25. 1月 2022 · アーティストシリーズVol.96 藤森哲 アーティストトーク② はコメントを受け付けていません · Categories: 展覧会

(①からつづく)

――抽象形体と仏像モチーフの過渡期にあたるのが《tableau 2020-04(FLORENCE)》あたりの作品ですが、これについてはいかがですか?

《tableau 2020-04(FLORENCE)》2020年

タイトルに“FLORENCE”とあるように、こちらはイタリアのフィレンツェがイメージソースとなっています。現地を訪れた際に、街中のいたるところにある彫刻作品をバシャバシャ写真で撮っていたんですが、そのときは自分の作品の資料に使おうとか、そういう気持ちはなかったんですね。

が、あとになって当時の思い出などとは切り離してその写真を見たときに面白いなという感覚があって、作品制作のきっかけになりました。これが仏像モチーフにつながる手法になっていきます。

抽象形体を描いていた流れで、全面を真っ黒に塗ったあとに白い部分が立体的に浮かび上がってくるように削って描いていったんですが、この手法で具体的なモチーフを描くのが思いのほか難しくて。本当はもう少し形を提示したかったですが、抽象と混在した表現になりました。

今同じ資料を使って作品をつくろうとしたら、全然違うものができるんだろうなとは思います。

削っていく作業って、自分の想像を超えた「現象」が要所要所で起きるので、その面白さを楽しみたい自分もいます。ただそこを追求しすぎていくと、当初描こうとしていたモノの形が「現象」に覆われていってしまうこともある。それがいいか悪いかはわからないですけど。

 

――西洋の裸体彫刻の生々しさと、東洋の仏像彫刻の石の質感。この対比も藤森さんの作品に異なる雰囲気をもたらしていると思います。

《tableau 2020-04(FLORENCE)》(部分)2020年

 

――では今回のメインシリーズでもある新作についてうかがいたいと思います。まずなぜこのような展示方法にされたんでしょうか?

まずこの大きさのキャンバスをパネルにすると運ぶのが大変なので(笑)、大きな画面でもロール状で移送できるというのがメリットとして一つあります。

それから、真っ黒な背景ではなく余白を残す描き方に変わり、中国の山水画や日本の襖・屏風・掛軸など、建物空間と一体化した画面形式を想起するようになったことも関係しています。パネルやキャンバス絵画のように空間と作品が独立している感じではなく、作品が空間に溶け込むような、また描かれているものたちが空間で蠢いているような、そういうイメージを実現するために布状のキャンバスを上から垂らす手法に行き着きました。

 

――ただ上から吊るすというだけでなく、降りてきた端のほうが床に這わされているのもポイントですね。

そうですね、床面にキャンバスが這うことを前提にモチーフを描いているものもあります。空間全体を包み込むようなイメージで考えています。

 

《tableau 2021-04(Kushan)》2021年

――描かれているものに関しては、仏像からまた新しい変化が生まれているようですね。

先ほど、自分の考えと鑑賞者の見方のズレをなくしたいというような話をしましたが、そのためには自分の考えていることをもっと具体的に出していかないと伝わらないんじゃないかと思ったんですね。で、それは好きなこととか、趣味とかを含めて自分が普段から考えていることをわかりやすい形で提示するのがいいんじゃないかと。

僕はSF映画が好きで、SFに関する思考をしていたりするんですが、そこから宇宙とかロケットといったモチーフが登場し始めています。

描くにあたっていろいろと調べたんですが、例えばここに描かれているのがアポロ11号のエンジン。アメリカがソ連との宇宙開発戦争に勝ったのはこのエンジンのおかげと言われていて、それが今では神話化されているというか、崇められているような存在なんじゃないかと感じたんですね。その在り方と仏像という信仰の対象とがつながる部分があって、今回組み合わせて作品にしています。

 

――そして、今回展示室の最後に象徴的な存在として展示されているのが《tableau 2021-s07(Houston)》です。

《tableau 2021-s07(Houston)》2021年

この展示室のなかでは異質な印象ですが、どうしても展示したかった作品であり、「往日後来図」という展覧会タイトルにも必要な作品でした。

吊り展示の5点シリーズをメインとして「往日後来図」というタイトルをつけているんですが、「往日」=過ぎ去った過去からみた「後来」=未来という意味を込めています。それを考えるきっかけになったのが、1992年に毛利衛さんが宇宙へ行った出来事です。当時は国全体で盛り上がっていて、夢物語のような宇宙開発の未来予想図などもよく目にした記憶があります。

それが21世紀になって、どうもそのとき見ていた未来と現実が違うなという印象なんですよ。あのときのいわゆる「きれいで明るい未来」と今現在の社会の様子のズレにSF的なディストピアの面白さを感じて、それを提示したいと思って、象徴としての「宇宙飛行士」を描きました。

宇宙飛行士ってヒーローみたいな存在で、それが崇められる仏像ともリンクするんじゃないかと思っています。

 

――今回の展覧会を通して、藤森さんの新たな展開が見られたように思います。

清須市はるひ美術館の特徴的な展示空間を意識しながら垂れ幕状のシリーズも展示できて、回廊のなかに仏像が並んでいるようなイメージで、自分のやりたいことができたかなと思います。

 

――藤森さんの作品の圧倒的な迫力を、当館の展示室で制御できるか心配な部分もありましたが、メリハリのある空間に仕上がっていたのではないかと思います。

本日はありがとうございました。

http://www.museum-kiyosu.jp/exhibition/vol96fujimori/

O

 

 

