21. 11月 2018 · 収蔵作品展「連想ゲーム」 はコメントを受け付けていません · Categories: 展覧会

「美術に対する知識がないから、何をどう見たらいいのかわからない。」

お客様からよく言われる言葉の一つです。

学芸員としては「これはですね・・・」とすべてに対して明確にお答えしたいのはやまやまですが、実際のところ私たちにもよくわからないものもたくさんあります。

もちろん、知識があるに越したことはありません。しかし「わからない」から「見ない」のは早計です。

開催中の収蔵作品展「連想ゲーム」は、絵画鑑賞のひとつの楽しみ方を提案する企画です。

タイトルの通り、ゲームのように鑑賞のルール(手順)を設けています。

キャプションにあるキーワードから、連想して作品をつなげていくようなイメージで展示室を進んでいきます。

例えばこちらのキャプション。キーワードが2つありますがサンプルとして「幻想的な赤色」を選んでみましょう。

作品①と②はどちらも同じキーワードが当てはまりますが、①の「幻想的な赤色」と②の「幻想的な赤色」は全く同じではないはずです。

同じ赤色でも、温かさのある夕焼け空のような赤色、鮮烈な血液のような赤色、神秘的な夜の空気をまとう赤ワインのような赤色と、表現はさまざま。

見る人によっても解釈が異なるでしょう。

キーワードを足掛かりにして、共通するところ、違うところを比較しながら鑑賞してみるだけでも、作品を見る行為を主体的に楽しめるのではないかと思います。

ちなみにキーワードの内容は描かれたモチーフや制作技法、作者の心情、作品の雰囲気などさまざまな観点から設定しています。後半になるにつれて難易度が上がります(個人差あり)。

(先日アートサポーターの皆さんにも実践してもらいました。キーワードを選びながら思い思いにうろうろ。)

 

人は一般的に、「理解できること」「知っていること」「見たことがあるもの」に対して安心感を持ち、「理解できないこと」「知らないこと」「見たことがないもの」を拒絶します。

わからないからこそ、見て、感じて、考える(考えてもやっぱりわからなければそれはそれで良いのです)という、ある意味「手間」とも言える作業を惜しまずに、生きていきたいものです。

 

収蔵作品展「連想ゲーム

会期:2018年11月3日(土)~11月28日(水)

開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)

休館日:月曜日(ただし祝日の場合は開館、翌火曜日が休館)

観覧料:一般200円 中学生以下無料

 

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01. 9月 2018 · 元永定正展 おどりだすいろんないろとかたちたち はコメントを受け付けていません · Categories: 展覧会

元永定正展を7月14日(土)より開催しております!

外観風景 

具体美術協会(略称、具体)の代表的なメンバーでもあり、

人気絵本『もこ もこもこ』(文・谷川俊太郎)の絵を担当された元永定正さん(1922-2011)。

本展では、絵本原画を入口として元永さんの多岐にわたる作品をご紹介しています!

本展は4つのチャプターで構成しています。

 

あああ

▶Chapter 1 おと と かたち

展示風景

ここでは、絵本原画を展示しています。

 

元永さんは、「これまでにないものをつくる」というモットーを掲げていた具体に参加していました。

その精神は具体を脱退後も引き継がれており、抽象画の絵本をつくることとなりました。

『もこ もこもこ』では、オノマトペと何にでも見える生き物が登場します。

みなさんは、何にみえますか?山?パックマン?切れ込みのあるかまぼこ??

元永さんの作品には、何にでも見える抽象的なかたちがたくさん登場します。

特にみどころは、『ころころころ』(どれも、みどころですが)!!!

《ころころころ》の展示風景

回は、都合上一列に展示することができなかったのですが、

実は、ページの終りの道の高さと、次ページの道のはじまりの高さが

同じで、絵本のページを追うと一本道になるようになっています。

凸凹の道や下り道、雲の上の道など、いろんなところを転がる色玉たち

転がる道に意識すると、自然に「ころころころ」の読み方も変わるのではないでしょうか?

