22. 12月 2020 · アーティストシリーズVol.93 幸山ひかり展「Go To Trip!最果ての景色へ」 はコメントを受け付けていません · Categories: 展覧会

はるひ絵画トリエンナーレで評価された作家から選抜して個展形式でご紹介するアーティストシリーズ。

美術館に足を運びづらい状況ということもあり、ごく一部ではありますが、ブログでその内容を綴りたいと思います。

 

2018年の第9回展で入選に選ばれた幸山ひかりさんは、鶏頭(ケイトウ)の花をモチーフに、人の生と死を日本画で描き続けています。

今回の展覧会は、「胎内めぐり」をテーマに構成されました。

タイトルの‟Go To Trip”は、話題の「Go To Travel」をもじって、地獄やあの世への小旅行をイメージしています。

入口が可動壁でちょっと狭くなっています。地獄への入口、あるいは胎内へと遡る産道のごとく・・・

   

小さな作品たちが奥へと誘います。

土の山や宇宙空間をあらわした作品のなかに、「九相図(くそうず:外に打ち捨てられた死骸が朽ちていく様子を描いた仏教絵画の画題)」に寄せた鶏頭の花が。

埋葬され、肉体は滅び、魂や精神と分離していく。枯れゆく鶏頭が人の死に重なります。

《温蓄》

《九相に寄せて》

鶏頭の花って、ちょっとグロテスクですよね。とくに久留米鶏頭と言われる種類は、その色も相まって、人間の脳みそや内臓を思い起こさせます。

1点だけ強くスポットの当たる作品《hito》。

幸山さんは、鶏頭を花としてというより、人に近いものとして(わかりやすく言えば、擬人化して)描き出しています。

産道を抜け視界が拓けると、もうそこは彼岸の世界。

 

3つのケースの中には写生画が収まっています。日本画の基礎であり、作品が生まれる前の大切な修練でもある写生。

実物を観察しながらその輪郭を丁寧になぞり、生命の本質をとらえる作業です。

それぞれのケースには「遺物」「餞(はなむけ)」「イメージへの昇華」というテーマがあります。

視線を上に移すと、新作《まんまんちゃんあん》が吊り下がっています。

こちらは実物を前にした写生ではなく、幸山さんの記憶に刷り込まれたいわば「想像上の鶏頭」。朱の線描で、さまざまな形の鶏頭が描かれています。それはまるで祈りのような作業。

仏画のような神聖さを醸す10点の連作は、ゆらゆらと宙に浮き迷路のように空間を分断して私たちを惑わせます。

《まんまんちゃんあん》部分

 

「鶏頭」はその名の通り鶏のトサカに似ていることからつけられた名前ですが、学名は「燃え盛る炎」という意味だそう。

幸山さんの描く鶏頭も、しばしば炎や蝋燭の灯のイメージに重ねられています。

《灯燭の輝くところ》

《点在する光》

《私とタネと花と土》

壁面には大作が並びます。

暗く不毛な大地に咲く幾種類かの鶏頭の花。強い存在感は人間の情念のようなものまで感じさせます。

《火焔光》

《まんまんちゃんあん》の迷路を抜けて行き着いた最深部(展示室の入口付近からは奥が見えないように配置しています)には、不動明王の迦楼羅炎のごとく激しく燃え盛る炎のなかで凛と発光する白い鶏頭。

最果ての世界の景色です。

 

 

《秋霊》

さらにその奥の壁面に亡霊のごとく浮かび上がる、その名も《秋霊》。

普段はあまり作品を展示しない場所ですが、あえてここにしてみました。鑑賞者は少し離れた場所からしか見ることができません。

《灯燭鶏頭図》

《なだる心体》

《とあるそこらへんの、》

《此岸より》

ぐるりと一周りして、最後は《此岸より》。

旅を終え、彼岸の世界をあとにして、此岸の世界へ再び戻っていきます。

 

 

瞑想空間のような展示室で、‟Trip”をお楽しみください。

 

O

 

清須市はるひ絵画トリエンナーレ

アーティストシリーズVol.93 幸山ひかり展

「Go To Trip!最果ての景色へ」

2020年12月5日(土)ー12月27日(日)

http://www.museum-kiyosu.jp/exhibition_info/2020/artistseries_koyama/index.html

 

 

 

 

29. 9月 2020 · SNSと美術館のカンケイ。 はコメントを受け付けていません · Categories: その他, 展覧会

 

とても久しぶりのブログです。

臨時休館が3か月続いた後、「清須ゆかりの作家 富永敏博展 自分の世界、あなたの世界」「原田治 展『かわいい』の発見」 と駆け抜けてきました。

ありがたいことに開館後は例年よりも多くのお客様にご来館いただき、とくに原田治展ではハード面でもソフト面でもキャパオーバーとなる状況で、お客様には大変ご迷惑をおかけしました…

老若男女の方々にお楽しみいただけたことは主催者として何よりの喜びです。

 

