14. 2月 2017 · アーティストシリーズVol.83 北籔和展 はコメントを受け付けていません · Categories: はるひ絵画トリエンナーレ, 展覧会

2017年2月11日(土)

アーティストシリーズVol.83北籔和展が先週から開催中です。

北籔さんは、2015年に開催された第8回はるひ絵画トリエンナーレで

優秀賞を受賞された方です。

あああああ    《のしてんてん 道》

本展のいちばんの見どころは、はるひ美術館オーダーメイドの作品といっても過言ではない

《ナウイズムの夢》。

この作品は、91cmの正方形のカンヴァスが44枚、194cm×97cmのカンヴァスが2枚の

計46枚の作品で構成されています。長さはなんと約22m

4枚1組で《現世》《浄土》《五次元》を描き続け、はるひ美術館に展示することが決まってからは、今回のような組作品になるように追加で制作されたようです。

あ     ああ// 長いっーーー!!! \\

当館特有の、ゆるやかに湾曲した細長い展示室。

今回は、このカーブが良い味を出してくれ、北籔さんの世界観をうまく

引き出しています。

 

ああ

そして本日は、アーティストトーク。

北籔さんを目当てに大阪、和歌山、東京とさまざまなところから足を運んでくださいました。

 

今回のアーティストトークのテーマは、北籔さんが提唱されている「ナウイズム」や「五次元」について。四次元(過去、現在、未来などの時間の流れ)までは、よく耳にするのではないでしょうか?

北籔さんの「五次元」は何を示しているのか…それは、「スケール」です。

人のからだはたくさんの素粒子(ちいさな物質)があつまってできています。

そして、どんなちいさな物質でもその物体と物体のあいだには空間が存在します。

その空間は、宇宙にある空間と同じもの。自分自身も空間そのものと言えるのでは?

というお話です。

宇宙を彷彿させる一方で、自分の体内をも思わせます。

これらの作品を北籔さんはシャープペンシルで描いています。

わたしたちの生活と身近な道具、シャープペンシルで描いたとは

思えないほどのリアリティ。

 

そして、モチーフのまわりにある暗闇。

その闇がどこまで続いているのかわかりません…

北籔さんの作品には、無限の空間が存在していると思わずにはいられません。

闇と光。そして、宇宙。

ぜひ、北籔ワールドを体験してみませんか?

北籔和展は来週末2月26日までです。お待ちしております。

◆◇◆学芸員雑談◆◇◆

紙面上で考えた展示プランで「うまくいきそう!」と思っても、

実際に作品を空間に置いていくと「あれ?違うな…」となることが多いです。

今回は思いのほか、湾曲した壁が作品にあう空間をうまく作ってくれました。

作品を配置することで、同じ空間なのに展覧会ごとに違った空気が流れ始める…

「面白いな」と毎回思ってしまいますし、くせになりますね。

 

開催中の展覧会】

「清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズ Vol.83 北籔和展」

会期:2017年2月8日(水)~ 2017年2月26日(日)

開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)

休館日:月曜日(ただし祝日の場合は開館、翌火曜日が休館)

観覧料:一般200円 中学生以下無料

28. 1月 2017 · 第4回清須キッズアートラボ はコメントを受け付けていません · Categories: 教育普及

2017年1月28日(土)

 