▶Chapter 2 空間 を あそぶ

ああ

ここでは、立体物と色玉シリーズの作品を展示しています。

展示している《ななころびやおき》と《もーやんるーれっと(黒)》は実際に触ってお楽しみいただけます。

《ななころびやおき》は靴下のようなⅬ字型をしており、おきあがりこぼしなのです!

時間があれば、ずっと作品をゆらゆらしていたくなります。

\\ そして、なんといっても今回の目玉はこれ!!//

展示風景

《いろだまごまいしろ》(内4枚のみ展示)と《いろだまボール》です!

平面に描かれた色玉が実際に木製の色玉となって床を転がり始めました!

色玉は元永さん作品によく登場するモチーフのひとつです。

神戸の摩耶山のてっぺん辺りに輝くネオンの光からインスピレーションを受け、

ひっくり返したお椀のようなものの上に色玉をいくつか乗せた作品を描きました。

そこから色玉は絵画作品のみならず絵本『ころころころ』にも登場します。

展示室を転がっているカラフルな色玉は、なんと240個

触りたくなるのですが、この作品は触れません・・・!!

とある日、保護者の方に止められながらも、

「靴を脱いだら入れるのでは?」と考えた幼児が頑張って自分の靴を脱ごうと

している姿が微笑ましくも、「酷なことをしてしまった!?」と

思わずにいられませんでした。

(そのかわり、2階のさわったり踏んだりするコーナーでしっかりと遊んでもらいました

\\ 子どもたちに大人気!!!//

名古屋芸術大学の学生さんがつくってくれました

ああ

▶Chapter 3  いろ と かたち

ここからは、もうひとつの展示室に移動します。

一番大きな作品(Chapter 4 で説明)以外は、版画作品です。

いろいろなかたちを見てもらおうと、ランダムに配置しています。

絵本に登場していたかたちや、よく登場する「Q」のようなかたち。いろいろと探してもらうと面白い・・・!

元永さんは、水たまりのかたちや壁の染み、傷など自然の中から

たくさんのかたちを見つけ出し、ヒントにしていました。

水たまりのかたちなんて、なかなかじっくり見る機会はないですよね。

意識をすると、身の回りに面白いかたちが溢れているのかもしれません。

 

ああ

▶Chapter 4 理屈のない世界

ここでは、唯一、具体参加当時の作品を展示しています。

具体は、1954年に結成された関西の前衛美術グループです。

リーダーは吉原治良(よしはら・じろう)で、グループのモットーは

「これまでにないことをすること」、「他人の真似をしないこと」でした。

グループのメンバーは、足で絵を描いた白髪一雄(しらが・かずお)、

木枠に貼ったハトロン紙(計42枚)のあいだを突っ走って紙を破いた村上三郎(むらかみ・さぶろう)がいました。

それを聞いた人は、きっと「???」「なにがアートなの???」となってしまうのではないでしょうか。

ですが、彼らの中には確たるものがありました。それは、「精神と物質」についてです。

「具体美術は物質を変貌しない。具体美術は物質に生命を与えるものだ。具体美術は物質を偽らない。

具体美術に於ては人間精神と物質とが対立したまま、握手している。物質は精神に同化しない。

精神は物質を従属させない。物質は物質のままでその特質を露呈したとき物語りをはじめ、絶叫さえする。

物質を生かし切ることは精神を生かす方法だ。精神を高めることは物質を高き精神の場に導き入れることだ。 」

(「具体美術宣言」『芸術新潮』1956年12月号)

物質(絵具や紙など)を何かの表現するための道具として扱うのではなく、

精神を表現するときの相棒として物質と向き合っていました。

物質性を強調する白髪さんの盛り上がった絵具、

自らの身体・精神と物質を衝突させた村上さん。

そういった視点でみると、彼らの作品はとても面白いんです。

さて、本チャプターで展示している《作品》をみて、

元永さんの物質との関わり方を感じてみてください。

元永展のみどころはまだまだありますが、

とても長く書きすぎてしまったようなので、また次回に。

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【開催中の展覧会】

元永定正展 おどりだすいろんないろとかたちたち

会期:2018年7月14日(土)~9月30日(日)

開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)

