29. 9月 2020 · SNSと美術館のカンケイ。 はコメントを受け付けていません · Categories: その他, 展覧会

 

とても久しぶりのブログです。

臨時休館が3か月続いた後、「清須ゆかりの作家 富永敏博展 自分の世界、あなたの世界」「原田治 展『かわいい』の発見」 と駆け抜けてきました。

ありがたいことに開館後は例年よりも多くのお客様にご来館いただき、とくに原田治展ではハード面でもソフト面でもキャパオーバーとなる状況で、お客様には大変ご迷惑をおかけしました…

老若男女の方々にお楽しみいただけたことは主催者として何よりの喜びです。

 

さて、コロナ禍を通してますます実感しているのが、オンラインの世界の力です。自粛期間はもちろんのこと、経済活動が再開された今も私たちには欠かせないインフラの一つになりました。

とくにSNSはミュージアムにとっても今や当たり前の広報ツールですし、SNSでの効果が展覧会の入場者数を左右するまでになっていると言っても過言ではないでしょう。

当館の原田治展に関しても、「オサムグッズ」世代でもなく、「ミスタードーナツのノベルティ」世代でもない10~20代の若者が多く来館してくださったのはおそらくSNSの発信力・拡散力の影響なんだろうなあと想像しています。

普段はあまり表に出ない我々学芸員も、この夏はお客様誘導のヘルプなどに当たることが多かったので、展示室でスマホのカメラ(だけでなく一眼レフのような高性能カメラも!)をかまえるお客様を毎日お見かけしました。

昨今、日本の美術館では情報公開の公益性から急速に「撮影可」化が進んでいて、以前よりも写真撮影に対するハードルが下がったことで作品情報に触れられる機会が多くなっていると思います。私自身も、気になる作品が撮影許可されていれば嬉々としてカメラアプリを起動しますし、またSNSで流れてきた画像から素敵な作品に出会うこともあります。美術館や美術作品へアクセスするきっかけとしてはとても大きい役割を果たしているのは間違いない!みんな上手に撮るな~と感心しています。

 

しかし良い面だけでもないのが難しいところ。

個人的に少し複雑な思いを抱いたのは、カメラ越しでしか作品を見ていただけないとき、そして作品がセルフィーのための道具や背景になっている場面に遭遇したときです。

美術館は「作品の実物」があることが強みであり、存在意義でもあります。そして鑑賞とは作品(あるいはそれを作った作者)との対話であり思考することでもあると考えています。

せっかく美術館に足を運んでくださったのならば、まずは自分の眼で!作品と向き合ってほしいなと思います。「面白い」「よくわからん」「キレイ」「色が好き」「嫌い」「かわいい」「なんかここが気になる」「気持ち悪い」などなど、どう感じるかは人それぞれ。気になった作品やもっと知りたいことがあれば解説文を読んでみるもよし、友人や家族と来たならば、それぞれの思いを話し合ってみるもよし。理解するよりも、自分の頭で考えたり、よーく観察したりすると意外な発見があったりもします。

なんだか小姑の小言みたいですが、もちろん、映えるアートを撮りたい気持ちはとてもよくわかるし否定もしません!

ただ(これは私も覚えがあるのですが)、かっこいい写真を撮りたいがゆえに画角選びに奔走したり、近づいて作品を見たい方がカメラの前を「すみません…」と通り過ぎる光景はなんだかな?と思ってしまったりするのです。

 

現在開催中の「物語としての建築-若山滋と弟子たち展-」は、タイトルの通り建築の展覧会です。

当館を設計した若山滋さんが先日のトークで興味深いお話をされていました。

建築というのは当然のことながらその場所に行かなければ見ることができないので、展覧会ではどうしても模型や写真、図面といった二次的な資料が展示されることがほとんどです。

であれば、その場でしか体感できない建築の情報を逆に抽象化して、建築がまとう「物語」、つまり言葉で表現することで想像力を喚起する展示にしたかった、という内容で、

実際に本展では情報を削いだ真っ白の模型とともに言葉を「読む」展示構成となっています(館長ブログも参照!)。

これは美術館で美術作品を展示することと真逆のあり方なんですね。

実物はここにはないけれど、ある方向から照らすことでその陰影を浮かび上がらせる、とでも言いましょうか。その陰影は実物を見てもわからないがゆえに、独自の価値を持ちます。

 

SNSもそんな使い方ができないかしらと思う次第です。

 