さて、コロナ禍を通してますます実感しているのが、オンラインの世界の力です。自粛期間はもちろんのこと、経済活動が再開された今も私たちには欠かせないインフラの一つになりました。

とくにSNSはミュージアムにとっても今や当たり前の広報ツールですし、SNSでの効果が展覧会の入場者数を左右するまでになっていると言っても過言ではないでしょう。

当館の原田治展に関しても、「オサムグッズ」世代でもなく、「ミスタードーナツのノベルティ」世代でもない10~20代の若者が多く来館してくださったのはおそらくSNSの発信力・拡散力の影響なんだろうなあと想像しています。

普段はあまり表に出ない我々学芸員も、この夏はお客様誘導のヘルプなどに当たることが多かったので、展示室でスマホのカメラ(だけでなく一眼レフのような高性能カメラも!)をかまえるお客様を毎日お見かけしました。

昨今、日本の美術館では情報公開の公益性から急速に「撮影可」化が進んでいて、以前よりも写真撮影に対するハードルが下がったことで作品情報に触れられる機会が多くなっていると思います。私自身も、気になる作品が撮影許可されていれば嬉々としてカメラアプリを起動しますし、またSNSで流れてきた画像から素敵な作品に出会うこともあります。美術館や美術作品へアクセスするきっかけとしてはとても大きい役割を果たしているのは間違いない!みんな上手に撮るな~と感心しています。

 

しかし良い面だけでもないのが難しいところ。

個人的に少し複雑な思いを抱いたのは、カメラ越しでしか作品を見ていただけないとき、そして作品がセルフィーのための道具や背景になっている場面に遭遇したときです。

美術館は「作品の実物」があることが強みであり、存在意義でもあります。そして鑑賞とは作品(あるいはそれを作った作者)との対話であり思考することでもあると考えています。

せっかく美術館に足を運んでくださったのならば、まずは自分の眼で!作品と向き合ってほしいなと思います。「面白い」「よくわからん」「キレイ」「色が好き」「嫌い」「かわいい」「なんかここが気になる」「気持ち悪い」などなど、どう感じるかは人それぞれ。気になった作品やもっと知りたいことがあれば解説文を読んでみるもよし、友人や家族と来たならば、それぞれの思いを話し合ってみるもよし。理解するよりも、自分の頭で考えたり、よーく観察したりすると意外な発見があったりもします。

なんだか小姑の小言みたいですが、もちろん、映えるアートを撮りたい気持ちはとてもよくわかるし否定もしません!

ただ(これは私も覚えがあるのですが)、かっこいい写真を撮りたいがゆえに画角選びに奔走したり、近づいて作品を見たい方がカメラの前を「すみません…」と通り過ぎる光景はなんだかな?と思ってしまったりするのです。

 

現在開催中の「物語としての建築-若山滋と弟子たち展-」は、タイトルの通り建築の展覧会です。

当館を設計した若山滋さんが先日のトークで興味深いお話をされていました。

建築というのは当然のことながらその場所に行かなければ見ることができないので、展覧会ではどうしても模型や写真、図面といった二次的な資料が展示されることがほとんどです。

であれば、その場でしか体感できない建築の情報を逆に抽象化して、建築がまとう「物語」、つまり言葉で表現することで想像力を喚起する展示にしたかった、という内容で、

実際に本展では情報を削いだ真っ白の模型とともに言葉を「読む」展示構成となっています(館長ブログも参照!)。

これは美術館で美術作品を展示することと真逆のあり方なんですね。

実物はここにはないけれど、ある方向から照らすことでその陰影を浮かび上がらせる、とでも言いましょうか。その陰影は実物を見てもわからないがゆえに、独自の価値を持ちます。

 

SNSもそんな使い方ができないかしらと思う次第です。

 

★今回唯一の「実物」は美術館の建物そのものです!若山氏が手がけた建築空間をぜひ五感で体感してください。

O

05. 12月 2019 · 「学芸員は展示作品」 はコメントを受け付けていません · Categories: 展覧会, 教育普及

今週末(12月8日)で企画展「嗅覚のための迷路」(以後、嗅覚展)も閉幕します。どの展覧会でもそうなのですが、会期が終わりに近づくと寂しくなるものですね。

前回のブログには、展覧会紹介と企画した背景について書かせていただきました。今回は、本展で新しく挑戦した「視覚障がい者向けのガイドツアー」について書きたいと思います。

嗅覚展の開催が決まったと同時に、やってみたいと思ったことが、視覚障がい者向けのイベントでした。

これまで、絵画から彫刻、映像と幅広いジャンルの展示をおこなってきましたが、視覚障がい者の方が来館されたことは(私の知る限り)ほとんどありませんでした。

嗅覚を使った鑑賞であれば、障がいに関係なく鑑賞していただけるのではと、ぼんやりと考えていました。しかし私自身、障がいをもっている方を対象としたイベントを企画したこともなければ、参加したこともない・・・

そんな時、あいちトリエンナーレで視覚障がい者向けイベントを実施すると知り、お邪魔させていただけるかアタック。ありがたいことに研修から参加させていただくことができました。本当に感謝しています。