休館日:月曜日(ただし祝日の場合は開館、翌火曜日が休館)

観覧料:一般800円 高大生600円 中学生以下無料

 

 

 

 

 

 

 

 

06. 7月 2018 · 清須市第9回はるひ絵画トリエンナーレ閉幕と美術館賞! はコメントを受け付けていません · Categories: はるひ絵画トリエンナーレ, 展覧会

2018年7月1日(日)をもちまして、清須市第9回はるひ絵画トリエンナーレが閉幕いたしました。

ご来館いただいたみなさま、誠にありがとうございました。

前回のブログでも触れましたが、今回は前回のトリエンナーレに比べてお客様の賛否が両極端に分かれたような気がしています(あくまで個人的な印象ですが)。

好きな作品、嫌いな作品、とても共感できる作品、まったく意味が分からない作品。

いろいろあって当然です。それが公募展の醍醐味でもあります。

美術館はさまざまな価値観を受け止め、生み出す場所でありたいと思っています。

ポジティブなものであれ、ネガティブなものであれ、何かしらみなさまの琴線に触れる体験となったならば、幸いです。

・・・

さて、入館者の投票によって展示作品(入賞、入選)28点から選出される「美術館賞」が決定しました。

干場 月花《青になるまで。》 96票

全投票数493票のうち約2割もの票を集めました。

本作は「きよす賞」とのダブル受賞(きよす賞は入選のなかから選出されていますので、合わせるとトリプル受賞!)となりました。

日常の何気ない風景を切り取り、目の覚めるような青緑色とダークな色味のコントラストで仕上げた新鮮な作品です。

干場さん、おめでとうございます!

・・・

今回は28点の作品すべてに1票以上の投票がありました。

それはどの作品にもそれぞれの魅力があり、また私たちの感性が千差万別であることを裏付けています。

正解のないアートだからこそ、自由に楽しみたいものです

 

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15. 5月 2018 · 清須市第9回はるひ絵画トリエンナーレ、審査会の様子。 はコメントを受け付けていません · Categories: はるひ絵画トリエンナーレ, 展覧会

過ごしやすい季節になり、はるひトリエンナーレの審査会がおこなわれた2月末が遠い過去のよう。。。

受賞作品展が5月4日より開幕しております。→展覧会詳細

各種広報媒体でもお伝えしている通り、第9回を迎えた本展、過去最高の応募点数が集まりました。

※はるひ絵画トリエンナーレとは何ぞやという方はこちら

怒涛の準備を終え、新たな顔ぶれの審査員が揃った審査会の様子を少しだけお届けいたします

 

2018年2月27日(火)・28日(水)@清須市春日B&G体育館

直接搬入・委託搬入で集まった作品は全部で1,200点以上。これらの作品をどうやって審査するかと言うと、

体育館を仮設パネルで仕切り、いくつか通路を設けて作品をずらっと立てかけ、

審査員が通路を歩きながら作品を見ていく、という方法。

第8回から採られた審査方法ですが、審査員が座って作品が流れていくという方式よりも、審査員自身のペースで作品を見ることができ、また近寄ったり離れたり、気になる作品を再度見ることが出来たりとメリットが多いのです。(座って見るより疲労も軽減されるようです。)

審査員は各自付箋を持ち、気になる作品に貼って投票していきます。

もちろん票が重なることもありますが、最初の段階では投票数ではなく、1票でも投票されていれば通過としました。単純な多数決になることを避け、できるだけ多くの作品に可能性を残すためです。

これを何度も何度も繰り返し、少しずつ上位作品を絞っていきました。(一次審査では、作品を並べる→審査→撤去のサイクルを36回!)

