16. 11月 2025 · アーティストシリーズ+ 対話する風景 リレートーク[阪本 結] はコメントを受け付けていません · Categories: はるひ絵画トリエンナーレ, 展覧会

開催中の企画展「アーティストシリーズ+ 対話する風景」では、過去の「清須市はるひ絵画トリエンナーレ」入選者から植田陽貴さん、阪本結さん、谷内春子さんをグループ展形式でご紹介しています。
今回のブログも関連イベント「アーティストリレートーク」より、阪本結さんのトークをご紹介します。

阪本 結(撮影:谷澤撮影)

アーティストリレートーク
日時:2025年10月11日(土) 13:30~(1時間ほど)
出演:植田陽貴、阪本結、谷内春子(いずれも出品作家)
聞き手:加藤恵(清須市はるひ美術館学芸員)

展示風景・作品写真|撮影:麥生田兵吾


《Landsccapes》油彩、キャンバス 194×157cm(6 点) 2023 ~ 2024 年

加藤:《Landsccapes》を最初に観た時は、ひとつの風景をパノラマ的に描いているのかと思いました。しかしよく観たら異なる複数の風景がうねるように繋がっていることに気づいて、それが一つの画面の中で面白い表現になっていると感じました。あと、やはり線の描き方に特徴があることも今回展示していただきたいと思った理由です。
まず、風景を描くことについて何か考えていることはありますか?

阪本:モチーフで言うと、私は自分の住居とアトリエの2拠点があり、その周辺の風景を描くことが作品全体で共通しています。普段何度も通る道で写真を撮るのですが、初めて旅行に行った場所で綺麗とか感動とかで写真撮るのではなく、昨日これぐらい(の高さ)だった草がこれぐらい伸びていたとか、昨日ここに停まっていた車がないとか、いつも可愛いと思っている犬が今日も散歩していて嬉しいとか、 初めて見るタイプの犬だとか(笑)。そういった毎日歩いてて気づくものを撮り溜めています。作品をつくろうと思った時に自分の写真アルバムを見返すと、ずっと工事現場を撮っていたり、工事の時に誰かが地面に書いた目印がかっこよくて撮り溜めていたり、その時々で私のトレンドがなんとなくあって、その変化も面白いなと思っています。《Landsccapes》は2016年頃から描いているので、10年弱同じようなフォーマットで描き溜めているのですが、 こうして同じ空間に並べると、私のトレンドも違うし、住んでいる場所も変わっているので、ある時は山だったのに急に街になったり。私の生活に基づいて周りの環境も変化しているから勝手にモチーフが変わっていく。そういうところを楽しんで描いています。

加藤:《Landsccapes》でいうと、向かって右から左へかけて制作年が新しくなっていますが、最初の頃は建物など見えているものが割とはっきり描かれていて、それが道路だったり空白の部分でつながっています。だんだん線が増えて何を描いているのかはっきりしない作品になっていく。この変化について、ご自分の中で何かきっかけがあったのでしょうか?

《Landsccapes》展示された6点の内5点

阪本:山の近くに住んでいた頃は草をたくさん描いていたので(草をモチーフにして)画面をつくることは慣れていたのですが、 街中に引っ越してから《Landsccapes》を描いて景色が変わったという実感が最初にありました。それをどうしたら草を描いていた頃と同じように描けるのだろうと思い始めて。 特に地面は場所によって全然違う。タイルの時もあるし、アスファルトの時もある。正解も見つからないままひたすら描いていたのですが、次第に地面をくっつけて描く方法に少し慣れてきたんですよ。そうしたら、線をたくさん使って街も描けるようになって、 もう一度草をたくさん描いてみようと。それで左側の(近年の)描き方に移っていきました。

加藤:今、線のお話が出ましたが、左側へ行くにつれて線による表現の幅がどんどん広がっていく。あと、例えば左から3番目の作品などは描いているものではなくて線自体が強調されて見えてくるところもあります。線を描くことについて何か考えていることはありますか?

《Landsccapes》展示された6点の内、左から3点目

阪本:線を線として描くということでは、先ほど話した工事の時に地面に引かれている白線や印がきっかけだったりします。もともと、風景を線の集積、積み重なりで絵にしたいという考えがこの制作スタイルでは最初にありました。それを思いついた一つの理由に、アメリカ合衆国って(地図で見ると)州が直線で区切られているじゃないですか。 あれは地形に合わせて区切っているのではなく、誰かが定規で引いたような線です。目の前にあるものを何かの都合で区切って線を引いていくところが、人がいる世界の一つのかたち、一つの表象なのかなと。人がいる場所を描きたいと思った時に、その象徴の一つとして勝手に引かれた線というものが自分の中にモチーフとして出てきて、 線の集積を描いていったら、時間の表現もできるし、場所の表現もできる、人の痕跡の表現にも繋がるんじゃないかというところから、線を重ねていく発想になりました。なので、地面に引かれている線は自分の発想の根源的な部分でモチーフとしてあります。

加藤:線を重ねていく「描き方」と同時に、風景や描く対象を自分自身が「見ている」ことも、阪本さんの制作において重要なのではないかと思います。 見ることと、 実際に線を引いて描くことについて、自分の中で何か繋がりはありますか?