研修では、視覚障がい者の方が普段どういった生活を送っているのか(たとえば、蛍光灯がまぶしくてサングラスをかけることがある、エレベーターやエスカレーターよりも階段のほうが安心するため利用することが多い、などなど)を知りました。

ほかにも、案内をする際は、どんな道を歩くのか、凹凸や傾斜の有無を確認したり、「10mくらい歩きます」など距離を具体的に伝えたり、どれくらいの広さの空間なのか数値で表したり。当たり前のことですが、言われないと気づかないことばかりでした。

「いざ企画するぞ!」となったものの、今回の展示作品の説明は特に難しかったです。たとえば、展示室2の《嗅覚のための迷路 ver. 4》では・・・

「天井から小瓶が108個ぶら下がっています」という説明だけでなく、どのくらいの大きさの瓶がどういった状態でぶら下がっているのかを伝える必要があります。

「碁盤の目のように規則正しくぶらさがっていて、1列に6つの瓶がぶら下がっています。それが18列あります。瓶と瓶の間は70センチです。」

どんな言葉を使えばいいのか・・・。誤解のないように伝えるには・・・。

もうひとりの学芸員に目を瞑ってもらい、練習を重ね、二人でどういった言い回しがいいのか考えました。

そもそも、当館の建物は特殊な形をしているので、手で触れる模型をつくってまずは建物のかたちを理解してもらおう!というところから始めました。

この模型もどういう風につくればいいのか試行錯誤しました(平面図の建物の輪郭に紐を貼り付ける?あるいは平面図の裏から鉛筆でつよくなぞって立体的にしてみる?などなど。→結果、全体を把握しにくいため没!ダンボールで外形を切り抜いてみました)。

そして、いざ本番!!

まず、当館がどういった建物、空間なのかということを模型を使いながらお話しします。

模型の緑マークは、作品のある場所を指しています。事務所にあった丸シールを何枚も重ねて貼り、ぷっくりとさせました(今、自分がどこにいるのか、今からどこに向かうのかをイメージしてもらうため)。

《嗅覚のための迷路 ver. 4》鑑賞中

腕を広げて、身体に当たった瓶を嗅いでいってもらいました。

「さっきよりも匂いが濃いかな~」なんて話しながら、一つずつ匂いを確認します。

実際のお花見では、手に取れる高さの桜の枝をもって匂いを嗅いでいるそうです。

《嗅覚のための迷路 ver. 5》鑑賞中

珪藻土マットを触って、どれくらいのサイズのマットが敷き詰められているのかをイメージしてもらいます。

そのあとに、それぞれのスリッパの色をお伝えしながら匂いを嗅いでもらい「あぁ~、これは何の匂いだっけ?」としっかり悩んでもらいました。

そして、スリッパを履いてナビゲートをしながら足跡をつけてもらい、さっき歩いたところを匂いだけで辿ります。ゴールまで辿りつけるかは、人それぞれ。

《OLFACTOSCAPEーローズ香の分解ー》鑑賞中

カーテンに触れながら8つの香料を嗅いでもらいました。

匂いは混ざり合っていると知る機会になった!と喜ばれていました。

目には見えない匂いだからこそ、障がいの有無に関わらずフラットに共有できる。嗅覚アートの可能性をまた一層強く感じました。

↑ 談笑中。嗅覚に関するエピソードなど。

最後に参加者の方から胸に刺さる言葉をいただきました。

「私たちにとって、学芸員は展示作品なんです。」

「学芸員の話を聞くこと、コミュニケーションをとることが面白い。美術館に行けば会える学芸員は作品と同じ。」

学芸員は癌だと言う人もいれば、作品と言う人もいる。ほんとうに面白い職業です。

みなさまにも、嗅覚アートの可能性を是非感じていただきたいと思います。

お待ちしております。

【開催中の展覧会】

「嗅覚のための迷路」

会期:2019年10月12日(土)~12月8日(日)

開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)

休館日:月曜日(ただし祝日の場合は開館、翌火曜日が休館)

観覧料:一般500円 中学生以下無料

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13. 11月 2019 · 嗅覚鑑賞の可能性  はコメントを受け付けていません · Categories: 展覧会, 未分類

現在、当館では企画展「嗅覚のための迷路」(以降、嗅覚展)を開催しております!

ちょうど会期の半分が過ぎたところです。

想定していた入館者数を3週間余りで達し!(ありがたい・・・

嗅覚に関するみなさんのつよい関心を感じています。

嗅覚展が開幕してから「ブログを書かねば!」とずっと思っていたのですが、

会期中、たくさんの気づきがあり、文章化する時間がとれずにいました。

今日はちょっとだけブログにしたいと思います。

本展は、嗅覚アーティストのMaki Ueda(上田麻希)さんの国内美術館での初個展となります。

展示している作品は3点。

①《嗅覚のための迷路 ver. 5》@2階オープン展示室

②《嗅覚のための迷路 ver. 4》@展示室2

③《OLFACTOSCAPE ーローズ香の分解ー》@展示室1

同じ空間に複数の作品を展示すると匂いが混ざってしまうため、

ひとつの空間に1点の作品を展示しています。

当館での展示室は3つなので、展示作品も3点となりました。

(エントランスは3つの作品の匂いがすでに混ざっているため、なかなかの香りかも・・・)

本展では、「嗅覚」で鑑賞していただきます。

美術館で視覚ではない他の感覚を使うことは、あまりないのではないでしょうか?