高北幸矢館長、岡﨑乾二郎さん、杉戸洋さん、加須屋明子さん、吉澤美香さん、5名の審査員それぞれが1点1点の作品と真剣に向き合っている様子がわかると思います。

1,200点以上という膨大な数の作品を数時間で見るという作業は大変過酷です。しかも作品の個性は十人十色、審査員たちの個性もまったく違います。

作品の中身はもちろん、通過条件などの細かい審査内容についても、その都度議論を重ねながら進めていきました。

 

こうして2日間にわたり、一次~十二次の工程を経て、大賞1点、準大賞2点、優秀賞5点、入選20点、佳作30点が選ばれたのでした。

 

今回の受賞作品は、例年よりも「とがっている」印象を受けるかもしれません。

展覧会が開幕し1週間ほど経ちましたが、「面白い」「斬新」といった意見もあれば、「よくわからない」「理解できない」といった声もあります。

明確な審査の方針があったわけではありませんが、終わってみると確かに、万人が納得するような作品というよりも、今までにない表現や新鮮さ、技術だけでない純真さ、粗削りであっても挑戦的な意思が感じられる作品が選ばれたように思います。上位であってもすべての審査員が推したわけではなく、作家の個性と審査員の個性のぶつかり合いのなかで組まれたチーム編成、のような感覚に近いのではないでしょうか。(ここらへんの詳細はぜひ展覧会図録の「座談会」をお読みください!)

自分だったらこの作品を大賞にするのに、とか、この作品のどこが良いんだろう?とか、審査員に代わって作品を鑑賞することができるのも公募展の面白さかもしれません。

会期中には来場者による「美術館賞」の投票も受け付けています。多種多様な作品28点のなかから、ぜひお気に入りの作品を選んでいただければと思います。

 

また、予想をはるかに超えた応募数に対し事務作業が追い付かず、受付確認や作品返送が遅れるなど応募者の皆さまには大変ご迷惑をおかけいたしました。

この場を借りて、お詫び申し上げます。

 

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【開催中の展覧会】

清須市第9回はるひ絵画トリエンナーレ

会期:2018年5月4日(金・祝)~7月1日(日)

開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)

休館日:月曜日(ただし祝日の場合は開館、翌火曜日が休館)

観覧料:一般300円 中学生以下無料

 

 

 

06. 1月 2018 · アーティストシリーズ Vol. 84 生川和美展 はコメントを受け付けていません · Categories: はるひ絵画トリエンナーレ, 展覧会

2018年1月6日(土)

あけましておめでとうございます。

今年も多くの方にアートの魅力を発信できるよう頑張っていきます!

さて、今年もやってまいりました。

そう!!

企画展「アーティストシリーズ」の時期です。

毎年冬に開催される展覧会になります。はるひ絵画トリエンナーレ(2007年までビエンナーレ)

入賞・入選した作家を取り上げるシリーズの第84弾となります。

つまり84人目!!