清須市内の小学3~4年生を対象に年4回行っている子ども向け講座「清須キッズアートラボ」も今日で最終回

寂しいですね。。。

現在開催中の「アーティストシリーズVol.82 原勉展」と関連づけてみんなで「ステンシル」に挑戦してみました

ステンシルとは、図柄や文字を切り抜いて、その切り抜いた部分にスポンジや筆で色をつけていく、版画の一種です。

原さんの作品の下地には、本物のレースを使って模様を施されているのです(前回のブログを参照していただけるとわかります)。

まずは、みんなで作品を鑑賞します

「何が描かれているかな?」

「何をつかって色をつけてると思う?」

「どんな印象をもった?」

みんな作品をじっくりみて、言葉にしていきます。

また、おなじ名前の作品がいっぱいあることに気づいた子どもたち。

作品をみて、それぞれ何が違うのかを教えてくれました

すると途中で、スペシャルゲストが登場しました

原さんが来てくださり、話もしてくださりました

みんな真剣に耳を傾けます。そして、作品の下地には、

本物のレースを使い、模様をつけていることを直接教えてもらい、

いざ、ステンシルに挑戦です今回は原さんの真似っこをしてレースも使います。

何にステンシルをするかというと・・・

この時期には特に欠かせないマスクです

まずは、マスク全体に下地となるレースをのせて・・・

絵の具をつけたスポンジで ポンポンッ  レースの隙間部分に色をつけていきます。

力をいれすぎてしまうと、レースの模様がつぶれてしまい、

力を抜きすぎてしまうと、あまり色がつかず・・・力加減がむずかしい

全体にレースの模様がついたら、次は・・・

かための紙でつくった型紙をつかってアレンジしましょう

ああああああ\\   完 成   //

うっすらとレースの模様がでています。

ステンシルのやり方を学んだので、次はみんながつくる番です

あああああああああああああ//  ポンポンッ  \\

みんな上手です

レース模様の下地ができたら次はアレンジです。

三角形、四角形、丸形の型紙を組み合わせていきます。

大好きな緑色をたくさん使って模様をつけたマスク、

食べ物のような配色のマスク(みていてお腹が空いちゃいました・・・)

自分だけのおしゃれマスクがたくさん完成しました

レースの上からつけたアレンジがポイントになっていますね。

 

今回は、いつもとちがい、筆ではなくスポンジを使ってみました。

いろんな方法で色をつけることができると知ってもらえたかな

最後には、「清須キッズアートラボ」メンバーの認定書をひとりひとりに渡していきます。

この一年で、美術館が身近なところだと思ってもらえたら嬉しいです。

また、美術館でみんなの顔をみれますように

いつでもお待ちしております。

【開催中の展覧会】

「清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズ Vol.82 原勉展」

会期:2017年1月17日(火)~2017年2月4日(土)

開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)

休館日:月曜日(ただし祝日の場合は開館、翌火曜日が休館)

観覧料:一般200円 中学生以下無料

 

21. 1月 2017 · アーティストシリーズ Vol. 82 原勉展 はコメントを受け付けていません · Categories: はるひ絵画トリエンナーレ, 展覧会

2017年1月21日(土)

アーティストシリーズVol.82原勉展が、今週からはじまりました

原さんは、2015年に開催された第8回はるひ絵画トリエンナーレで優秀賞を受賞されました

↓こちらが受賞作品《ひとのいれもの》

白地が美しく、モチーフは繊細に描かれています。

実は、下地にはレース模様がほどこされているのです(写真で伝えきれないのが悔しい!!)。

このような表現方法で描き始めたのは40代になってからとのこと。

自分の思ったことをどのような技法で表現すればいいのか、

描き続ければ自分にぴったりの表現方法がみつかるのではないかと

あきらめずに模索されていたようです。

そして、本日はアーティストトークでした。みなさん熱心に耳を傾けます

熱心にメモを取られる方も・・・

レース模様の下地の作り方についての説明もありました。

下地がどのようなものなのか触れるようにとサンプルを作ってきてくださりました

わたしもスリスリと・・・

レースのところはすこしだけデコボコでしたが、手触りは良かったです

原さんの制作のもとになっているのは、基本的には負の感情。

生活していく上で生まれた心のモヤモヤ、それを網で掬い取り、自分の心を浄化する。

「墓参りをしているのに近い」と原さんはおっしゃっていました。

《やわらかな迷路》は、見えているのになかなかたどり着けない、

蜃気楼のような印象を与えます。もどかしささえ感じさせます。

おぼろげでやわらかそうなのに硬度も同時に兼ね備え、行く手を阻んでいるかのよう。

それはまるで、人生に立ちはだかる壁や障害物。

こうした負の感情も 心のひだ として自分の一部と化していく。

嬉しいことも悲しいこともつらいことも、感じているのは自分自身。

負の感情から目を背けるのではなく、自分といういれものの中にちゃんとしまうことの大切さを教えられた気がします。

そして、その先には・・・

《bloom》

いまある幸せを思って描かれた作品。

未来への希望を感じさせます。

原さんもおっしゃっていた通り、

写真では伝えきれないおぼろげな表現。それはカメラの技術を超えた

人の目でしか捉えきれないニュアンスがあるからです。

是非とも、ご自身の目でじっくりとご覧ください。

原勉展は、2月4日(土)までです。

心よりお待ちしております。

 

