12. 11月 2025 · アーティストシリーズ+ 対話する風景 リレートーク[谷内春子] はコメントを受け付けていません · Categories: はるひ絵画トリエンナーレ, 展覧会

公募展「清須市はるひ絵画トリエンナーレ」の受賞者・入選者による展覧会「アーティストシリーズ」。開館当初からこれまで100名以上のアーティストを紹介してきたこの展覧会は、新進作家たちの挑戦の場という役割も担ってきました。

今年度は「アーティストシリーズ+(プラス)」として、過去の入選者から植田陽貴さん、阪本結さん、谷内春子さんをグループ展形式でご紹介しています。各々の特徴的な絵筆の動き、そして3人の作品に共通するテーマ「風景」をもとに、それぞれの作品がひとつの展示室の中で繋がっていく心地のよい展示空間となりました。

今回は10月11日に開催した関連イベント「アーティストリレートーク」より、谷内春子さんのトークをご紹介します。

谷内春子(撮影:谷澤撮影)

アーティストリレートーク
日時:2025年10月11日(土) 13:30~(1時間ほど)
出演:植田陽貴、阪本結、谷内春子(いずれも出品作家)
聞き手:加藤恵(清須市はるひ美術館学芸員)

展示風景・作品写真|撮影:麥生田兵吾


谷内:これまでの制作から「風景」を自分の中で捉え直していた時に、庭(日本庭園)における見立てや、空間の伸び縮みが気になることだったと感じて。色と形によって絵はできているという割り切りの中で、風景をつくり替えていく時にどのような見立てが成り立つのか。絵があることで、観ている人に作用する、そんなやり取りができる場を提案できるのではないかと思って制作しています。

加藤:「空間の伸び縮み」はとても面白い言葉ですね。具体的にもう少しお聞きしてもよいですか?

谷内:例えば《Lie on #1》《Lie on #2》の青い横軸の帯や、緑の濃い色、薄い色は、一見すると絵具のストロークですが、それが田園や湖など見る側がイメージを寄せていくことで急に広い風景に見えてきたりする。観ている人の想像によって絵が伸びたり縮んだりするとも言えると思います。

展示風景
中央:右《Lie on #1》、左《Lie on #2》 膠彩、麻紙 2025年

加藤:抽象的な色と形の配置という点では、ヨゼフ・アルバースの色彩構成などが思い浮かびますが、そういった考え方と谷内さんの作品はまた違うようにも思います。その理由はやはり風景を描いているということなのかなと。「風景を描く」ことについて考えていることはありますか?

谷内:さっきも庭の話が出ましたが、枯山水などを見ることが好きで、岩が山だったり、砂利が海だったり、風景に置き換えて見立てる感覚に寄り添える面白さがあります。いつもさりげなく見ている風景の記憶が積み重なって自分の中でイメージとして生まれてくる。風景って誰しもが持っている共通の記憶という感覚があるのかなと思います。

加藤:谷内さんは自分が見た風景を描いているのかもしれないけれど、 作品を観る人はそれぞれの記憶の風景と繋げることができる。 さっきの「伸び縮み」の話にも繋がっていくように思いました。谷内さんはプリズムの光をテーマにされているとのことですが、「Lie on」シリーズなどもそうですか?

谷内:はい、黄色の形は光の動きのようなイメージが最初にあります。 プリズムから分光した虹の光そのものを描いているのではなく、プリズムの光を使って部屋の中で遊んだ時に光がチラチラ動く感じを記憶していて、 その動きだったり、光がたどる空間の感覚だったりを絵の中で置き換えて成立できないかと考えています。また、画面の奥にある帯状(グリーンとブルーの部分)をグラデーションにしているのは若干その時の記憶から来ています。

展示風景
手前:《四角形の空想・5つの対話》 奥:《四角形の空想・器》 膠彩、白金泥、銀箔、紗 2025年

加藤:「四角形の空想」シリーズは、なかなか観たことのないタイプの作品だなと思いました。とても薄い布に描かれていて、描かれている形と後ろの影が一体になって浮かんでいるように見えます。

谷内:最初はもう少し半透明の絹本に描いていてそれが透明に対する答えだったのですが、 白い膜が邪魔になってきて。 本当に透明になったらどうだろうと思い紗の素材にたどり着きました。 実像と虚像、絵具と影、そういうものがつくり出す世界、頭の中で重なって見えてくる不思議を、 実際の影と絵具で描かれたイリュージョンによって見えてきたら面白いかなと思い描き始めました。