当館では昨年12月20日(水)より「アーティストシリーズ Vol. 84 生川和美展」を開催しています。

生川和美さんは、2015年に開催された「清須第8回はるひ絵画トリエンナーレ」で入選した作家です。

ああa入選作品《Rose tree》

鮮やかな色をしたバラの花、葉っぱの緑の上にふわふわと漂っているようなイメージを浮かばせます。

生川さんの作品は、写実的な表現なので「写真みたい!」と思われる方もいるかもしれませんが、

カメラのように、一点のみにピントを絞ってはいません。

画面全てに、または複数の箇所にピントを当てています。

というのも、生川さんは全ての花や葉は等価値だと考えているためです。

描かれている花のひとつひとつに思い出があるので、全ての花が主役となります。

作品制作には写真を用いていますが、膨大な写真を元に、自身の中でそれらを再構成して作品に落とし込んでいるため、

写真とは異なる、ちょっと違和感のある空間になっています。

「 デッサンをとるように写真を撮ります 

生川さんとお話をしているときに伺った興味深い言葉です。

今回の展示では、生川さんの表現の変遷をたどってもらおうと、ほぼ制作年順に並べてみました。

花のクロースアップを描いていた時期から、次第に距離をとって花を捉えるように。

視野がひらけてきた現れといえます。

そして、本日14時よりアーティストトークを開催しました。

作家本人の口から作品についてお話を伺える絶好の機会です。

たくさんの方にご参加いただきました。ありがとうございました。

アーティストトークでは、作品を描いていた頃のエピソードや、

モチーフを選ぶまでの過程(生川さんの場合、まず、頭のなかに色や雰囲気のイメージが浮かび、

そのイメージに合うモチーフを探しに行く)などを伺いました。

やはりアーティストトークの醍醐味といえば、作家の作品に対する思い入れを感じられるところです。

鑑賞者は作品を一瞬で見ようと思えば見ることができますが、作家はその作品に何か月または何年、何十年と時間をかけて向き合っています。

学芸員でさえ計り知れない思いが絵具層のなかに、または一本一本の線に込められているのです。

アーティストトークがはじまる前は緊張していた生川さんですが、終盤には緊張も解けたようで、とても楽しそうに話されていました。

アットホームで温かさに満ちた時間が流れていました。

生川和美展は1月17日(水)までです。

みなさまのお越しを心よりお待ちしております。

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【開催中の展覧会】

清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズ Vol.84 生川和美展

会期:2017年12月20日(水)~2018年1月17日(水)

開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)

休館日:月曜日(ただし祝日の場合は開館、翌火曜日が休館)

観覧料:一般200円 中学生以下無料

 

 

 

 

 

 

29. 10月 2017 · モンデンエミコの刺繍日記 はコメントを受け付けていません · Categories: 展覧会, 未分類

企画展のタイトル「日常を綴る」は、「宮脇綾子展」だけでなく、同時開催の「モンデンエミコの刺繍日記」と共通のコンセプトです。

これまでにもたびたび開催されてきた宮脇綾子展を踏まえ、何か新しい切り口で作品の魅力を伝えられないだろうか?と考えていたとき、モンデンエミコというアーティストの存在が頭に浮かびました。

宮脇綾子とモンデンエミコ。二人に直接的な接点はありませんが、どちらも「手芸」をベースにする作家で、それぞれ異なる基本軸がありながら共通項がある。この二人の作品によって生まれる化学反応を見てみたいと思いました。

 本展のチラシも《刺繍日記》の1点に。

モンデンエミコは封筒や紙袋、チラシやレシートなど身の回りにある紙に刺繍をほどこした作品を《刺繍日記》と題し、約2年間、毎日1点ずつ作り続けています。

もともとは金属彫刻家で、刺繍とは程遠い世界に身を置いていました。

制作環境や家庭環境の変化にともない、作品づくりの手法を模索。たどりついたのが「刺繍」でした。

自分の専門分野である彫刻の世界を離れても、それでもなお表現せずにはいられない、強い欲求。

(睡眠時間を削りながら)毎日制作し続けることはとても大変なことですが、彼女にとっては一方でその苦労が作家としての矜持につながっています。

モンデンさんは、環境の制約を逆手にとり、限られた環境だからこそできることをオリジナルな表現に昇華させ、また「日記」という形をとることで何でもない日常を表現の題材にすることに成功しています。

画家にとっての表現ツールが筆と絵具であるように、モンデンさんの針と糸は彼女のコミュニケーション言語です。針で思考し、糸で発する。

日常とは、私たちの周囲を取り囲む空気のようなものです。当たり前に存在し、人生の99%はそれらで占められていて、改めて意識することなく、漂い流れていく。

しかしそれはポジティブに考えれば、私たちの心の持ちよう次第でどうにでもなる、とても柔軟で可能性に満ちた領域と言えるのかもしれません。

今回展示している宮脇綾子の《色紙日記》や旅行記などを見ていると、ただ毎日の出来事を綴っているという以上に、液状に流れる日常を掬い取り、丁寧に濾して一コマ一コマを結晶化させていくような、そんな印象を受けました。

嬉しいことであっても、悲しいことであっても、日常の小さな出来事を自らの心に留め置き、作品という形にあらわす。宮脇綾子とモンデンエミコの共通点だと思います。

 

当初、展覧会のタイトルを「日々是好日(にちにちこれこうじつ、またはひびこれよきひ)」にしようと考えていました。(抽象的すぎるということで、結局ボツ)

禅語のひとつで、損得や優劣、是非などにとらわれず、良いことがあっても悪いことがあっても一瞬一瞬ただありのままに生きれば、どんな日もかけがえのない一日となる、という意味だそうです。