(たまに、触れるものや音を聴くものもありますが)

最近では、あいちトリエンナーレで展示されていたタニア・ブルゲラさんの

メンソールをつかった作品がありました。

(私も行ったのですが、他の展示室からもメンソールの香りが・・・)

匂いは、快・不快がはっきりするものであり、

かつ自身の意思とは関係なく知覚してしまうもの。

そして現代では、「香害」という言葉もあったり・・・と、

実は、美術館での展示はハードルが高かったりします。

それでも、「展示したい!」と思ったのは、嗅覚鑑賞の面白さを

伝えたかったためです。

私がはじめて「嗅覚っておもしろい!展示したい!」と思ったのは

パリにあった「ル・グラン・ミュゼ・デュ・パルファン(Le Grand Musée du Parfum)」にいったことがきっかけです。

※この博物館は2018年に閉館しており・・・残念。

そこでは、古代の香りを嗅げたり、

香水に使われる単体香料を嗅げたり、

 

 

 

 

 

 

 

禁断の香りとしてアプサントの香りが嗅げたりと、

とにかく嗅ぎまくりました。

こんなにも嗅覚を使ったことはいままでになかったなと思い、

なんともいえない疲労感と満足感。

日本ではこうした経験はなかなかできない(こんなに面白いのに!!!)と思い、

ずっと企画してみたいと温めていました。

秋の企画展の担当が決まり、「ここはもう、やるっきゃない!」と

すぐにUedaさんにオファーをしました。

絵画や彫刻の企画とはちがい、何からすればよいのか

どういった問題点があるのか、果たして実現できるのか。

国内での前例がない分、不安とプレッシャーも・・・。

そんなとき、Uedaさんの「大丈夫ですよ!」に何度救われたことか

本当に感謝しかありません。

開幕してからは、老若男女問わず幅広い方にご来館いただいています。

(本展では、おしゃれカップルが多い・・・!?

そして、嗅覚展の開催が決まったときにまず「やってみたい!」と

思ったのは視覚障がい者の方を対象としたイベントでした。

嗅覚を扱う作品は、障害の有無にかかわらずフラットに鑑賞していただけると思ったためです。

でも、視覚障がい者向けのイベントを今までにしたことがないし、参加したこともなく・・・

そんなとき、あいちトリエンナーレの視覚障がい者向けイベントの

研修から(運よく!)お邪魔させていただくことができ、レクチャーを受けました。

そして、レクチャーを生かして

作品と同じ小瓶の見本を用意したり、

美術館の形が分かるように模型をつくったり・・・

ようやく当館でも実施することができました!

視覚障がい者向けガイドツアーの内容については、また改めて。

【開催中の展覧会】

「嗅覚のための迷路」

会期:2019年10月12日(土)~12月8日(日)

開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)

休館日:月曜日(ただし祝日の場合は開館、翌火曜日が休館)

観覧料:一般500円 中学生以下無料

F

 

17. 8月 2019 · みんなと絵本とMAYA MAXX展、好評開催中! はコメントを受け付けていません · Categories: 展覧会

どうしてブログって滞ってしまうんでしょうね…世のブロガーさんたちを尊敬します。

 

久々の更新ですが、7月27日から「みんなと絵本とMAYA MAXX」、開催しております!

愛媛県出身、1961年生まれのアーティスト、MAYA MAXXさん。

みなさんどこかで名前を聞いたり絵を見たりしたことあるんじゃないでしょうか。

ロックバンドthe pillowsのアルバム『RUNNERS HIGH』のジャケット、なつかしの番組ポンキッキーズで流れていた『ピ ピカソ』、吉本ばなな『ハネムーン』、山田詠美『AMY SAYS』、北川悦吏子『空から降る一億の星』の挿画、京都駅前地下街「ポルタ」のイメージキャラクター「ポルタん」、CharaのツアーグッズなんかもMAYA MAXXさんが手がけました。

90年代カルチャーのアイコンでもあるMAYA MAXXさんは、デビューから現在に至るまで、ずーっと独学で絵を描き続けています。

そのなかでもとくに今回の展覧会で取り上げているのは絵本!

