22. 11月 2025 · アーティストシリーズ+ 対話する風景 リレートーク[植田陽貴] はコメントを受け付けていません · Categories: はるひ絵画トリエンナーレ, 展覧会

開催中の企画展「アーティストシリーズ+ 対話する風景」では、過去の「清須市はるひ絵画トリエンナーレ」入選者から植田陽貴さん、阪本結さん、谷内春子さんをグループ展形式でご紹介しています。
前回、前々回に引き続き、今回も関連イベント「アーティストリレートーク」より、植田陽貴さんのトークをご紹介します。

植田陽貴(撮影:谷澤撮影)

アーティストリレートーク
日時:2025年10月11日(土) 13:30~(1時間ほど)
出演:植田陽貴、阪本結、谷内春子(いずれも出品作家)
聞き手:加藤恵(清須市はるひ美術館学芸員)

展示風景・作品写真|撮影:麥生田兵吾


加藤:私は「第10回はるひ絵画トリエンナーレ」で初めて植田さんの作品を拝見して、どこか不思議な印象の絵だなと思いました。今回は入選作のプロトタイプとなる作品も出品していただいています。一貫して神聖、神秘的な風景を描き出しているところが特徴と言えるように思いますが、一方で、やはり筆の動きが見えてくる。絵具をキャンバスの目に引っ掛けるような描き方だったり、絵筆を動かす時の物質感も受け取れます。
まずは、描いているモチーフや風景について教えていただけますでしょうか。

《注釈のない国》油彩、キャンバス 45.5×38cm 2021 年(第10回はるひ絵画トリエンナーレ入選作のプロトタイプとなる作品)

植田:寒い場所が好きなので、とにかく北へ北へ取材に行くことが多いです。その場に自分が行って取材して、そこで感じた肌感覚、風が強くて森がザワザワしていたとか、光が眩しかったとか、その感覚を絵画表現に落とし込みたくて描いています。

《世界の合言葉は、》油彩、キャンバス 227.3×181.8cm(2点) 2024 年

加藤:《世界の合言葉は、》も、取材を元に描いたものですか。

植田:複合的ではあるのですが、今、奈良と三重の県境にある森で週1日仕事をしていて、同じ森を定点観測していると1週間で森の色が変わっていたり、天気によっても見え方が変化するので、(この作品は)その森の集合体のようなイメージです。実際に森の中の“ここ”という場所は決まっていないのですが、 森を歩いている最中によく見る木とか、印象的な場所は何回歩いても同じだったりします。

加藤:人物も描かれていることが多いですね。

植田:人型のものを描く時と、後ろ姿の人間として描いている時があります。人型のものは人間というより自分とは違うもの、境界線の向こう側にいるものたちとして描いています。山深い森の奥へ入っていくと、これ以上先に進むと人間の領域じゃないと肌感覚で感じる場所がある。その境界線の向こう側にいる存在や、彼らの領域のようなイメージです。

加藤:そういうものを描くきっかけは何かありましたか?

植田:ずっと境界線が気になっていて、生きているものとそうではないものとか、人間と動物、国籍や言語の違う人たちとか。境界線のこちら側と向こう側は、自分がいる場所を少しずらすと向こう側の景色や見えるかたちも変わる、といったことが気になっています。

《母語》油彩、キャンバス 162×130.3cm 2025 年

加藤:《母語》のように、焚き火や火のある風景もこれまで長く描かれていると思います。火の風景についても教えてください。

植田:火は、私が今考えている境界線のこちら側と向こう側の存在全てに共通する言語であると考えています。祝う時にも弔う時にも使われるし、明るさだったり、何かを食べる時にも使う。そこから火を言語として扱っています。《森の翻訳機》で描いている彼らが持っているものは、小さい声、小さい言葉としてランタンを持たせています。

《森の翻訳機》油彩、キャンバス 50×60.6cm 2025 年

植田:《母語》は大きな火で、人型のものと、抱いているのはよく猫と言われるのですが子鹿です。奈良に住んでいるので鹿が身近なのですが、 私は鹿のことを隣人と定義していて、外のものだけど一番近い他者。その鹿の子どもを抱いています。