★今回唯一の「実物」は美術館の建物そのものです!若山氏が手がけた建築空間をぜひ五感で体感してください。

O

26. 3月 2020 · 【卒業ブログ】展覧会から溢れる学芸員のカラー はコメントを受け付けていません · Categories: その他

2020.3.26

本日をもって、学芸員Fは清須市はるひ美術館から卒業します。

新型コロナウイルス感染の拡大防止のため、今月末まで臨時休館中・・・。

来館者の方やサポーターの方にもう会うことなく、去るのか・・・と、大変名残惜しく、

ブログで思いを綴っていこうと思います

このブログでは、Fが企画してきた展覧会を振り返りながら、

展覧会から滲み出る担当学芸員の個性・こだわり・モットーの面白さをお伝えしたいと思います。

また、学芸員について少しでも馴染みを持ってもらえる機会になれば幸いです!

わたしが、清須市はるひ美術館にきたのは2016年12月のことです。

(それまでは大学院で19世紀フランス美術(特にドガ)の研究をしていました。)

ここでわたしが企画・担当した展覧会は・・・

〇収蔵作品展「四季と日本画、ふたつの移ろい―星野逸朗コレクションを中心に―」

〇特別展「イラストレーター 安西水丸―漂う水平線(ホリゾン)―」

〇企画展「清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズ Vol.84 生川和美」

〇企画展「清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズ Vol.86 野中洋一」

〇特別展「元永定正展 おどりだすいろんないろとかたちたち」

〇企画展「清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズ Vol.87 田中秀介」

〇企画展「清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズ Vol.89 堀至以」

〇収蔵作品展「どこからみる?彫刻・立体作品の魅力」

〇企画展「清須ゆかりの作家 岡崎達也展 セラミックデザインとクラフト」

〇収蔵作品展「はるひ美術館の足跡」

〇企画展「嗅覚のための迷路」

〇企画展「清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズ Vol.92 羽尻敬人」

〇収蔵作品展「つなげる、過去から未来へー作品の修復ー」

みなさん、いくつ来ましたか?

当館に在籍している学芸員は2名。

1年に開催する展覧会(6本くらい)を交互に担当します。

(したがって、大体1年3本を担当することに!)

ほとんどの方は、展覧会を見にいって「これは学芸員の○○さんが担当したんだ~」と

考えることはないと思います(同業者間では、結構考えたりします)。

作品の魅力を引き出す企画・展示を考えるのは学芸員の仕事では当たり前ですが、

やはりわたしたちも人間。担当者のこだわりや好みはあります。

作品の見せ方、空間作りは個人によってどうしてもかわってくるのです。

わたしが展示構成を考えるときには、まず、第一印象を大切にしています

展示室に足を一歩踏み入れたときの「わぁ!」という気持ち。

なんかよくわからないけれど「楽しそう!」と思ってもらえる空間。

わくわくした気持ちで美術館に来てほしいと常に思っています。

たとえば・・・

▲元永定正展(2018)の展示室2

本展では、メインとなる作品をはじめにもってきて、来館者をお出迎え。

入ってすぐに壁を立てて、全体をすぐに見渡すことができないようにしました。

そして壁の向こうには、広がる色の海

章解説は、ポンジ生地のものを天井から吊るしました。

 

実はこれ、前年に開催した安西水丸展でもやっていました(笑)

▲安西水丸展(2017)

そう。わたしは、これがだいすきなんです!

静的な展示室で風に揺れる章解説。

動きのあるものが存在すると、展示室の空気がスッと抜けるような、

なんともいえない安心感がでていいなと気に入っています。

(とはいえ、動くから少し読みにくいですよね・・・すみません。)

また、ここでは・・・

▲元永定正展(2018)の展示室1

わたしの優柔不断さが・・・(笑)

本当にいいものって、ひとつに決められない。

そこはいっそ欲張りになって、全部みせちゃえ!と考えています。

▲元永定正展(2018)、岡崎達也展(2019)のフライヤー

これらも、決められなかった例のひとつです。

バリエーションのあるフライヤーになりました。

元永定正展に関していえば、左は大人向けで、右は子ども向けのつもりでつくりました。

フライヤーを手に取るときも、選べた方が絶対に楽しい!