MAYAさんはこれまでたくさんの絵本を描いてきましたが、原画をお見せする機会はあまりありませんでした。というのも、絵本は印刷された書籍の形になって完成形なので、MAYA さん自身が原画を見せるということにあまり意味を感じていなかったためです。

しかし2018年に月刊誌「こどものとも」にて『さるがいっぴき』が発行された際に、原画の魅力をお見せしたいと思うようになったんだとか。

『さるがいっぴき』福音館書店、2018年

学芸員OがMAYA さんに個展をオファーしたのも、この『さるがいっぴき』に感銘を受けたからです。

とてもシンプルなストーリーがモノクロの画面のなかで展開しますが、1ページごとの力というか、重みというか、とにかく「圧」がすごい。

「生きる」という大きなテーマがたった数枚の紙に凝縮されていて、エネルギーをぶつけてくるような絵本でした。

絵本って、子ども向けでしょ?とあなどるなかれ。MAYAさんの作品は絵本であっても対象は子どもに限られません。むしろ、美術館やアートの存在を難しく考えている大人にこそ見て欲しい。

ものすごく乱暴に言えば、「考えるな、感じろ」タイプの作品です。言いたいことも言えないこんな世の中で、何かに感じることができるって、それだけでいいじゃないか!人間は感動する生き物だ~!と、展覧会を通してお伝えしたい(言わないけど)と個人的には思っています。

MAYAさん自身、近年制作環境が変わったことで、「自分が本当に描きたいものは何か」ということを改めて考えながら自由に制作をしています。

ライブペインティングやワークショップなどではお客様と気さくにお話したりサインしたりしていますが、飄々とフレンドリーに、誰とでもつかず離れず、対等に向き合う姿勢はかっこいいなと思います。

本展では、『さるがいっぴき』、『ぱんだちゃん』、『ばあちゃんがいる』(8月1日発行されたばかり!)、『ねこどんなかお』の4作の絵本原画と、最新の作品を合わせて展示しています。

ワークショップはすでに定員に達していますが、9月15日、9月29日のライブペインティングは申込不要です。午後ずっとMAYAさんが在館されますので、ぜひぜひご本人にも会いに来てください。

 

全館写真撮影可!SNS投稿可!グッズもかわいい!

お待ちしておりま~~す!

 

【開催中の展覧会】

「みんなと絵本とMAYA MAXX」

会期:2019年7月27日(土)~9月29日(日)

開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)

休館日:月曜日(ただし祝日の場合は開館、翌火曜日が休館)

観覧料:一般700円 中学生以下無料

 

O

18. 5月 2019 · 清須ゆかりの作家 岡崎達也展 はコメントを受け付けていません · Categories: 展覧会, 未分類

令和初のブログです

現在、清須市はるひ美術館では、

「清須ゆかりの作家 岡崎達也展 セラミックデザインとクラフト」を開催しています。

フライヤーなど、じっくりみてもらうと・・・

お分かりいただけたでしょうか!!!!?

・・・開館20周年記念

清須市はるひ美術館は、今年で開館20周年となりました!

おめでたい。

これからもよろしくお願いします!!

さて、清須ゆかりの作家シリーズも今回で、第5弾となりました。

本展では、清須に工房をもつセラミックデザイナーの岡崎達也(おかざき・たつや)さんを

ご紹介しています。

ここでは、展覧会の予備知識として、「鋳込み(いこ・み)」について書きたいと思います。

岡崎さんの作品の多くは、鋳込みという技法で作られています。

鋳込みとは、成形型に泥漿(粘土と水と水ガラスを混ぜたもの)を流しいれ、

型に水分を吸水させて、泥漿を固まらせる方法です。

実際に、5月11日(土)に行われた

公開制作「イコミってなあに?」の様子を辿ってみてみましょう

これが、石膏でできた型です。そこに、ムラができないよう、よく混ぜ合わせた泥漿を流し込みます。

 

流したばかりだと、下の写真のように表面に艶が!

ここから、吸水性のある石膏が泥漿の水分を吸っていき、数分後には・・・

表面がマットな感じになっています。

石膏に近いところから水分が吸収されていくので、

まわりから固まってきます。

時間がきたら・・・なかの泥を流し出します。

そして、縁のまわりに固まったものを取り除き、

バリを取るために水を付けたスポンジでならしていきます。

 

時間を置くと、しだいに型と成形物とのあいだに隙間が生まれ、すぽっと外せます。

 

ポットの持ち手も鋳込みで作られています。

ポットにつけるために、持ち手の微調整が続きます。

持ち手をポットにつけるのも、泥漿です。

 

 

隙間ができてしまうと、後々取れてしまうため、

筆をつかって、隙間を埋めていきます。

注ぎ口も特製の道具で調整。

ああ完成するとこうなります!