【開催中の展覧会】

「清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズ Vol.82 原勉展」

会期:2017年1月17日(火)~2017年2月4日(土)

開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)

休館日:月曜日(ただし祝日の場合は開館、翌火曜日が休館)

観覧料:一般200円 中学生以下無料

 

 

 

 

04. 1月 2017 · アーティストシリーズ Vol.81 平野えり展 はコメントを受け付けていません · Categories: はるひ絵画トリエンナーレ, 展覧会

2017年1月4日(水)

あけましておめでとうございます

本年も芸術の魅力をたくさん発信できればと思います。

現在、アーティストシリーズ1人目、平野えりさんの展覧会を開催しています。

平野えりさんは第8回清須市はるひ絵画トリエンナーレで準大賞を受賞された方です

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展覧会のサブタイトルは「今この瞬間を刻む」。

一本一本、線を描くその瞬間を生きている…

同じ時は存在しないということ、今の自分はこれまで蓄積された

多くの瞬間によってできていることを彷彿させる作品です。

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画面から溢れ出すエネルギーを感じます。

平野さんは福祉施設や病院に勤務する中で、人の尊厳や命を身近に感じ、

それらをテーマとし制作されています。何度も引かれている線は、平野さんが

生きてきた証そのものなのです。

作品を構成する力強く集積した線のほとんどは鉛筆で描かれています

そして、なんと

展示作品《My DiaryⅧ 2016》は会期中にも線を加えられています。

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濃さの違う鉛筆を持ち、「ガリガリガリッ」と

力を入れて描いている平野さん。会期中も変化してゆく作品に

目が離せません

また、12月23日(金・祝)にはアーティストトークがありました

dsc_3343

モノクロの作品が多いですが、鮮やかな寒色の作品も

自分の好きな色で描くと落ち着くそうです

制作中は「勝手に手が動く」と述べられていましたが、

オートマティックに「無意識」に描いたり、線の重なりや面を強く「意識」して描いたり、

主観性と客観性を考えて、作品によって異なる姿勢で制作されています。

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アーティストトークの途中で制作する平野さんに、

みなさん目が釘づけ

作品が完成してゆく姿を生で見るのは面白いですね。

そして、作品タイトルの《My Diary》や《being》には、言葉にはできない

日々の思いを作品として描いた「日記(Diary)」そして、今もなおここに「存在し続ける(being)」

自分の証といった意味が込められているそうです。

作品が展示されている「今この瞬間」もまた、日記の1ページ。

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「作品が生きている」ように見えるほど、画面をうごめく線の力強さを

是非、実際に感じてください

会期は1月13日(金)までです。

心よりお待ちしております。

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【開催中の展覧会】

「清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズ Vol.81 平野えり展」

会期:2016年12月20日(火)~2017年1月13日(金)

開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)

休館日:月曜日(ただし祝日の場合は開館、翌火曜日が休館)

観覧料:一般200円 中学生以下無料

19. 11月 2016 · 榊原澄人 永遠の変身譚(3) はコメントを受け付けていません · Categories: 展覧会

2016年11月19日(土)

 

当館には、円弧を描く細長い展示室のほかに、もうひとつ展示室があります。

それが、この階段の下の黒いカーテンの向こう。

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ここは、ただ1作品《Solitarium》をじっくり鑑賞していただくスペースとしました。

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この展示室もまた、曲面が多用された作りになっています。

そして、写真ではわかりづらいかもしれませんが、奥に行くほど狭まっており、突き当りには円柱があります。

こうした建物の構造に、可動式の四角い展示壁面と細長い袖板2枚とを組み合わせて、スクリーンとしました。

全ての壁は斜めに配置してあるので奥行きがあり、まだこの先の空間があるのかと錯覚させます。

 

一瞬「どうなっているんだろう?」と思わせるこの展示方法は、実は偶然の産物です。

当初の構想では、円柱は隠し、お客様に正対するフラットな壁面の設置を予定していました。

が、展示作業の段階で、たまたま壁面をバラバラに仮置きし、《Solitarium》の映像調整をしていたところ、

榊原さんが「あ、この感じ、いいな。」とポツリ。

それでこの実験的な上映方法が決まったのでした。

 