展覧会が開幕する前からも楽しいという感覚を味わってもらいたかったのです。

さて、

「で、Fともうひとりの学芸員Oとの違いは!?」と気になりますよね。

このブログを書くにあたって、過去の展覧会の写真を見直したり、

Oさんに「展示のときに気にしていることは?!」と(いまさらながら)聞いたりして、

(後任の学芸員Iさんがナイスなことをいってくれたおかげで!!)わかってきたのは、

「調和」の違いでしょうか。

わたしの展示は、

建物や展示室に作品が馴染むような「空間を統一する調和」だとすると、

学芸員Oさんの展示は、

建物や作品の新たな面をみせるような「メリハリある調和」といえるのかもしれません。

 

学芸員Fの場合・・・

▲元永定正展(2018)

トイレの鏡に丸いカラーシールで、絵本『ころころころ』にでてくるシーンを再現。

▲いろんなかたちと素材を楽しむスペース。

\わたしは、館内全体を展覧会カラーに染めるのが、とにかく好きでした。

(ボールと友だち・・・ならぬ、建物と友だち

「○○の空間には、こういうスペースが似合いそうね」とか考えたり・・・

展覧会をみて得た気づきや感動、学びを展示室のなかだけで完結させたくない。

家まで、(なんなら今後の人生まで)持ち帰ってもらえればと思って企画しました。

 

一方、学芸員Oさんは・・・

MAYA MAXX展(2019)

作品に合わせて片方の壁色を黒色に!!

宮脇綾子展(2017)

一点一点、作品の魅力を損なわないように、かつ単調にならないように、展示に緩急を付けています。

(ちなみに、学芸員Oさんは段違いに展示するのが好き

▲宮脇綾子展と同時開催していたモンデンエミコ展(2017)

モンデンさんが1日1点ずつ制作している《刺繍日記》。

カレンダーに見立てて展示することで作品の日記的要素を提示したり、

▲モンデンエミコ展(2017)

作品にも使われている赤い糸を作品を囲むように巻き付け、

結界のかわりにしたり。

(ここでは、モンデンさんの一日一日の出来事に注目してもらいたかったようです。)

 

一言断りをいれておきたいのですが、

もちろん個人の「好き」ですべて展示しているわけでは決してありません。

「どの作品を展示すべきか、その作品をどうみせるか」が第一にあって、

その手段としてよく使う(好きな)方法があるというお話になります。

そこには担当学芸員の個性が溢れていて、そこが魅力だったりするのだろうと思います。

それから、展覧会の企画内容について。

とりあえずわたしは、「やったことのないことをやってみたい!」という挑戦心が

強くありました。

▲収蔵作品展「どこからみる?彫刻・立体作品の魅力」

当館は、公募展「清須市はるひ絵画トリエンナーレ」をベースに作品をコレクションしているため、収蔵作品は平面(絵画や額に入った作品)がほとんど。

わずかに収蔵している立体作品を展示する機会はあまりありませんでした。

▲収蔵作品展のイベント様子

「彫刻をあらゆるところから見てほしい」と思い、展示室で横になるワークショップを企画・・・!

大変シュールな光景となりました。

 

▲嗅覚のための迷路(2019)展示室2

「嗅覚のための迷路」展では、

スマートフォンやパソコンといったデジタル画面をみることに辟易し、

視覚情報ばかりで目も心も疲れた・・・という日常での気づきと、

パリの香水博物館での経験が加わり、「嗅覚をつかった展覧会がしたい!」と

企画を進めていきました。動機はほんの些細なことなんです。

進めるうちに、越えなくてはならない壁がいくつも出てきました。

たとえば、

「香りアレルギーの方が来た時の対応はどうするのか」

「何かあったときは誰がリスクをとるのか」

「木で迷路をつくるには、予算が足りない!でも展示したい!」

(実際には、当初予定していた作品3点のうち2点を変更することに)

展覧会が開幕できるか、白紙になるか、

それは結構、担当学芸員の熱量&愛にかかっているのかもしれませんね。

(もちろん、作家さんやまわりの力も必要ですが!あとは運!!)

学生の頃から、ずっとなりたかった学芸員。

そのデビューがはるひ美術館で本当によかったと思っています。

わたしは本日で、はるひ美術館とさよならですが、

学芸員Fの担当した展覧会が好み!という、そこのあなた!!

近い将来、「この展覧会気になる~」と思ったものが

実はわたしの企画だったりして・・・!なんて。そうなるといいですね。

 

展覧会は一人では決して作り上げることはできません・・・

いつも応援してくださっている、はるひ美術館ファンの皆様!!

(美術缶アンケートやTwitterなど全部読んでおります!心の支えでした。)

収蔵作家の皆様に、サポーターさん、展覧会に携わってもらった全ての方々、

そして、美術館スタッフの皆さん。

本当にありがとうございました!