25. 1月 2022 · アーティストシリーズVol.96 藤森哲 アーティストトーク① はコメントを受け付けていません · Categories: 展覧会

平面作品の公募展「清須市はるひ絵画トリエンナーレ」の受賞者のなかから個展形式でご紹介する企画、「アーティストシリーズ」。

開館当初から継続して、100名近いアーティストの方々にご参加いただいてきました。

2021年度に出品していただくのは、藤森哲さん(第10回展準大賞)、MITOSさん(第10回展審査員賞〈加須屋明子〉)、福嶋さくらさん(第10回展大賞)の3名。

今回は、藤森哲さんの個展に際し2022年1月10日におこなわれたアーティストトークの一部をテキスト形式でお届けしたいと思います。

(聞き手:学芸員O)


 

藤森 哲(ふじもり・さとし)

1986  神奈川県横浜市生まれ
2011  筑波大学人間総合科学研究科博士前期課程芸術専攻洋画領域修了

個展
2021  「絶対景感」 /コバヤシ画廊 、東京
2020  「REAL FICTION」 /コバヤシ画廊 、東京

グループ展・公募展
2021  神奈川県美術展/神奈川県民ホールギャラリー
(2020、2019、2017、2016、2010)
2020  シェル美術賞展2020/国立新美術館(2017)
おやま豊門芸術祭 うつろいの住処/豊門会館和館、静岡
IZUBI Final/池田20世紀美術館

など

https://satoshi-fujimori.jimdofree.com/


 

――清須市はるひ絵画トリエンナーレのことは何で知ったのですか?

定期的に、公募展にいくつか出品しようかなということで調べたりするんですね。全国公募かどうか、下世話な話ですが賞金がどれくらいか(笑)、また審査員が誰かということを基準に探すなかで候補に出てきたという感じです。

 

――準大賞という結果を知ったときのお気持ちはいかがでしたか?

大変うれしかったです。自分でずっと制作を続けているなかで、そういった賞をいただくことはそうそうないので、準大賞に食い込んだことは大きな出来事でした。

ちょうど作品のスタイルを変えている時期でもあって、それが評価されたということで「やってることは間違ってなかったな」と実感することができました。

 

《tableau 2021-02(Kushan)》2021年

――それではその受賞作《tableau 2021-02(Kushan)》についてお聞きします。まず、モチーフについて。

タイトルには、“tableau”(タブロー:作品)、制作年とその年の何作目かを数字で表記して、括弧書きで参照したものを入れるようにしています。

この作品は“Kushan”「クシャーナ」という、2世紀ごろに中東で栄えた王朝で作られた仏像をモチーフにしています。

 

――おそらく「仏像」と言われてもすぐにはわからない表現なのではないかと思いますが、どういう風に描かれているんでしょうか。

これはなかでもわかりやすいほうの作品ではあるのですが、仏像の上下が反転していて、ひっくり返すと手足や像の欠損している部分などが見えてくると思います。

が、自分は仏像を描きたいというよりかは、仏像のもっている実在感や存在感を画面に落とし込みたいので、これをどのくらい仏像だとわからないようにするかが重要なんですね。

そのために反転させたり、写真のデータを使ってぎりぎりまでわかるかわからないかくらいにまで加工したりして、描く準備をしています。

 

――私がこの作品をはじめて見たときに不思議だなあと思ったのは、近くで見たときと離れてみたときで印象がかなり変わることです。少し離れてみると物質の凹凸や陰影が緻密に描きこまれているなと思ったんですが、近づいてみると思いのほか荒々しいタッチでモノクロのグラデーションが表現されている。でも盛り上がっているような絵具や筆跡があるわけではなく、つるりとしている・・・どうやって描いているのかな、というのが素朴な疑問でした。

絵を描くというと、筆で絵具を載せていく、積層させていくというイメージがあると思いますが、僕の場合は逆です。最初に絵具を載せて、それを削り取っていく。白色の絵具は使っていなくて、白く見えている部分は削った結果出てくるキャンバスの地の色です。

削る道具で一番使っているのはゴムベラです。調理用のシリコン製のものとか、消しゴム、ゴム手袋をつけて自分の指で、など、適したツールを探すのが楽しかったりもします。

 

――削り方の多様さによって画面にいろいろな表情が生まれ、見え方も変わってくるわけですね。

 

《EPIDERMIS》(一部)2016年

 

――(当館館長・高北幸矢)審査員の一人を務めましたが、藤森さんの作品には非常に強いインパクトを感じました。他の応募作品とはちょっと違うなという違和感みたいなものがあって、順当に上位に残っていったという感じです。

先ほど、受賞作は作品のスタイルを変え始めたタイミングだったというお話がありましたが、確かに過去作と比較するとずいぶん変化しています。モノとしての存在感がはっきりしているというか。そのきっかけはどういうものだったのでしょうか?

以前は特定のモチーフを扱わずに純粋な抽象形体を描いているときもありました。何を描くかあらかじめ決めずに、感覚的に描きながら何か具体的なもののように見えてくるのを楽しんでたんですが、作品を見る人が自分とは違うものをそこに見ているということが起こったんですね。

自分の意図と鑑賞者の感じ方のズレはもちろん面白い部分ではあるんですが、そのズレをなくしたい、自分の考えていることをそのまま受け取ってみてほしいと思って、具体的なモノの形をはっきり描くという手段を取りました。

 

――(高北)作者が作品のなかに込めたものをいかに読み取るかというのは鑑賞の醍醐味ですが、作者が鑑賞者に対して「つかんでみて!でもわかんないでしょ?」みたいな駆け引きをするのがアートの面白さでもありますよね。藤森さんの作品の魅力としてそれが発揮されていたのだと思います。

 

(②へつづく)

http://www.museum-kiyosu.jp/exhibition/vol96fujimori/

O

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