モンデンさんの《刺繍日記》のなかに、偶然「日日是好日」とテキストが書かれた作品があり、ちょっと運命を感じてしまいました。

 

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13. 8月 2017 · 【特別編】学芸員の卵、参上! はコメントを受け付けていません · Categories: 展覧会, 教育普及

2017年8月13日(日)

こんにちは!博物館実習生Nです。

博物館実習生とは、言わば学芸員の卵というところです(自分で言っておいて恥ずかしいです)

実習生は学芸員になるため、実際に美術館の現場でその仕事を体験します。

清須市はるひ美術館には7月からおじゃましています。

もしかしたら、もうお会いしている人もいらっしゃるかもしれません…!

今までキッズアートラボのお手伝いやアートサポーターとの交流、

展示の工夫について教えていただく等々、多くの経験をしました。

実習生は事前に学校で講義を受けるのですが、現場に訪れると

学芸員の方がどのようなことを考えながらお仕事をしているのか

伺うことができ、発見ばかりです。

そして、本日は…こちら!

現在開催中の特別展「イラストレーター 安西水丸 ―漂う水平線(ホリゾン)―」展に

合わせて開催されたワークショップ「スノードームをつくろう!」のお手伝いをしました。

それぞれ自分の好きなオブジェを空き瓶にいれて、世界にひとつだけの

キラキラかわいいスノードームを作りました。

こちらのワークショップは人気のため、次回開催はすでに定員に達しております

実はワークショップ開催前に学芸員の方とスノードームの試作品をつくりました。

どうしたらスノードームが上手にできるのか、試行錯誤しました。

当日、参加者の皆さまにレクチャーできるように勉強することも

学芸員の仕事のひとつなのです。

学芸員の仕事のうち、普段私たちが目にする展覧会の企画・運営の仕事はほんの一部にすぎません。

実際は様々な活動をしており、突き詰めると奥が深いです。

私も学芸員になれるように精進します!

 

N

 

06. 8月 2017 · 安西水丸展 関連トークイベント はコメントを受け付けていません · Categories: 展覧会

2017年8月6日(日)

現在開催中「イラストレーター安西水丸 ―漂う水平線(ホリゾン)―」展、

関連トークイベント「知っておきたい!安西水丸さんのデザインを読み解くポイント」を開催

ゲストには、アートディレクターの水口克夫さんをお呼びして、

水丸さんのデザインのみどころを話していただきました。

水丸さんのデザインのお話にはいるまえに…

\\ デザインって、なんですか?//

さて、みなさん。

デザインという言葉は、いまや聞き馴染みのある言葉ですが、

説明できますか?

いざ、「デザインって、なに?」と聞かれると、意外に説明が難しいのではないでしょうか。

社会のあちこちにある課題(たとえば、若者の都会への流出による過疎化など)を解決し、

日常を豊かにするツールとしてデザインがあります。2016年のグッドデザイン賞金賞を

受賞したヤンマーの「トラクター(YT3シリーズ)」は、見た目のクールさだけではなく、

作業性にも配慮。若者も使いたくなるようなビジュアルで、農業への誇りを次世代の農業者に訴えかけています。

見た目の良さや、使いやすさだけではなく、社会の問題にもアプローチをするのがデザイン。深い。

水口さんのお話に、参加者のかたがたも学芸員も夢中でした。

そして、デザインについて学んだところで、水丸さんのデザインについてです

今回は、6つのテーマ(キャンバス、構図、モチーフ、色、文字、顔)に注目です。

教わったことを簡単にですが、以下にまとめてみます。

水丸展をご観覧されるときのご参考となれば幸いです

キャンバスについて

ーサイズを意識したデザインー

安西水丸さんの手がけた装丁をみてみると、

単行本と文庫本とでは表紙がガラッと変わっています。

本展でも展示している『村上朝日堂』は、その一例です。

中身は同じなのに、カバーが違う…

単行本の表紙を文庫本用に縮小したらいいのに…

なーんて思ってしまいそうですが、

大きさが違えば、絵の見え方も変わってきます。

それぞれのサイズに合わせてたイラストレーションを描くこと。

イラストレーターとしての水丸さんの誇りが感じられます。

構図について

ー全部は見せないずるさー

本展のメイン作品《スモモ》でもそうなのですが、

 