はるひ美術館で学芸員として過ごせてしあわせでした。

またどこかでお会いしましょう。

 

清須市はるひ美術館学芸員

藤本 奈七

 

 

 

05. 1月 2020 · 想いを伝えるために はコメントを受け付けていません · Categories: その他

12月の半ばに、全国美術館会議の学芸員研修会に参加しました。

毎年異なるテーマが設定されるこの研修会。今回は「大規模災害被災地における学芸員の役割を知る」というお題でした。

会場は東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県気仙沼市にある、リアス・アーク美術館

これまでに何度も津波を経験している土地の在りようを、歴史的・文化的に伝えるため、震災直後から膨大な記録による調査・研究をおこない、常設展示として展開している館です。

(美術館の取り組みについは、学芸員の山内宏泰さんが詳しく語られていますのでぜひ。https://artscape.jp/report/curator/10156245_1634.html

防災や歴史教育の観点から災害が扱われることは一般的ですが、美術館として災害をどのように伝えていくのか、学芸員として何ができるのかということはとても難しい問題で、学芸員個人がスキルを磨けばどうにかなるというものではありません。

実際、震災当時は美術業界やアート界隈が自粛ムードになり、「こんな大変なときに芸術なんて」という空気があったように思います。

しかしそれでも、何年か経った後に必要になるのは、記録であり記憶です。「〇〇年にこんなことがあった」という客観的事実だけでなく、「このときに、人が何に対しどのように向き合い、感じ、考えたのか」というとてもナイーブなことを可視化し、表現し、共有することが人間には必要なのだということを登壇者の皆さんが口々におっしゃっていました(登壇者の立場は研究者、学芸員、自治体職員とそれぞれですが、皆さん自身、自宅が流されるなど被災者でもあります)。

過去・現在を含め、人の生きた証としての文化を守り未来へ伝えていくことがミュージアムの役割であるとすれば、私たち学芸員こそが「伝承」に際しできることがあるのではないかと考えさせられた、とても濃い研修会でした。

 

2019年、震災の記憶を伝えるための新たな施設「気仙沼市 東日本大震災遺構・伝承館」が新たにオープンしました。

海岸のすぐそばに位置し4階まで津波が到達した気仙沼向洋高校の旧校舎を遺構としてそのまま残し、映像や写真で生々しく震災の様子を伝える伝承館は、市の依頼で計画段階からリアス・アーク美術館が協力して、学芸員のマインドが全面的に生かされたそうです。

知識や数字で学ぶだけでなく、心で感じてほしい、体感してほしいという意向から、被災物が物語る強さや被災者の思いがダイレクトに伝わる施設になっています。

震災遺構はまさに衝撃的。

教室のなかに丸太や車が流れ込んできています。

津波によって流れてきた別の建物が外壁にぶつかってえぐれたんだそう。金属の手すりのポールが針金のようにぐにゃぐにゃ。

 こんな目を疑うような光景も。

震災直後は地域全体がこんな感じだったんですね・・・

 

災害後にもっとも危惧されるのは風化。伝承にあたり必要になるのは、想像力、表現力、感性、主観といった、アートにも通じるキーワードです。きれいごとにも思われるかもしれませんが、物事を他人事ではなく自分事として考えるには、結局「想い」や「心」に行き着くんだなと感じました。

遺構の屋上から見た穏やかな海と、早朝運よく見られた気嵐(けあらし)。

 

 

O

13. 9月 2019 · 【特別編 博物館実習生ブログ】実践としてのキュレーション はコメントを受け付けていません · Categories: その他, 教育普及

こんにちは。現在当館に実習生として来ているSです。☺︎

人生初ブログで右も左も分かりませんが頑張って書いてみようと思います。💪

 

僕は大学で学芸員課程を履修しており、理論はある程度学んできましたが、やはり実践となると全く勝手が違います。

特に来館者の目に見えない部分の仕事の多さには驚きました。展覧会の企画や図録の作成はもちろん、建物の管理、虫の駆除、作品の保存・管理、教育普及事業、ワークショップなどなど、仕事の幅が広すぎて日々その大変さを実感してばかりです。💦

現在はMAYA MAXXさんの特別展が開催中です。
それに伴い子ども向けのワークショップがあったので僕も参加してきました。👶

 

子どもたちは本当に無邪気で自分の描きたいものを描きたいように描いていました。見ている僕も楽しんでしまって、子どもたちの作品の力強さに感動したし、負けてられないなあと思いました。👴笑
完成した作品は当館に展示してあるので是非見てみてください!すごくいい作品になってます。

もちろんMAYAさんの個展も見てほしいです。
今回は絵本の原画中心の展示になっています。
僕は絵本の原画は初めて見たのですが、絵本になった絵と原画の絵の違いにとても驚きました。