阪本:見ることはとても大事な気がしていて、最初にいつも何気ない道で写真を撮るという話をしたのですが、その時には気づいていなかったけど、後から(作品制作のための)コラージュをつくる時にもう一度写真を見て「あ、こんなところに鳥がいる」みたいな。写真に写り込んでいるものに気づくことって意外とありますよね。同じものを何度も見返すことが理解することに繋がるという実感が制作の中にあって。そして、つくったコラージュを描く時に「あ、ここ繋がってる。」とか。本当に小さい気づきの積み重ねなのですが、見るを重ねることによって、やっとそのものを理解するところがあるのかなと。それが描く行為の中にもあって、この線、この形ってどうなっているんだろうと思った時に指でなぞってやっと気づくとか。《植木鉢の絵》などは色鉛筆も使っていて、色を乗せる時に画面との距離が近いのですが、描きながらこうなっていたのかと気づくとか。それを(描く)方法を変えてずっと繰り返しています。

《植木鉢の絵》油彩、キャンバス 91×116cm(2 点)2025 年

 

《植木鉢の絵》のもととなるコラージュ (阪本さんのアトリエにて筆者撮影)

加藤:スピード感のある線が多いように思うのですが、描く時のスピードについて意識していることはありますか?

阪本:線が一発で決まるとは思っていなくて、何度もやり直して描くから一回の判断が早いのだと思います。形を探ってる線も(作品に)残っているのですが、その線が“たくさん見た”ことの痕跡というか、物を見ることのリアリティとして線がたくさんある状態が 、私の思う「風景を見て描く絵」の形かなと思っています。それがブレてアニメーションのように見えてよりスピード感が出るのかもしれないです。

加藤:最初に当たりをつけるような線も消さずに描き進めるんですね。一方で《泥団子》は少し描き方が違うように思います。これは近所の子どもたちがつくった泥団子を並べて、それを見て描いたものでしたね。

《泥団子》油彩、キャンバス 15×21cm 2023 年

阪本:ずっと大きなサイズの絵を描く研究をしてきたので、小さい絵を描こうとした時、大きな作品のミニチュアを描いても意味がない、何か象徴的なイメージがないかなと思い、直感的に泥団子がいいんじゃないかと。最小限の風景のようなイメージです。

加藤:サイズによって描き方の違いは何か意識されましたか?

阪本:色をたくさん入れると情報があふれてしまうので、まずはモノクロにしました。線の手数もたくさん入れると何を描いているか分からなくなるので、シンプルに情報がそぎ落とされています。泥団子は割と抽象的、幾何学的な形態なのでスケール感もあまり分からない。

加藤:ありがとうございます。また、他のお2人からのご質問もお聞きしてよいでしょうか?

谷内:額装されている作品《背割堤》などは、事前にエスキース(下絵)のようなものとして描いているのでしょうか?

《背割堤》ペン、紙 41×52cm 2024 年

阪本:エスキースではなく作品として描いています。これも小さい作品を描く練習のひとつなのですが、このサイズを筆で描くとすぐに終わってしまうので、悩んだ結果ミリペンを使っています。筆先がミリなら線をいっぱい引いても同じ密度になるんじゃないかという発想で(笑)。去年、一昨年ぐらいから始めている実験的なシリーズです。

谷内:色がない(モノクロな)ので、他の作品と少し違う感じがして。大きな作品は動きがありますが、額装作品になると動きよりも集中して迫ってくる感じがあると思いました。

植田:制作過程について、コラージュをされるとおっしゃっていましたが、実際に紙を使ってコラージュをつくるのか、デジタル上でおこなうのか。また、コラージュしてイメージを重ねる時のルールのようなものがあるのか気になりました。

阪本:撮った写真は全部モノクロで印刷したものをハサミで切ってノリで貼ってコラージュしています。1メートル四方のものを一塊として1個のコラージュをつくります。好きなだけコラージュをつくった上で、キャンバスにあわせて必要な部分をつくり足したり、合体させたり、切り取ったりします。そのコラージュを見ながら、この風景が目の前に広がっていると想像して描き進めていく。《Landsccapes》では半端に残ったコラージュをどんどん足していけば永久に描けるという設定で制作していて、全体では9点作品があるのですが、今回は壁に収まる点数として6点を展示しました。

作品制作のためのコラージュ(阪本さんのアトリエにて筆者撮影)


物を見ることのリアリティ、そして作品に線がたくさんある状態が 私の思う「風景を見て描く絵」の形、という言葉がとても印象的でした。阪本さん、ありがとうございました。

リレートーク、次回のブログでは植田陽貴さんを取り上げます。
どうぞお楽しみに!

清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズプラス 対話する風景

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