 

 

 

 

 

《スモモ》シルクスクリーン、1991年 ©Kishida Masumi

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右端の本のようにモチーフを全部みせず、途中で切り取る水丸さん。

皆川博子さんの『恋紅』(新潮文庫、1989年)のように

女性の顔が全部描かれず、特に目元がわからない…

表紙を見た人に「どんな女性なの?」と想像させる巧みな切り取り方です。

モチーフについて

ー描かれているモチーフは水丸さんのお気に入りたちー

水丸さんの好きなもの…スノードーム

多くの作品にモチーフとして登場しています。

たとえば、村上春樹さんの『夜のくもざる』(平凡社、1995年)や

山本益博さんの『食卓のプラネタリウム』(講談社、1984年)など

本展にもスノードームが描かれているものが多く、

「あそこにも!ここにも!」と探してもらうと楽しいですよ。

そして、もうひとつの好きなもの、野球についても取り上げてもらいました。

共通して言えるのは、同じモチーフであっても描き方が

何パターンもあってすごいということ。描き分けに注目です!

について

ー不自由の中の自由 制限の中の無限ー

(水口さんが述べられたこの言葉、本当にその通りだと思いました)

独特な配色も、水丸さんの魅力。

現代では、背景の色や配色をパソコンでいろいろ変えることはできますが、

水丸さんは、パントーンを使い、決められた色数の中で制作していました。

色の数が限定されているからこそ、さまざまな色の組み合わせを考えられる、

偶然性が生まれ、作品に独特の雰囲気が生まれる…

まさに、制限の中の無限。

田辺聖子さんの『女のおっさん箴言集』(PHP研究所、2003年)の、

背景のうすピンク色と黒色の配色は、毒を感じさせます。

 

文字について

ー書体は声質ー

書体が変わるとイメージも変化するもの。

イラストレーションだけで魅せるのではなく、

同時に文字でも魅了する水丸さん。

村上春樹さんの『螢・納屋を焼く・その他の短編』(新潮社、1984年)の

タイトルは手書きになっています(最終的に採用したタイトル文字は、

初めに電話で依頼を聞いたときにその場で書いたものだったようです!なんと驚き!)

タイトルの文字で本の世界観を表現するのは至難の業。

本展にも手書きタイトルのものがいくつか展示されているので、

見比べていただくと面白いかと思います。

について

ー「あぁ~、何かみたことあるような顔」ー

本の「顔」をつくるのが上手だった水丸さん。

水丸さんが描いた『普通の人』(宝島社、1982年)と『平成版・普通の人』(南風社、1993年)の

表紙に描かれている男性の顔。昭和の方は、しかめっ面でセンター分け、刈り上げた髪型…

平成の方は、両手にファーストフードをもち、ななめに分けた前髪、どこか緩さを感じさせます。

昭和と平成をうまく表現しています。

みるだけで、「あぁ!わかるわかる!」となってしまう水丸さんの描くイラストレーション。

「普通」をうまく表現できるのは、難しいことです(鋭い観察眼をお持ちだったことがわかります)

本展にも、たくさんの顔が描かれた「JALプランナー」のポスター作品が展示してあります。

その中には、なんと嵐山光三郎さんが隠れています!是非、探してみてください。

【ちょっとひと息学芸員のひとりごと】

デスクワークが多い日、「仕事の気分転換に…」と展示室に足を運ぶたび、

ほのぼのとした空間に心が休まります。

水丸さんの人柄が、この居心地のよい空間を生み出してくれているのだなと思うのです

(「うまく展示できたな」とかちょっとは思ったりもしますが笑)

カッターでパントーンを切った跡(ちょっとした引っ掛かり)など

作業の痕跡が伝わってくるのは原画ならでは。水丸さんを身近に感じられます。

とくに、北川 悦吏子さんの『ロングバケーション』(角川書店、1996年)の

原画はおすすめです。貝殻の白い部分は切り抜きになっており、

作業の細かさを感じさせます。是非、直接ご自身の目でみてください。

 

お し ま い .