その違いは、、ぜひ見に行って感じてみてください。🏃‍♂️
MAYAさんの新作絵画もめちゃくちゃかっこいいのでそちらも併せてぜひ。

 

先程学芸員はやることがありすぎて大変だ、と言っていましたが、やっぱり自分の企画した展覧会が形になり、図録が出版されて、お客さんがたくさん来てくれる、これ以上幸せなことはないと思いますし(僕はまだやったことがないので想像ですが笑)、それがキュレーターのメインストリームです。

作品は見る人に何かしらを与えるかもしれないし与えないかもしれない。僕はそれは感動でなくてもいいと思っています。なにか違和感のようなもの、今まで自分が生きてきて、身につけてきたものの外側を実感させてくれるのが芸術作品です(とりわけ現代美術はその傾向が強いでしょう)。だから何かを見た後に心がもやもやしてすっきりしないこともあると思います。もしかしたら苛立ちすら感じるかもしれない。そして僕はそれでいいと思っています。それもひとつの感動であり、衝撃なのです。もちろん心温まる感動も大切だし、それがよくないというのではありません。新しい感覚との出会いは常に感動的でもあり、受け入れがたくもあるということです。芸術作品というのはその双方性をもっていると僕は考えています。

そして学芸員は、色々なことを考えながら展覧会を企画します。作家の個展からあるテーマに基づいたものまで、その形態は様々です。展示する順番や高さ、また、その作家のどの作品を展示するかまで学芸員が決めるのですから、キュレーションの仕方ひとつで、展示される作品は見え方が全く異なります。そして、そこには必ず意図が存在します。なぜこの作品なのか、なぜこの作家なのか、何か伝えたいことや感じてほしいことがあってこそ展覧会は企画されるのです。だから展覧会自体がひとつの作品でもあると僕は考えているし、もし自分が展覧会をつくるならそういったことを大切にしたいなと思っています。また、鑑賞者の側に立って考えるならば、こうしたことを踏まえて美術館に足を運んでみるとまた違った見え方もしてさらに展覧会が面白くなるんじゃないでしょうか?

少し長くなってしまいましたが、今回僕はこんなことを考えながら学芸員の実習に向き合っています。お忙しい中ご指導してくださる学芸員OさんとFさんには感謝しかないです。残り2日の実習も頑張ります。👍

そしてぜひはるひ美術館に足を運んでくれると嬉しいです。
ありがとうございました。

 

S

10. 11月 2018 · 臨時休館中の美術館では・・・ はコメントを受け付けていません · Categories: その他

前回のブログから2ヶ月が経ってしまいました。

元永展のみどころをご紹介するはずだったのですが、台風21号の暴風雨を受け、展示室に雨漏りが発生。

そのため、元永展は9月11日(火)より開催中止となりました。

そして、長期間の臨時休館をいただいて、補修工事を行っていました。

不幸中の幸いで、作品に被害がなかったことが何よりでした。

酷暑だった8月からようやく涼しくなってきた9月末、

これから元永展に行こうと予定を立てていただいていた皆様には、

大変ご迷惑をおかけし、誠に申し訳ありません。

「元永展をより多くの方にみていただきたかった。魅力を紹介したかった。

楽しんでいただきたかった。」という思いを抱きながら、

作品のこと、これからの展覧会と美術館のことを考えると、

いま休館することが良いのではないかという判断となりました。

ただただ悔しい気持ちで胸がいっぱいでした。

「台風なんてこなければ・・・」「もっと前から対策ができたのでは?」と

沢山の「たられば」が頭をかすめつつ、臨時休館に伴う普段とは異なる

慣れない業務に追われました(この対応が相応しいのだろうかという不安に苛まれる日々)。

そして、一刻も早く開館できるように、雨漏りの原因解明につとめていました。

ですが、雨漏りの原因解明は一筋縄ではなかなかいかず、

怪しいとおぼしき箇所を補修しては、雨を降るのを待ち、

雨が降ったら、また雨漏り・・・。

「さて、次に怪しいところは・・・」の繰り返しでした。

他にも、建物の図面を引っ張り出してきて、建物の構造を確認したり、

過去の修繕記録を確認して「この建物の弱いところは、ここか」と知ったり。

前向きに捉えるならば、

これまで以上に、はるひ美術館について詳しく知ることができました。

学芸員のお仕事は

「収集・研究」、「展示・公開」、「保存・保管」、「教育普及」とよくいわれますが、

美術館の建物自体を知ることも重要なことですね。

とくに当館のような小さな美術館では、改修する予算を得ることも難しく、

予算が下りずに閉館を余儀なくされることも。

美術館を存続させていくためには、魅力的な展覧会を企画しつづけるだけではなく、建物自体を長く維持することも必要なのです。

今年は、愛知県美術館や豊田市美術館など改修工事で休館する美術館が多いです。

休館のあいだは、展覧会がみられないので寂しい・物足りないでしょうが、

建物自体の長寿命化は、美術館の長寿命化だとポジティブに考え、

次の展覧会を楽しみにゆったりと待つのもいいかもしれませんね。

そして当館は、11月3日(土)より開館しています。なんとか雨漏りがとまりました!!