加藤:奈良だと鹿は神の使いと言われていたりもしますね。

植田:森にもいて、道で遭遇したりします。

加藤:《世界の合言葉は、》では、右端の後ろ姿の人物は割と私たち鑑賞者に近い存在のようですが、《母語》では向こう側の存在がこちらを見つめていて作品を観ている私たちと対面しているようですね。

植田:(《母語》の人型は)目は合うけど通じるような通じないような。《whispering》でも、言葉(ランタン)を持ってはいるけれど目が怖い。これは青森を取材した作品です。

《whispering》油彩、キャンバス 145.5×112cm 2024 年

加藤:《whispering》では、向こう側の人が動きながらこちらを見ているのも特徴的ですね。
《光について》は、火ではなく光を描いていますが、これは実際に光が乱反射している風景に遭遇したのでしょうか?

《光について》油彩、キャンバス 162×130.3cm 2024 年

植田:もとはエノコログサ(猫じゃらし)のような植物がたくさん咲いている様子を写真に撮ったら(エノコログサが)反射して写ったものを描いています。私はとても目が悪くド近視で、ずっとそれが自分の弱点だと思っているのですが、ぼやけた視界で一番はっきり分かるのは光と色なので、光は気になるものなのだと思います。

加藤:確かにピントのあっていないぼやけた風景のように見えます。描き方についても聞いてみたいです。筆跡を残しながら薄めの絵具を重ねて描いているように見えますが、描き方について普段意識していることはありますか?

植田:私はなるべく短い時間で絵を完成させたくて。長く取り組むと視野の狭さも相まって絵具がねちゃねちゃになるので、なるべく一発で決めたいという考えが強くあります。《光について》もドローイングを描いた後にF3号サイズの作品で一度発表しているのですが、 それをもとに(今回出品している作品は)F100号サイズで描きました。この作品もほとんど一晩で描いています。絵具が乾かない間に一番明るい部分をぬぐい取ったりするので、とにかく迷わずザッと描けるようにと思っています。絵具が薄いのはそのためでもあります。

加藤:一気に描くのは、自分の中に溜めていたものを一気に吐き出すようなイメージでしょうか?

植田:できれば居合切りのように描きたい。そのために小さい絵やプロットをたくさん描いてなるべく迷わないようにと思っているのですが、やっぱり大きな絵は小さい絵を拡大するだけでは描けないので迷いはします。

ドローイング(筆者撮影)

加藤:植田さんはドローイングもたくさん描かれていて、しかも紙ではなくキャンバスをA4サイズに切ってそれに油絵具でドローイングをされている。今回は特別に資料コーナーでファイリングしたものを出品していただきました。ドローイングは自分の中のイメージ出しでもあり、描きの訓練でもあるのでしょうか?

植田:はい、筆運びや絵具選びを迷わないように、ドローイングは筋トレだと思っていて、深く潜る訓練と呼んでいます。

手前《みなも》油彩、キャンバス 116.7×116.7cm 2024 年
奥:《願いを言え》油彩、キャンバス 46.5×42.5cm 2025 年

加藤:今回は奥のスペースにも作品を展示しています。植田さんがこの展覧会のために下見に来てくださった時、このスペースも使ってみたいと提案されて。面白い展示になったと思います。《みなも》は水面を描いた作品ですね。

植田:これは琵琶湖ですね。琵琶湖は家から通えるのでたびたび行っていて。《あわいに舟》も琵琶湖でカヤックに乗った経験をもとに描いています。

《あわいに舟》油彩、キャンバス 45.5×38cm 2023 年

加藤:ありがとうございます。また他の作家さんお2人からもご質問ありますでしょうか?

