』河村錠一郎(青土社、1980年)

著書『ビアズリーと世紀末』は、世紀末ヨーロッパで活躍したビアズリーのことが書かれていると、割にそっけない著書名で気軽に読み始めた。本論は第1部がビアズリー論で、さすがビアズリーについての研究第一人者であると、感想を持ちながら興味深く読み込む。ところが第2部に入ると、ビアズリーの視野を大きく広げて、なお離れて、世紀末の芸術と思想と社会が75ページに渡って書かれている。ビアズリーの名前はほとんど出ることなく、ビクトリア王朝から始まり、美術から文学へ展開される。シェイクスピア、ボードレール、バルザックと西洋文学に弱い私は、文字を追うのが苦痛になってくる。それでもなんとか第2部を終えた。ここまで来て、著者河村錠一郎とはどういう人なのか気になった、本著には紹介されていない。ウィキペデイアでは「日本の英文学者、比較芸術学者、翻訳家。一橋大学名誉教授、専門はイギリス美術史、特にラファエル前派」とある。著書には本著をはじめ文学、美術、さらには音楽『ワーグナーと世紀末の画家たち』というのがある。第2部に夏目漱石、三島由紀夫が出てくる訳である。

さて第3部、一気にビアズリーに関する著者の思い入れが述べられる。第2部で書かれた世紀末芸術、思想、社会がその裏付けとして力を持つ。ビアズリーの代表作『サロメ』について語られる。『サロメの系譜』と題されて、マニエリスムから始まり、ルネッサンスに戻り、ラファエロ前派へ。さらにギュスターブ・モローを徹底分解する。モローの『サロメ』がビアズリーの『サロメ』にとっての大きな魁となっていることは、誰もが気づくところであるが、それは単なる模倣ではなく、模倣からあらたな発想へと向かうビアズリーの創造力と指摘している。そして帰結していくのは、ウィーン分離派、クリムトである。クリムトはビアズリーの模倣ではなく、世紀末の感性、耽美主義の大きな展開へと進化させた。

世紀末文学の読み込みは力不足であったが、重厚なビアズリー論を手にした。

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