形ができあがるまでにも、デザインのアイデア出しや設計、

鋳込みでつかう石膏型の制作、試作など、

数多くの段階があります。

わたしたちの周りには、物があふれかえっています。

ですが、ひとつひとつは誰かがデザインしたもの。

もっと物を大事にしないといけないなと改めて考えさせられました。

【開催中の展覧会】

清須ゆかりの作家 岡崎達也展 セラミックデザインとクラフト

会期:2019年4月20日(土)~6月23日(日)

開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)

休館日:月曜日(ただし祝日の場合は開館、翌火曜日が休館)

観覧料:一般300円 中学生以下無料

F

 

 

 

29. 1月 2019 · 収蔵作品展のワークショップ はコメントを受け付けていません · Categories: 展覧会, 教育普及

2019年1月26日(土)

現在、展示室1にて「どこからみる?彫刻・立体作品の魅力」展を

開催しています。

「これまであまり展示する機会がなかった彫刻・立体作品をみせたい!」

という思いのもと、企画しました。

いつも絵画の展示ばかりなので、

彫刻、立体作品の展示はすこし新鮮でした。

どこを正面と捉え、作品の向きはどうするか。

ちょっとした角度の違いが重要で、

作品のもつ迫力や纏っている空気感を生かすか殺すか・・・

ライティングもいろいろ試し、影のでき方をチェックします。

とくに難しかったのは、

渡辺おさむさんの《KARESANSUI》シリーズでした。

名前のとおり、枯山水・・・

「間のとり方が試されている!!?」と

あーでもない、こーでもないとせっせと向きや角度をかえ、

離れて近づいて何度も確認、そして・・・納得のいく位置に。

そして、展示室の床には、なぞのマークが!

大量の「!!(ビックリマーク)」ではありません・・・

鑑賞のお手伝いツールとして足跡マークを貼ってみました。

本展のねらいは、意識してからだを使って鑑賞をしてもらうこと。

絵画作品をみるときも、近づいて画家の筆致をみたり、

離れて構図や色合いのハーモニーをみたり、みなさんも

おそらく知らず知らずのうちに動き回っていると思います。

彫刻や立体作品も、作品のサイズによって

離れたり、近づいたりと作品との距離をかえて鑑賞されることでしょう。

今回はそこにもうひとつ。「上から・下から見ることを追加したい!」と

ワークショップ「どこからみる?からだをつかった鑑賞体験!」の

第1回目を実施しました!

作品の解説をしつつ・・・

こんなことをしたり

・・・こんなことまで!!!

(安心してください。洋服が汚れないようにシートの上です!)

なんともシュールな光景に。

(学芸員Fは、左端ローアングルからの《KARESANSUI》がおすすめ)

上からみないとわからない服の皺の表現。

下からみないとわからない奥行きの表現の仕方。

同じ作品でも、目線の位置や高さをかえることで

作品のみえるものは異なり、印象もがらりとかわります。

このブログを読んで、ちょっと気になったそこのあなた!

2回目の開催が決まっています!

是非お申込みください!!

【ワークショップ詳細】

日 時 : 1月26日(土)、2月23日(土) 各日、10:30~11:30
場 所 : 清須市はるひ美術館 展示室1
参加費 : 無料(観覧料は別途必要)
定 員 : 各日、先着6名(小学校低学年以下は保護者同伴)
申 込 : 電話受付 TEL: 052-401-3881

a

おそらく、展示室に横になることができるのは

このときくらいしかないのでは・・・?!

いっしょに好きなアングルをみつけましょう!

【開催中の展覧会】

収蔵作品展「どこからみる?彫刻・立体作品の魅力

会期:2018年12月4日(火)~2019年3月8日(金)

開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)

休館日:月曜日(ただし祝日の場合は開館、翌火曜日が休館)

観覧料:一般200円 中学生以下無料

F

 

 

 

 

 

24. 1月 2019 · アーティストシリーズVol.88 田岡菜甫展「全く同じ家」 はコメントを受け付けていません · Categories: はるひ絵画トリエンナーレ, 展覧会

当館恒例企画のアーティストシリーズは、開館当初からおこなっている絵画(平面作品)の公募展「はるひ絵画トリエンナーレ」の受賞者のなかから選抜してご紹介する展覧会です。

新しい審査体制となった第9回はるひトリエンナーレで大賞を受賞した田岡菜甫さんの個展を開催中です。

大賞受賞作《遠吠え》

田岡さんの作品を予備知識なしで見たとき、「なんだかよくわからないけどなんか変??」みたいな感想を抱く人が多いのではないかと思います。

描かれているものはなんとなくわかるけど、どうやって描いているのか、画面上で何をしているのかがとらえがたいというか、ノイズが入った途切れ途切れの音声のような、捕まえられそうで捕まえられないもどかしさを感じます。

田岡さんの関心は、オリジナリティの追求にあります。

芸術作品である以上それは当たり前といえば当たり前のことなのですが、田岡さんの場合は制作の過程がおもしろい。

例えば、

・実物を見て描いた絵と、描いた絵を見ながらそっくりそのまま写した絵を並べる

・両手で同じ題材を同時に描く

・キャンバスの四辺から異なる題材を描く

・自由に手を動かして引いた線を避けながら、別の絵を重ねて描く

・モノの輪郭線の一部を写し取り、脈絡なく別の部分のラインを繋ぎ合わせていく

・見たことのないものを想像で描く

等々、作品ごとにいろいろなことをおこなっているのですが、すべて描くうえでストレスとなるような行為であることがポイントです。

自分の好きなものを描いたり、思い通りに描くことをせずに、あえて「やりにくい」状態で描くことで、オリジナリティ(制御されてもなお発生してくるもの、癖や無意識の領域にあるようなもの)をあぶり出していく、という手法で制作しています。