谷内:資料コーナーのドローイングを拝見して一発で描きたいという感じがとても伝わってきて、 今お話を聞いてやっぱりと納得したのですが、一方で《世界の合言葉は、》は少し違う印象を受けました。 割とじっくり描かれたのかなと。

植田:トータルで1週間かかっていないくらいですが、サイズが大きいのでどうやって整理するかは考えていました。森のザワザワした感じを筆致で表現できないかとか、なるべく色数も絞って、 細かい描写を重ねましたが、時間はそれほどかかっていないです。

谷内:そうなんですね。他の作品は目が合うとか、印象が一瞬で決まるのですが、《世界の合言葉は、》は時間を感じるというか、じっくり観て、観る側も考える、そういう時間も含めて表現されてるように思いました。

植田:自分の中で最大サイズの作品だったので試行錯誤はあったと思います。

加藤:確かに私もこの作品はちょっと違う印象を受けました。他の作品は真正面の印象が強いですが、《世界の合言葉は、》は斜めの視線誘導があるというか、先に左手の人型に視線が行って、その後右手の人間に目が行く。(時間を感じるのは)観る側の視線の動きもあるのかなと思います。このような斜めの構図の作品は今までもありますか?

植田:2枚組、3枚組で間隔を空ける展示はよくやるのですが、この作品は描く前に展示する場所が決まっていて、作品の前にベンチがある場所だったのでじっくり観れる絵にしようと考えていました。場所ありきで描くことはよくあります。

阪本:私は色の使い方が気になって、作品によって色が果たしている役割が違うように思いました。例えば《あわいに舟》のカヤックは鮮やかな色が使われていて一気に目を引く。あるいは全体がモノトーン調で一部だけ濃い色が使われいたり、絵のポイントとして彩度を変化させているのかと思いきや、《5月の風》などはまた違った色の使い方をしている。それが作品のテーマなのか、制作過程の中で決まってくることなのか気になりました。

植田:取材した時の風景の温度ですかね。特に《5月の風》は5月、しかも島を取材したものだったので、その違いもあると思います。

《5月の風》油彩、キャンバス 22×27.3cm 2024 年


こちら側と向こう側、その境界線など、植田さんが描く神秘的な風景に入り込んでいくような興味深いお話をお聴きすることができました。植田さん、ありがとうございました。

企画展「清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズ+ 対話する風景」は12月4日(木)まで開催しています。
3人の作品による展示空間をぜひお楽しみください!

清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズ+ 対話する風景

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16. 11月 2025 · アーティストシリーズ+ 対話する風景 リレートーク[阪本 結] はコメントを受け付けていません · Categories: はるひ絵画トリエンナーレ, 展覧会

開催中の企画展「アーティストシリーズ+ 対話する風景」では、過去の「清須市はるひ絵画トリエンナーレ」入選者から植田陽貴さん、阪本結さん、谷内春子さんをグループ展形式でご紹介しています。
今回のブログも関連イベント「アーティストリレートーク」より、阪本結さんのトークをご紹介します。

阪本 結(撮影:谷澤撮影)

アーティストリレートーク
日時:2025年10月11日(土) 13:30~(1時間ほど)
出演:植田陽貴、阪本結、谷内春子(いずれも出品作家)
聞き手:加藤恵(清須市はるひ美術館学芸員)

展示風景・作品写真|撮影:麥生田兵吾


《Landsccapes》油彩、キャンバス 194×157cm(6 点) 2023 ~ 2024 年

加藤:《Landsccapes》を最初に観た時は、ひとつの風景をパノラマ的に描いているのかと思いました。しかしよく観たら異なる複数の風景がうねるように繋がっていることに気づいて、それが一つの画面の中で面白い表現になっていると感じました。あと、やはり線の描き方に特徴があることも今回展示していただきたいと思った理由です。
まず、風景を描くことについて何か考えていることはありますか?

阪本:モチーフで言うと、私は自分の住居とアトリエの2拠点があり、その周辺の風景を描くことが作品全体で共通しています。普段何度も通る道で写真を撮るのですが、初めて旅行に行った場所で綺麗とか感動とかで写真撮るのではなく、昨日これぐらい(の高さ)だった草がこれぐらい伸びていたとか、昨日ここに停まっていた車がないとか、いつも可愛いと思っている犬が今日も散歩していて嬉しいとか、 初めて見るタイプの犬だとか(笑)。そういった毎日歩いてて気づくものを撮り溜めています。作品をつくろうと思った時に自分の写真アルバムを見返すと、ずっと工事現場を撮っていたり、工事の時に誰かが地面に書いた目印がかっこよくて撮り溜めていたり、その時々で私のトレンドがなんとなくあって、その変化も面白いなと思っています。《Landsccapes》は2016年頃から描いているので、10年弱同じようなフォーマットで描き溜めているのですが、 こうして同じ空間に並べると、私のトレンドも違うし、住んでいる場所も変わっているので、ある時は山だったのに急に街になったり。私の生活に基づいて周りの環境も変化しているから勝手にモチーフが変わっていく。そういうところを楽しんで描いています。