榊原さんは過去にも立体的なスクリーンへの上映を試みています。

まるで洞窟の中のような雰囲気を好んで採用し、

なおかつ鑑賞者が絵の中に入る、つまり鑑賞者の影が映像にかかるのも歓迎しています。

ですから、みなさんご来館の際には遠慮なくこの部屋を歩き回って、作品を体感してくださいね。

 

《Solitarium》は、反時計まわりに全体がゆっくりと回転する作品です。

回転の中心(スクリーンの上端中央)にはギラギラときらめく太陽があり、

そのまわりを巨木、バクテリア、怪物、鳥、人間、ビル群など、ありとあらゆる物がうごめいています。

上述の通り一般的なスクリーンではないので、絵は時にねじ曲がり、時に引き伸ばされ、

遠近感覚が狂い、整合性のない摩訶不思議な世界となっています。

でもこれこそ、異様なエネルギーを放出する映像世界にぴったり。

 

今この時、清須市はるひ美術館でしか見ることのできない映像インスタレーションです。

 

 

 

 

【開催中の展覧会】

「榊原澄人 永遠の変身譚(メタモルフォーシス)」

会期:2016年10月4日(火)~12月11日(日)

開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)

休館日:月曜日

観覧料:一般500円 中学生以下無料

 

 

 

 

12. 11月 2016 · 第3回清須キッズアートラボ はコメントを受け付けていません · Categories: 教育普及

2016年11月12日(土)

 

清須市内の小学3~4年生を対象に年4回行っている子ども向け講座「清須キッズアートラボ」。

今回は、ちょうど当館でアニメーションの展覧会を開催中であることから、

「動く絵」をテーマとしたワークショップを行いました。

 

まずは「榊原澄人 永遠の変身譚(メタモルフォーシス)」を鑑賞。

長い絵巻状の壮大なアニメーションに、子どもたちはじっと見入っていました。

dsc_3242

 

その後作業スペースに移動して、榊原澄人さんは1秒間に12枚の絵を描いてアニメーションを作っていることを紹介。

つまり、先ほど見たアニメーションは、何千枚、何万枚の絵を描いてようやく完成するのです。

「さぁ、みんなも12コマの絵を描いて、絵を動かしてみましょう

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今回はまず、「ゾートロープ」という装置を作ります。

それから、紙に12コマの連続する絵を描き、紙を輪にしてゾートロープの内側に装着。

ゾートロープをくるくる回すと絵が動いて見える、という仕組みです。

 

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ゾートロープは、方眼の付いた黒い厚紙で12角形をつくり、その外周に壁を立て、覗き穴の切れ込みを12か所あけて作ります。

紙が厚いので、ホチキス留めをするちいさな手に力が入ります。

 

1 2

なお、ゾートロープの設計図は少々込み入っているので、あらかじめ当館のアートサポーターさんの協力を得て準備しておきました。

厚紙に12角形を作図したり、方眼のます目を正確に数えたりの作業は、大人のサポーターさんでも「頭の体操」だったようです。

サポーターさん、ありがとうございました。

 

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さて話を元に戻して、こちらはゾートロープの回転軸となる割りばしを通す穴をあけているところ。

穴だけはハサミではあけられないので、カッターを上手に使って切り落とします。

 

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ゾートロープが出来上がったら、子どもたちお待ちかねのお絵かきの時間

あっという間に12コマを埋めていきます。

 

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半分に切られたリンゴが大きくなってまん丸になるもの。

怒った顔がにこにこした笑顔になるもの。

てるてる坊主が風に吹かれて右に左に揺れるもの。

水中を泳いでいたナマズが水から顔を出すもの。

 

みんな、動きの面白さを抽出し、シンプルに、しっかりとした線で描けていました。

それをゾートロープに装着して回してみると。。。。

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「動いた」と歓声があがりました。そしてとっても嬉しそう

自分の描いた絵がいきいきと動く。本当に、これはちょっとした感動です。

 

たった1秒分のアニメーションをつくるだけで、こんなにたくさんの絵が必要なんだ、と

身をもって知った子どもたちでした。

 

 

 

催中の展覧会】

「榊原澄人 永遠の変身譚(メタモルフォーシス)」

会期:2016年10月4日(火)~12月11日(日)

開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)

休館日:月曜日

観覧料:一般500円 中学生以下無料

 

 