田岡さんは、完成した一枚のキャンバスではなく、描く前の画材選びから展示空間にすべての作品を配置するところまでを含んで一つの作品ととらえています。

綿密に練られた展示構成のなかでは、見上げるような高さにある作品や、床に平置きされている作品、壁に立てかけられているだけの作品も。

また絵に描かれた題材の実物や造花などのモノも重要な役割を果たしています。

そういう、「なんか変」な展示のなかで、私たちは否応なく作品とモノを見比べたり、見る角度を変えてみたり、「なんでこれがこんなところにあるんだろう?」とか、「隣同士にあるこの作品たちはこういうところが共通しているな」とか、単純に「なんか変な組み合わせだな~」とか、翻弄されたりヒントを得たりしながら鑑賞していくことになります。

(謎の提灯!)

「全く同じ家」という展覧会タイトルには、コピーやトレース、シンクロといったイメージが含まれていますが、展示の内容と合わせて想像を膨らませていただければと思います。

かめばかむほどおもしろい“スルメ作品”ですので、ぜひ会場にて空間全体をじっくり鑑賞してみてください。

 

【開催中の展覧会】

清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズVol.88 田岡菜甫展「全く同じ家」

会期:2019年月1月16日(水)~2月8日(金)

開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)

休館日:月曜日(ただし祝日の場合は開館、翌火曜日が休館)

観覧料:一般200円 中学生以下無料

 

O

21. 11月 2018 · 収蔵作品展「連想ゲーム」 はコメントを受け付けていません · Categories: 展覧会

「美術に対する知識がないから、何をどう見たらいいのかわからない。」

お客様からよく言われる言葉の一つです。

学芸員としては「これはですね・・・」とすべてに対して明確にお答えしたいのはやまやまですが、実際のところ私たちにもよくわからないものもたくさんあります。

もちろん、知識があるに越したことはありません。しかし「わからない」から「見ない」のは早計です。

開催中の収蔵作品展「連想ゲーム」は、絵画鑑賞のひとつの楽しみ方を提案する企画です。

タイトルの通り、ゲームのように鑑賞のルール(手順)を設けています。

キャプションにあるキーワードから、連想して作品をつなげていくようなイメージで展示室を進んでいきます。

例えばこちらのキャプション。キーワードが2つありますがサンプルとして「幻想的な赤色」を選んでみましょう。

作品①と②はどちらも同じキーワードが当てはまりますが、①の「幻想的な赤色」と②の「幻想的な赤色」は全く同じではないはずです。

同じ赤色でも、温かさのある夕焼け空のような赤色、鮮烈な血液のような赤色、神秘的な夜の空気をまとう赤ワインのような赤色と、表現はさまざま。

見る人によっても解釈が異なるでしょう。

キーワードを足掛かりにして、共通するところ、違うところを比較しながら鑑賞してみるだけでも、作品を見る行為を主体的に楽しめるのではないかと思います。

ちなみにキーワードの内容は描かれたモチーフや制作技法、作者の心情、作品の雰囲気などさまざまな観点から設定しています。後半になるにつれて難易度が上がります(個人差あり)。

(先日アートサポーターの皆さんにも実践してもらいました。キーワードを選びながら思い思いにうろうろ。)

 

人は一般的に、「理解できること」「知っていること」「見たことがあるもの」に対して安心感を持ち、「理解できないこと」「知らないこと」「見たことがないもの」を拒絶します。

わからないからこそ、見て、感じて、考える(考えてもやっぱりわからなければそれはそれで良いのです)という、ある意味「手間」とも言える作業を惜しまずに、生きていきたいものです。

 

収蔵作品展「連想ゲーム

会期:2018年11月3日(土)~11月28日(水)

開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)

休館日:月曜日(ただし祝日の場合は開館、翌火曜日が休館)

観覧料:一般200円 中学生以下無料

 

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01. 9月 2018 · 元永定正展 おどりだすいろんないろとかたちたち はコメントを受け付けていません · Categories: 展覧会

元永定正展を7月14日(土)より開催しております!

外観風景 

具体美術協会(略称、具体)の代表的なメンバーでもあり、

人気絵本『もこ もこもこ』(文・谷川俊太郎)の絵を担当された元永定正さん(1922-2011)。

本展では、絵本原画を入口として元永さんの多岐にわたる作品をご紹介しています!

本展は4つのチャプターで構成しています。

 

あああ

▶Chapter 1 おと と かたち

展示風景

ここでは、絵本原画を展示しています。

 

元永さんは、「これまでにないものをつくる」というモットーを掲げていた具体に参加していました。

その精神は具体を脱退後も引き継がれており、抽象画の絵本をつくることとなりました。

『もこ もこもこ』では、オノマトペと何にでも見える生き物が登場します。

みなさんは、何にみえますか?山?パックマン?切れ込みのあるかまぼこ??