 

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13. 6月 2017 · 宮脇綾子の理知とあたたかさ。 はコメントを受け付けていません · Categories: 展覧会

今秋に開催予定の「宮脇綾子展」の調査のため、富山県の砺波市美術館に行ってきました。

 

(建物が大きい・・・!)

宮脇綾子(1905-1995)は、古布の端切れなどを使ったアプリケ作品で知られ、名古屋を中心に活躍した作家です。

「手仕事」として表現されたアプリケ作品の題材は、庭に咲いた草花や畑でとれた野菜などとても身近なものばかり。

日常のささやかな幸福を綴るように制作された作品たちは、どれも心がほっこりするあたたかさにあふれていて、幸せとは心の豊かさから生まれるのだなぁということをひしひしと感じました。

色や形の組み合わせの妙はセンスの塊で、子どものあそびのような無邪気さがありながら、一方でモデルとなった対象や素材の布選びに対して鋭い観察眼が感じられます。

身の回りの人たちや自然への限りない愛情、そして妥協を許さない厳しさも垣間見たような気がしました。

本展は当館での企画展とは別物ですが、新収蔵品を中心に、当館なりのアプローチで綾子さんの作品の魅力をお伝えできたらと考えています。どうぞお楽しみに!

 

砺波といえば、チューリップ。

残念ながら見ごろは過ぎていましたが、道中いたるところで隠れチューリップを発見

 

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02. 5月 2017 · 驚きの造形と愉快な作家と。【黒蕨壮彫刻展】 はコメントを受け付けていません · Categories: 展覧会

新年度になりました。といいつつもうゴールデンウィーク(去年も同じことを言っている気がする…)!

久しぶりの更新です。

現在開催中展覧会はこちら。

黒蕨壮彫刻展 木によるリアリティと情念

 

「清須ゆかりの作家」シリーズの第4弾となります。

清須市にある医王寺さんというお寺に、黒蕨さんが仏像と飛天像を奉納しているというご縁で、展覧会を開催する運びとなりました。

愛知在住歴は長いですが、鹿児島生まれの九州男児。豪放磊落な薩摩隼人という言葉がぴったりの、おおらかな空気をまとった作家です。

彼の作品の特徴は、なんといってもまずは木彫とは思えないその造形。

ポスターやチラシを見て、「なんだこれは?」とぎょっとした方も多いのではないのでしょうか。

 

黒蕨さんの作品には人間のようなものが彫られていますが、身体の一部であったり、どこかが欠けていたり、「抜け殻」(つまり衣服などの身体の「入れ物」)だったりと、いびつでちょっと不気味です。

ほぼすべての作品に共通しているのは顔がないこと。感情を表情から読み取ることに慣れている私たちですが、顔がない身体(のようなもの)からはかえって強烈な情念を感じます。

展覧会のタイトルにもあるように、黒蕨さんはリアリティのある造形を通して、人間の情念を表現しています。

喜び、悲しみ、怒り、苦しみ、とまどい、あこがれ、、などなど、何かしらの「情」が、つやつやとした木肌からにじみ出てくる。

そこにちょっとしたユーモアが加味されることで、彫刻の重厚なイメージから良い意味で脱しています。

黒蕨さんが「とにかく驚いてほしい、なんじゃこりゃ!と思ってほしい」と話すように、難しいことを考えずにただただ面白い!と思える作品です。

それと同時に、その裏にある確かな技術と、人間の細やかな感情を読み取る敏感な感受性も、感じていただければと思います。

ご来館されたことのある方はご存知の通り、当館はとっても小さな美術館です。

限られたスペースにどのように配置していくかということに関しては絵画とは勝手が違い少々苦戦しましたが、

作家と試行錯誤しながら空間を作り上げました。

(お客様の動線や鑑賞ポイントが想定とは違っていたりして、様子を見ながら会期中にも配置や角度を変えたりしています。)

   

会期中は不定期に在館されているので、わはは!と豪快な笑い声が聞こえたらぜひお話してみてください。

5月4日(木・祝)14:00からはアーティストトークも開催します。

 

 

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