06. 11月 2016 · 榊原澄人 永遠の変身譚(2) はコメントを受け付けていません · Categories: 展覧会

2016年11月6日(日)

 

今回の展覧会の見どころは、何といっても当館の細長い展示室をいかした作品の上映です。

幅5メートル、長さ約28メートルのきわめて細長く、しかも湾曲したこの展示室は、

学芸員泣かせと言ってもよいイレギュラーな形状で、普段私たちは、

どうしたら作品が映える展示にできるか、お客様の動線をいかにスムーズにつくるか、展示の度に頭を悩ませています。

 

ところが今回は、この細長く湾曲した壁がとても役に立ちました。

絵巻状に長い作品《É in Motion No.2》を、横幅23メートルの大スクリーンでご覧いただくことができます。

映像にすっぽりと包まれた、圧倒的な鑑賞体験。

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《É in Motion No.2》は《浮楼》の手法を継承・発展させた作品で、

光と闇、生と死、言葉と沈黙、戦争と平和、創造と破壊。。。

つまり世界のすべてが詰まった壮大な叙事詩です。

 

作品のフォーマットからして、またしても型破りなアニメーション。

人が絵巻を見るとき右から左に繰り進めるように、映像もまた全体がゆっくりと動いていきます。

止まって見ていても、まるで歩いているかのように、世界が次々と現れては消えていく様子は、

私たちの歴史を走馬灯のように眺めている感覚と言ったらいいでしょうか。

この作品と対峙していると、人間の来し方行く末についての瞑想に誘われていきます。

 

榊原澄人さんは《É in Motion No.2》を制作する際、絵巻物に着想を得ましたが、

本作が絵巻物と違うのは、始まりも終わりもないということ。そして、エンドレスにループし続けるということ。

《É in Motion No.2》は、円環状の輪になったスクリーンへの上映を念頭に作られた作品なのです。

 

ご来館のお客様にお配りしている作品リストに《É in Motion No.2》の全貌が載せてあります。

dsc_3212_mini←作品リスト

なので、これを輪っかにしてみていただければ、左右の端っこがつながり、

円環状に構想された作品だというのがお分かりいただけると思います。

dsc_3229_mini

 

作品リスト自体も、榊原さんが絵巻に着想を得て《É in Motion No.2》を制作したことにちなみ、

巻物を模したデザインとしました。巻いた状態で自立します。

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当館では円環状のスクリーンはご用意できませんでしたが、《É in Motion No.2》のためにプロジェクター5台を連結し、

弧を描く壁面いっぱいに美しい絵が流れていく、という展示空間ができました。

彼の世界観は十分にお楽しみいただけます。

 

なお、本展の展示プランは、榊原さんご本人によるものです。

まだ実際に美術館にお越しいただいていない打ち合わせの段階で、展示室の図面をお見せしたところ、

すぐさま、この場所にこの作品をこういう形で上映したらどうかと、イラストで描いてくださいました。

その時の構想は、ほぼ実現されています。改めて、榊原さんの的確な判断に脱帽です。

 

 

 

 

 

【開催中の展覧会】

「榊原澄人 永遠の変身譚(メタモルフォーシス)」

会期:2016年10月4日(火)~12月11日(日)

開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)

休館日:月曜日

観覧料:一般500円 中学生以下無料

 

 

 

 

04. 11月 2016 · 榊原澄人 永遠の変身譚(1) はコメントを受け付けていません · Categories: 展覧会

2016年11月3日(木)

 

開催中の企画展 「榊原澄人 永遠の変身譚(メタモルフォーシス)」。

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展覧会チラシのメインビジュアルに惹かれてきてみたら、絵ではなく映像の展覧会だった、

そういうお客様もちらほらいらっしゃるようです。

 

榊原澄人さんは映像作家であり、アニメーションを多く制作しています。

不親切かもしれないけれど、あえて「アニメーションの展覧会」とは銘打ちませんでした。

それは彼が、一般的なアニメーションの「枠」を飛び越える作品を数多く生み出しているからです。

 

たとえば、出世作 《浮楼》(2005年)。

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設定は、教会のある牧歌的な町。この背景は固定のままずっと動きません。つまり、カット割りはないのです。