元永さんの作品には、何にでも見える抽象的なかたちがたくさん登場します。

特にみどころは、『ころころころ』(どれも、みどころですが)!!!

《ころころころ》の展示風景

回は、都合上一列に展示することができなかったのですが、

実は、ページの終りの道の高さと、次ページの道のはじまりの高さが

同じで、絵本のページを追うと一本道になるようになっています。

凸凹の道や下り道、雲の上の道など、いろんなところを転がる色玉たち

転がる道に意識すると、自然に「ころころころ」の読み方も変わるのではないでしょうか?

▶Chapter 2 空間 を あそぶ

ああ

ここでは、立体物と色玉シリーズの作品を展示しています。

展示している《ななころびやおき》と《もーやんるーれっと(黒)》は実際に触ってお楽しみいただけます。

《ななころびやおき》は靴下のようなⅬ字型をしており、おきあがりこぼしなのです!

時間があれば、ずっと作品をゆらゆらしていたくなります。

\\ そして、なんといっても今回の目玉はこれ!!//

展示風景

《いろだまごまいしろ》(内4枚のみ展示)と《いろだまボール》です!

平面に描かれた色玉が実際に木製の色玉となって床を転がり始めました!

色玉は元永さん作品によく登場するモチーフのひとつです。

神戸の摩耶山のてっぺん辺りに輝くネオンの光からインスピレーションを受け、

ひっくり返したお椀のようなものの上に色玉をいくつか乗せた作品を描きました。

そこから色玉は絵画作品のみならず絵本『ころころころ』にも登場します。

展示室を転がっているカラフルな色玉は、なんと240個

触りたくなるのですが、この作品は触れません・・・!!

とある日、保護者の方に止められながらも、

「靴を脱いだら入れるのでは?」と考えた幼児が頑張って自分の靴を脱ごうと

している姿が微笑ましくも、「酷なことをしてしまった!?」と

思わずにいられませんでした。

(そのかわり、2階のさわったり踏んだりするコーナーでしっかりと遊んでもらいました

\\ 子どもたちに大人気!!!//

名古屋芸術大学の学生さんがつくってくれました

ああ

▶Chapter 3  いろ と かたち

ここからは、もうひとつの展示室に移動します。

一番大きな作品(Chapter 4 で説明)以外は、版画作品です。

いろいろなかたちを見てもらおうと、ランダムに配置しています。

絵本に登場していたかたちや、よく登場する「Q」のようなかたち。いろいろと探してもらうと面白い・・・!

元永さんは、水たまりのかたちや壁の染み、傷など自然の中から

たくさんのかたちを見つけ出し、ヒントにしていました。

水たまりのかたちなんて、なかなかじっくり見る機会はないですよね。

意識をすると、身の回りに面白いかたちが溢れているのかもしれません。

 

ああ

▶Chapter 4 理屈のない世界

ここでは、唯一、具体参加当時の作品を展示しています。

具体は、1954年に結成された関西の前衛美術グループです。

リーダーは吉原治良(よしはら・じろう)で、グループのモットーは

「これまでにないことをすること」、「他人の真似をしないこと」でした。

グループのメンバーは、足で絵を描いた白髪一雄(しらが・かずお)、

木枠に貼ったハトロン紙(計42枚)のあいだを突っ走って紙を破いた村上三郎(むらかみ・さぶろう)がいました。

それを聞いた人は、きっと「???」「なにがアートなの???」となってしまうのではないでしょうか。

ですが、彼らの中には確たるものがありました。それは、「精神と物質」についてです。

「具体美術は物質を変貌しない。具体美術は物質に生命を与えるものだ。具体美術は物質を偽らない。

具体美術に於ては人間精神と物質とが対立したまま、握手している。物質は精神に同化しない。

精神は物質を従属させない。物質は物質のままでその特質を露呈したとき物語りをはじめ、絶叫さえする。

物質を生かし切ることは精神を生かす方法だ。精神を高めることは物質を高き精神の場に導き入れることだ。 」

(「具体美術宣言」『芸術新潮』1956年12月号)

物質(絵具や紙など)を何かの表現するための道具として扱うのではなく、

精神を表現するときの相棒として物質と向き合っていました。

物質性を強調する白髪さんの盛り上がった絵具、

自らの身体・精神と物質を衝突させた村上さん。

そういった視点でみると、彼らの作品はとても面白いんです。

さて、本チャプターで展示している《作品》をみて、

元永さんの物質との関わり方を感じてみてください。

元永展のみどころはまだまだありますが、

とても長く書きすぎてしまったようなので、また次回に。

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【開催中の展覧会】

元永定正展 おどりだすいろんないろとかたちたち

会期:2018年7月14日(土)~9月30日(日)

開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)

休館日:月曜日(ただし祝日の場合は開館、翌火曜日が休館)

観覧料:一般800円 高大生600円 中学生以下無料

 

 

 

 

 

 

 

 

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