《四角形の空想・5つの対話》部分

谷内:実は、四角形にたどり着いたきっかけもプリズムです。 四角形の形を絵に写していると、平面だけど奥行きを感じるなど不思議な感覚が四角という形態にはあり、そして(複数の)四角形を重ねると最初は見えていなかった奥行きが見えてくる。そういったドローイングの中で起こっていることは、 描いている人は(途中の過程や変化を通して)知っているけれど、 出来上がったものからはあまり感じられない。そのような経験から、この作品では観る人が動くと影と絵の角度も変わり、見え方が変化する、影も含めることで(そういった経験が)生まれないかなという考えもありました。

加藤:今回、谷内さんが執筆された博士論文などを資料コーナーで展示していて実際に読む事がことができます。谷内さんの文章の中に「知覚する」という言葉が度々出てくるのですが、まさにこの作品でも大事なキーワードではないかと思います。作品と鑑賞者の間にある「知覚する」ということについてお聞きしてよいでしょうか。

谷内:それは庭を見る時の感覚ともつながっています。人間だからこそ感じられる奥行き感がとても面白いなと思っていて、それを作品化しようとした時の試みが(作品には)全部入っています。 人間の頭の中でつくり出されるイリュージョンと、 物質との間に起こる不思議な関係を見えるようにすることが、知覚している感覚を見せるということなのかなと自分では考えています。

加藤:谷内さんが「四角形の空想」シリーズを描いている時、図像と同時にその影も現れてくる。 そういった制作過程で起こる知覚を、鑑賞者と作品との関係にも共有していると言えるかもしれませんね。

《Nature -Whispers of sea and mountain#1》膠彩、麻紙 2025年

加藤:《Nature -Whispers of sea and mountain#1》は、この夏に谷内さんが高知県で滞在制作をされた時に、現地でウニを収集してそのトゲをすりつぶして顔料にして使用していると伺っています。

谷内:(現地では)ウニが海の中で大量発生して漁師さんたちが困っていました。ウニは岩を食べてしまい餌がなくなって魚にとっては悪い存在という厄介者なのですが、(トゲの)色はすごく綺麗で。紫ウニという種を使っていて、 濃い黄色い紙に描いているのでちょっと茶色に発色していますが、紫色の絵具になるんですね。日本画では(鉱物や貝などを)つぶして細かくした顔料を膠という接着剤でつけることで絵具として使用できるので、この作品では(滞在制作先の)地元の素材を絵具にして描きました。

加藤:今回の展覧会へ向けた打合せの中で、今度高知へ行ってウニを顔料にしてみようと思っているというお話を聞いた時はびっくりしましたが、 実際に作品を観たらとても綺麗な色ですね。高知の滞在制作ではウニの他にも、水晶などの鉱物も収集されていて、そういった自然物も資料コーナーで展示しています。

資料コーナー(部分) 高知県で滞在制作した際に収集した自然物

加藤:最後に、リレートークということで他のお2人の作家さんから谷内さんの作品についてご質問などあればお願いします。

植田:「四角形の空想」シリーズは、制作時に影まで想定して(壁から)浮かせて描いているのでしょうか?

谷内:実際に描いている時は(作品のフレームを)直接壁に引っ掛けて描いているので、(この展示のように)ここまで壁から離して描けてはいないです。 なので影と絵の関係のブレは少ないのですが、ただ、展示する時の照明によっても結構見え方が変わるので、ライティングの調整でも見え方の操作はできるなと思います。今回は少し斜めから照明をあててもらいました。

《四角形の空想・5つの対話》部分

阪本:出品作品の中で《Nature -Whispers of sea and mountain#1》だけ直線で構成されているように思いました。描く時の気持ちの違いなどあったのでしょうか?

谷内:プリズムの光は平らな場所だと直線の光が走るのでモチーフは同じです。自分の中で感覚的なところを作品に出すと直線になるという傾向があって、今回は直線を素直に使って、メインは海だったり、素材の見え方がささやいているようにしたいというところがありました。素材自体をより敏感に出すには形があまり主張しないほうがいいということもあり、この作品は直線にしました。

展示風景

制作にまつわる貴重なお話をしてくださった谷内さん、ありがとうございました。

リレートークはまだまだ続きます。
次回のブログでは阪本結さんを取り上げます。
どうぞお楽しみに!

清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズプラス 対話する風景

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