現在は、収蔵作品展「連想ゲーム」を開催中です。

また、来月12月4日(火)からはお待たせしていた

清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズVol.87 田中秀介展」がはじまります!

※当初のスケジュールから変更がありましたので、

新しいスケジュールはこちらからご確認ください。

無事にふたたび開館することができ、美術館スタッフ全員一安心。

(でも、やっぱり元永展中止は悔しい・・・)

これからも、はるひ美術館をどうぞよろしくお願いします。

【開催中の展覧会】

収蔵作品展「連想ゲーム

会期:2018年11月3日(土)~11月28日(水)

開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)

休館日:月曜日(ただし祝日の場合は開館、翌火曜日が休館)

観覧料:一般200円 中学生以下無料

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13. 6月 2017 · 美術館の役割とは? はコメントを受け付けていません · Categories: その他

先日「全国美術館会議」というものに参加してきました。

全国美術館会議とは、1952年に設立された組織で、美術館のさまざまな問題をみんなで共有し、ともにつながりあう場として会合や研修会を開いています。

全国の美術館400館弱が加盟しており、美術館どうしの横のつながりを深める貴重な機会でもあります。

http://www.zenbi.jp/index.php

鎌倉で開催された第66回の総会では、美術館に関わる人たちが美術館の機能や役割についてどのように理解し、その内容をどのように共有していくべきか?ということについて、改めて話し合われました。

岐阜県美術館さんの「ミュージアムの女」やtwitterのハッシュタグ「♯学芸員のおしごと」等々、最近ようやく美術館の内部が社会に向けて発信される動きがありますが、

美術館や博物館は公共施設であるにもかかわらず、そもそもどういう役割をもっていて、誰がどんな仕事をしているのか、ということについて正しく理解されてこなかったのではないかと思います。

(美術は好きでも「美術館の中身」に関心を持つことは一般的に稀ですし、先日のニュースで初めて「学芸員」という言葉を耳にしたという方も少なくないでしょう…)

美術館は敷居が高いというイメージはいまだに根強く、関心がなければ一度も訪れることなく生涯を終えることもあるかもしれません。

もちろん、それぞれの美術館によって理念や特徴はさまざまですが、

美術館の活動基盤(調査・研究/収集・保存/展示・公開/教育・普及)のもと芸術を守っていくことを美術館に関わる者すべての共通理解とし、

そのためには芸術が人と社会に果たす役割を考え伝えていく努力をしなければならないということを改めて考えさせられました。

 

時代の流れによって、芸術のあり方も美術館のあり方も変化しています。

美術館はもはや象牙の塔やブラックボックスではなく、誰もがアクセスできるプラットフォームであるべきなのだろうと思います。

 

帰りに神奈川県立近代美術館にて「木魂を彫る 砂澤ビッキ展」を鑑賞。

黒蕨さんの作品と同じく、木彫作品のエネルギーがすさまじかったです。

写真は屋外展示のイサム・ノグチ《こけし》。

 

O

 

 

 

 

12. 3月 2017 · ミュシャの《スラヴ叙事詩》 はコメントを受け付けていません · Categories: その他

2017年3月12日(日)

 

昨年当館で開催した「アルフォンス・ミュシャ デザインの仕事」展の会期前後から、何かと話題になっていた「《スラヴ叙事詩》来日」。

いよいよ開幕ということで、初日に国立新美術館に行ってきました。

(公式サイトはこちら→http://www.mucha2017.jp/ 展示作業の様子が動画で見られるのは貴重!「ミュシャ団」作業着がおちゃめ。)

 

《スラヴ叙事詩》とは、アルフォンス・ミュシャ晩年のライフワークともいえる作品で、20点の油彩(テンペラ)画から成っています。

ポスターやイラストレーションなどの商業美術でアール・ヌーヴォー全盛のパリを席巻したミュシャでしたが、元来備えていた愛国心と「画家」への憧れを募らせ、20世紀に入ったころから《スラヴ叙事詩》を構想し始めます。

