はるひ絵画トリエンナーレで評価された作家から選抜して個展形式でご紹介するアーティストシリーズ。
美術館に足を運びづらい状況ということもあり、ごく一部ではありますが、ブログでその内容を綴りたいと思います。
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2018年の第9回はるひ絵画トリエンナーレで入選/きよす賞/美術館賞 のトリプル受賞を果たした干場さん。
画面全体を支配する青緑色が印象的な《青になるまで。》が選ばれました。
実は干場さん、2015年の第8回展でも入選に選ばれていました。
そのときの受賞作がこちら、
※今回は展示されていません。
粗い筆致で捉えられたアノニマスな人物(細かなパーツや表情は読み取れない)、幾何学的に切り取られた鮮やかな色面が共通しています。
干場さんは一貫して人を描いていますが、特定の「誰か」を描きたいわけではなさそうです。
関心があるのは、同じ人間であってもそれぞれが持つ価値観や思いは異なること、そしてその多様性と表裏一体の、孤独や不安です。
どこにでもあるような日常のふとした一瞬を、スナップショット的に捉え(実際に、まずは写真を撮るそうです)、人物にフォーカスするために背景を色面にそぎ落とす。
現実の世界ではおそらく周りにも人がいたり、雑踏や道路などの生活音が聞こえているのでしょうが、ここではヘッドフォンを付けたときのように、それらのノイズから切り離されて、痛いほどの静けさを感じます。
と同時に、描かれた人々から発せられるとてもプライベートな空気感が、カラフルな色塊によって可視化されています。
具体的な特徴が描かれているわけではないのに、その人の年代や性格がなんとなく想像できてしまうのは、干場さんの表現力の高さが成せる技と言えるでしょう。
そこに自分自身を見る方もいるのではないでしょうか。
普遍的でありながら個性的であり、「こういうシチュエーション共感できるな」とか、「この人が考えてることなんかわかる」とか、
これまでの人生で経験してきたことと照らし合わせたときに、琴線に触れる何かがあるように思います。
「みんなちがってみんないい」を理想とする、現代日本社会のお題目のひとつ、「多様性」。
「個」を生きることは、「孤」を引き受けることでもあります。
とどのつまり、私たちは皆ひとり。干場さんの描きだす絵画には、その事実のもとに、淡々と、そして誠実に生きる人々の姿があります。
一人ひとりの小さな営みがモザイクのように寄り集まって形作られる世界は、個の多様さが際立つほどに色彩の深みを帯びていくでしょう。
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清須市はるひ絵画トリエンナーレ
アーティストシリーズVol.94 干場月花展
「一人ひとりの世界の中で。」
2021年1月9日(土)ー1月31日(日)
http://www.museum-kiyosu.jp/exhibition_info/2020/artistseries_hoshiba/index.html