そこに登場する8人の女性たちがそれぞれに一定の動きを繰り返しながら、変身していきます。

赤ちゃんが少女になり、娘に成長し、恋をして、結婚し、出産し、老いていく。。。

私たちは、小さな町を去来する8人の小さな物語を追いながら、

次第にそれが女性の一生という一つの大きな物語として編み上げられていることに気づくのです。

このかつてない手法に気づいたとき、複雑な構想を可能にした精緻な計算に驚くとともに、

命の営みに向けられた作家の巨視的な 眼差しに、感動さえ覚えます。

反復(ループ)と変身(メタモルフォーゼ)を巧みに組み合わせて、ミクロの世界にマクロの世界が体現されています。

 

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人物が変身を繰り返すうちに桜が散って、町は新緑の季節に。

どうしても人物の動きに気を取られがちですが、

季節の移ろいまでこまやかに表現されていますのでチェックしてみてくださいね。

 

 

【開催中の展覧会】

「榊原澄人 永遠の変身譚(メタモルフォーシス)」

会期:2016年10月4日(火)~12月11日(日)

開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)

休館日:月曜日

観覧料:一般500円 中学生以下無料

 

 

 

 

 

13. 10月 2016 · 第6回清須アートラボ はコメントを受け付けていません · Categories: 教育普及

2016年10月13日(木)

 

今日は日本美術の講座を開催。

安土桃山時代に活躍した長谷川等伯の《松林図屏風》を取り上げました。

《松林図屏風》は大変人気が高い水墨画で、1969年に切手も発売されたので、

どこかで見たことがあるという方も多いことでしょう。

また、東京国立博物館で毎年正月に公開されているのを、ご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。

 

ただ、この作品には謎が多く、等伯の作品ではこれだけが群を抜いて有名なため、

今回は等伯の画業の最初から《松林図屏風》を描くに至るまでをたどりながら、お話ししました。

 

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現在の石川県七尾に生まれた等伯は、33歳頃まで郷里で、主に仏画を描いていました。

落款に26歳の時の作品と明記されたものもいくつか残されています。

その後上洛し、画力を蓄えて、大徳寺の三門の天井に龍を描いたり、

同じく大徳寺の塔頭寺院・三玄院の襖に山水図などを描きます。

 

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その後描かれた畢生の大作が、現在智積院に残る《楓図》(写真上)。

当時、信長や秀吉など名だたる天下人の注文を一身に受けていた狩野派の様式から

影響を受けながらも、瀟洒な秋草を散りばめた独自の表現を開拓しています。

 

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等伯は、古の名画からも多くを学び、中国の画僧・牧谿が描いた手長猿から

インスパイアされた作品をいくつか残してもいます。

牧谿に比べて猿の表情は豊かで、親子の情愛が強く打ち出されています。

そして秀逸なのが樹木の表現。勢いのある筆で画面に対角線上に枝が描かれています。

こうした牧谿の様式を消化して生まれたのが《松林図屏風》と考えられています。

 

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《松林図屏風》をプロジェクターで写し、受講者の方に印象を聞いてみました。

皆さんそれぞれに感じるところがあるようで、

春霞を描いたのではないかとか、冬の朝霧を思い起こさせるとか、

この松林の先にはお寺がありそうだとか、興味深い答えが返ってきました。

 

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等伯がいつ、何のために描いたか謎の多い作品《松林図屏風》。

本画ではなく下絵だったのではないかとか、もともとは屏風ではなく、

障壁画として描いたものを後に改装したのではないか、などと推測されています。

 

ともかく、私たちはこの絵から湿り気のある大気を感じることは確か。

ことさらに武勇を誇り、威を示す外向きの絵ではなく、静かで瞑想的な画面から、

一人の人間としての等伯の生き様をそこに重ね、共感を覚えるのです。

400年という時代を超えてなお愛されるのは、普遍的な心象風景に見えるからでしょう。

 

 

次回清須アートラボでは、名古屋市美術館で開催される「アルバレス・ブラボ写真展」を鑑賞します。

お楽しみに。

 

 

 

【開催中の展覧会】

「榊原澄人 永遠の変身譚(メタモルフォーシス)」

会期:2016年10月4日(火)~12月11日(日)

開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)

休館日:月曜日

観覧料:一般500円 中学生以下無料

 

 

 

 

 

 

 

 

20. 8月 2016 · 博物館実習 はコメントを受け付けていません · Categories: 教育普及

2016年8月20日(土)

 