資金援助をとりつけ故郷のチェコに帰国したのが1910年。チェコとスラヴ民族の歴史を壮大なスケールで描き出した《スラヴ叙事詩》は、そこから18年もの時間をかけて制作されました。

プラハ市に寄贈されたのちは展示スペースの問題や政治状況・戦争の影響等で長らく不遇の状態にあった作品。20点全てが国外にまとめて出るのは初めてのことです。

展示室は一部撮影OK。

まあとにかく大きい。すべて同じサイズではないのですが、最大のもので約6×8m。

あまりにも巨大なので、それだけでモニュメンタル。圧倒されます。

西洋美術において伝統的に高位の画題とされてきた歴史画は「大きいこと」が一つの条件となっていましたが、ここではまさにデザイナーではなく、アカデミックな歴史画家としてのミュシャの一面を思い知らされます。

そのような伝統への回帰が20世紀以降の前衛美術の時代には受け入れられず、今なお必ずしも高い評価を受けているわけではないこの作品。

日本では非常に人気のあるミュシャですが、多くの人にとっての「好きなミュシャ」とはかなり異なる作品だと思います。

デザイナーとしてのミュシャが大好きな日本人、そしてスラヴという民族にあまり馴染みのない日本人が、この《スラヴ叙事詩》を見て何を感じるのか、率直な感想を知りたいところです。

 

最初で最後かもしれない全20点の来日。

貴重な体験となることは間違いないでしょう。おすすめです^^

 

16. 3月 2016 · 作品撮影作業 はコメントを受け付けていません · Categories: その他

2016年3月16日(水)

 

美術館は絵を見るところ、ではありますが、お客様の目には触れない裏方仕事がたくさんあります。

今日は3月初めの休館日中におこなった作品の写真撮影作業について、少しご紹介します

 

美術館にはたくさんの作品が所蔵されていますが、それらを管理するうえで写真データは必要不可欠です。

いろいろな用途がありますが、言ってみれば作品の「証明写真」のようなものですね

データベースで作品情報を整理するときはもちろん、展示プランを考えるときや広報活動などでも使用します。

レンズの歪みや色ムラ、光の反射が出ないようにする技術が必要になるので、美術作品の撮影経験が豊富なプロのカメラマンさんにお願いしました

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撮影スタジオがある美術館もありますが、当館にはないので展示室でおこないました。

(必然的に、展覧会撤収直後か搬入直前の休館中しかできない作業です・・・

エコパリ展撤収後、何もなくなったがらんとした展示室に、撮影対象の作品をずらっとスタンバイ。

撮影スペースに作品を1点ずつ運んで、撮り終えたら次の作品と交代

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大きな作品はとくに工夫が必要です。

照明の角度やカメラの高さなど、微調整しながら撮影します

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表面がガラスやアクリル板で保護されているものはストロボの光が反射してしまうので、額から取り出します。

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作品の下に敷いてある黒い布も、反射を防ぐためのもの。白い台や布の上に置くと、作品画面そのものの写り方に影響してしまいます

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見にくいですが、作品の上にある細長い2つのカードはカラーチャートこれと一緒に撮影することで、デジタル画像になっても実作品に忠実に色補正ができます

 

普通の写真撮影に比べて少し特殊なテクニックが必要な作品撮影ですが、さすがプロの力あっという間に約50点の撮影が終了しました

 

休館中の作業も無事終えて、現在は貸ギャラリーの展示中

学芸員は4月末からの企画展に向けて、絶賛準備中です

 

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3月も半ば。春が近づいております。早咲きの河津桜が満開です

 

【開催中の展覧会】

貸ギャラリー展示

■高橋遊写真展「み仏」

会   期:2016年3月15日(火)~3月21日(月・祝)

開館時間:10:00~19:00(最終日16:00まで)

 ■こどもデザイン室展2016

会   期:2016年3月16日(水)~3月21日(月・祝)

開館時間:10:00~19:00(最終日17:00まで)

 

 

 

 

 

30. 7月 2015 · アリス・スチュワードソンさんの作品(清須市立図書館たたみギャラリー) はコメントを受け付けていません · Categories: その他, 展覧会

2015年7月30日(木)

 

美術館お隣の清須市立図書館の一角、たたみが敷かれた小さなスペース。

そこになにやら不思議なものが

牛乳パックに空き缶、あずきバー、デコポン・・・

 

実はこれ、全て陶器で作られた作品なのです

作ったのはアリス・スチュワードソンさんというイギリス人の女性です

昨年の4~7月、留学生として名古屋芸術大学陶芸コースに在籍していたときの作品とのこと。

(現在はイギリスに帰られているそうです)

 

日本にやってきた彼女は、日常のなかでたくさんの不思議な文化に出会いました。

スーパーマーケットで売っているコーヒー牛乳の紙パックやコーヒーの缶、果物を保護するための発泡スチロールのクッションなど、

わたしたち日本人にはなんてことないものですが、彼女の目にはとても魅力的に映ったようです

とくにびっくりしたのがあずきバー!

今まで食べたことのない、甘い豆の味に日本独自の文化を感じ取ったのだとか。

あずきバーのでこぼこ部分や、箱のへこみかたなど、陶器とは思えないリアルな表現

 

スチュワードさんは、日本で見つけた不思議で素敵なものを、自分の専門領域の陶芸で表現しています。

陶芸といえばお茶碗や湯のみなどのイメージがありますが、あずきバーを陶芸で作ってしまうなんて、面白いですよね

もともとこのスペースに敷かれている畳ともマッチして、なんだか食べたくなってきます・・・

 

このスペースでは、名古屋芸術大学の学生さんたちの作品を不定期で展示しています。

今回の展示期間は決まっていませんが、しばらくはご覧になれますので、美術館・図書館にお立ち寄りの際はぜひのぞいてみてください

 

 

【開催中】

ミッフィーのたのしいお花畑 ディック・ブルーナが描くお花と絵本の世界展

会   期:2015年7月4日(土)~9月30日(水)

開館時間:10:00~19:00 (入館は18:30まで)

休 館 日:月曜日(ただし祝日の場合は開館、翌平日が休館)

観 覧 料:一般800円、高大生700円、中学生以下無料

 

 

 

 

 

 

19. 5月 2014 · 休館日の美術館で はコメントを受け付けていません · Categories: その他

2014年5月19日(月)

 

今日は休館日です。

お客様のいないこの日を利用して、当館では額装作業を行いました。

 

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カンバスに描かれた西村有さんの油絵作品2点。《庭園》と《竹林を抜けていく風景》。

これらは、当館のコレクション展で眼にされた方もいることでしょう。

 

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過去には、↑ こんな風にカンバスのまま展示もしました。

額縁がない方が、お客様には作品に集中して鑑賞していただけるという利点があります。

ただ、生のままのキャンバスは、移動時の振動や衝撃に弱く、傷みやすいという難点も。

 

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作品を長期間にわたってより安全に維持するためには、額で保護するのが一番。

ということで、少しずつ収蔵作品の額装を進めているのです。

 

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額の裏側には、保存性が高く、作品により安全な中性のボードを取り付けます。

これにより、作品の裏側からの衝撃を軽減し、ほこりがたまってカビの元になるのを防ぎます。

急激な温湿度の変化もおさえることができ、保存性が向上するのです。

ただ、残念ながらこのボードは日本では生産されておらず、輸入に頼っているのが現状だそうです。

 

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額の取り付けが終わったら、保存用のダンボールとのすきまに、クッションとなる材質をあてがいます。

作品の四つ角と、荷重のかかる下辺に挿入して出来上がり。

 

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当館では、作品は1点1点、段ボール箱に入れて、収蔵庫に保管しています。

 

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作品の色味にあわせて、左側の作品には少し白みがかった乳白色の額を、

右側の作品には、木地のままの額を選びました。

 

(左)Exif_JPEG_PICTURE (右)Exif_JPEG_PICTURE

微妙な違いかもしれませんが、額の色味は作品の印象にかかわるのでとても大事なんですよ。

 

さて今回は、額の取り付け作業の合間に、じっくりと作品を観察する時間が持てました。

《庭園》にはとってもかわいらしい魚が泳いで(飛んで?)います。

展示室ではなく、自然光が降り注ぐ明るい作業場では、その魚たちを描いた筆のタッチまで克明に見る事ができました。

 

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これらの作品は、またコレクション展で展示する機会もあるかと思います。

その際は、ぜひ、こんな愛くるしい魚にも眼を向けてくださいね。

 

そして、展覧会に行った時には、時々額縁を観察してみるのもいいかもしれません。

 

 

 

【開催中の展覧会】

清須ゆかりの作家 鳥羽美花展 時空を超えて-辿りついた場所より

会   期:2014年4月12日(土)~6月8日(日)

開館時間:10:00~19:00(最終日18:30まで)

休  館  日:月曜日(月曜日が休日の場合は次の平日が休館)

〈インターネット入館割引券〉

 

 

 

 

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