清須市はるひ美術館では、毎年数名の博物館実習生を受け入れています。

今年は2人と少なめでしたが、密度の濃い実習期間を過ごしてもらいました。

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特別展の開会式スタッフに始まり、ワークショップのアシスタント、書誌目録の作成、野外彫刻の清掃、IPM(虫菌害対策)の勉強、収蔵庫での作品の取り扱いと調査、展覧会解説、展覧会見学レポート、展覧会企画発表・・・と盛りだくさんの内容を一生懸命こなしてくれた2人。

特に最終日の見学レポートと企画発表は重い課題だったにもかかわらず、充実した内容を披露してくれました

 

展覧会見学レポート

はるひ美術館以外の美術館や博物館(行先は自由)に実際に足を運び、お客さんとしてだけではなく学芸的な視点を意識しながら展覧会を見、気づいたことを発表する課題。

それぞれ、ヤマザキマザック美術館「パリの巨匠 アイズピリ」展、豊田市美術館「杉戸洋 こっぱとあまつぶ」展を選びました。

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展覧会を見るポイントとしては、

・展覧会タイトル・・・内容と合っているか、行きたいと思わせるか、インパクトがあるか、など

・展示・・・導線、章立て、キーワード、文字情報の量は適切か、文字の大きさは適切か、展覧会企画者の意図は伝わってくるか

・発見・・・見終わって、新しい知識を得たり、今まで考えたことがなかったテーマについて考えさせられたりしたという発見はあるか、あれば具体的にどのようなことか

といったことが挙げられます。

美術館は美術作品を見せるところ、という認識は一般的にあるかと思いますが、その作品の見せ方は学芸員の腕にかかっています。

展覧会は、作品の良さをどのように伝えるのか、どのようなところを見てほしいのか、またその作品の魅力を損なわないためにどのような展示環境が適切なのか、といったことが綿密に練られていますが、普段私たちが美術館で作品を鑑賞する際にはそのような「見せ方」について意識することはほとんどないと思います。

逆に「なぜこんな展示の仕方をしているんだろう?」とか、「解説があまり頭に入ってこない…」とか、作品以外のところに違和感を感じてしまうときには「見せ方」に改善の余地があるということなのかもしれません(あえてそのような違和感を演出することによって作品を効果的に見せる手法もありなのでしょうが)。

2人とも、選んだ展覧会のなかでさまざまなことにアンテナを張りながら鑑賞してくれました

作品の配置と流れによって画風の変化がわかりやすく提示されていたこと、壁や床の色を変えることで作品に共通するテーマが視覚的にあらわされていたこと、壁にキャプション(作品のタイトルや解説が書いてあるパネル状のもの)を付けずハンドアウトにまとめていることで作品の見方に違いが出ることなど、いつもとは違う視点で展覧会を見ることで、多くの気づきが得られたようです

 

展覧会企画発表

午後からは最終課題の発表。

これまでの実習で学んだことも踏まえながら、はるひ美術館の展示室を使うことを想定して展覧会企画を考え、プレゼンしてもらいました

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それぞれ自分の関心や問題意識に基づいて興味深い企画を提案してくれました。

もちろん内容としては粗削りですが、2人とも「何を伝えたいのか」という展覧会の根幹となる思いを明確に持っていた点は素晴らしかったです

発表を聞いた館長からも高評価で、斬新なアイデアに私たちも発見がありました

レジュメや展示室の図面、広報イメージ、作品の画像、聞き手への問いかけなどを織り交ぜたプレゼンにも工夫が見られ、飽きることのない発表でした。

お互いの発表を聞いて学ぶことも多かったのではないかと思います。

 

全6日間(1人は7日間)のカリキュラムを通して、常に真剣に取り組み学んだことを身に着けようとする2人の姿勢に関心しっぱなしでした。

将来学芸員の道に進むか否かは別として、今回の経験をこれからの人生に役立ててもらえたならうれしいです

2人とも、おつかれさまでした

 

 【開催中】

特別展「アルフォンス・ミュシャ デザインの仕事」

会  期:2016年6月25日(土)~9月25日(日)

開館時間:10:00~19:00 (入館は18:30まで)

休  館  日:月曜日(ただし祝日の場合は開館、翌平日が休館)

観  覧  料:一般800円、高大生600円、中学生以下無料

 

 

 

 

 

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