加藤:《Landsccapes》でいうと、向かって右から左へかけて制作年が新しくなっていますが、最初の頃は建物など見えているものが割とはっきり描かれていて、それが道路だったり空白の部分でつながっています。だんだん線が増えて何を描いているのかはっきりしない作品になっていく。この変化について、ご自分の中で何かきっかけがあったのでしょうか?

《Landsccapes》展示された6点の内5点

阪本:山の近くに住んでいた頃は草をたくさん描いていたので(草をモチーフにして)画面をつくることは慣れていたのですが、 街中に引っ越してから《Landsccapes》を描いて景色が変わったという実感が最初にありました。それをどうしたら草を描いていた頃と同じように描けるのだろうと思い始めて。 特に地面は場所によって全然違う。タイルの時もあるし、アスファルトの時もある。正解も見つからないままひたすら描いていたのですが、次第に地面をくっつけて描く方法に少し慣れてきたんですよ。そうしたら、線をたくさん使って街も描けるようになって、 もう一度草をたくさん描いてみようと。それで左側の(近年の)描き方に移っていきました。

加藤:今、線のお話が出ましたが、左側へ行くにつれて線による表現の幅がどんどん広がっていく。あと、例えば左から3番目の作品などは描いているものではなくて線自体が強調されて見えてくるところもあります。線を描くことについて何か考えていることはありますか?

《Landsccapes》展示された6点の内、左から3点目

阪本:線を線として描くということでは、先ほど話した工事の時に地面に引かれている白線や印がきっかけだったりします。もともと、風景を線の集積、積み重なりで絵にしたいという考えがこの制作スタイルでは最初にありました。それを思いついた一つの理由に、アメリカ合衆国って(地図で見ると)州が直線で区切られているじゃないですか。 あれは地形に合わせて区切っているのではなく、誰かが定規で引いたような線です。目の前にあるものを何かの都合で区切って線を引いていくところが、人がいる世界の一つのかたち、一つの表象なのかなと。人がいる場所を描きたいと思った時に、その象徴の一つとして勝手に引かれた線というものが自分の中にモチーフとして出てきて、 線の集積を描いていったら、時間の表現もできるし、場所の表現もできる、人の痕跡の表現にも繋がるんじゃないかというところから、線を重ねていく発想になりました。なので、地面に引かれている線は自分の発想の根源的な部分でモチーフとしてあります。

加藤:線を重ねていく「描き方」と同時に、風景や描く対象を自分自身が「見ている」ことも、阪本さんの制作において重要なのではないかと思います。 見ることと、 実際に線を引いて描くことについて、自分の中で何か繋がりはありますか?

阪本:見ることはとても大事な気がしていて、最初にいつも何気ない道で写真を撮るという話をしたのですが、その時には気づいていなかったけど、後から(作品制作のための)コラージュをつくる時にもう一度写真を見て「あ、こんなところに鳥がいる」みたいな。写真に写り込んでいるものに気づくことって意外とありますよね。同じものを何度も見返すことが理解することに繋がるという実感が制作の中にあって。そして、つくったコラージュを描く時に「あ、ここ繋がってる。」とか。本当に小さい気づきの積み重ねなのですが、見るを重ねることによって、やっとそのものを理解するところがあるのかなと。それが描く行為の中にもあって、この線、この形ってどうなっているんだろうと思った時に指でなぞってやっと気づくとか。《植木鉢の絵》などは色鉛筆も使っていて、色を乗せる時に画面との距離が近いのですが、描きながらこうなっていたのかと気づくとか。それを(描く)方法を変えてずっと繰り返しています。

《植木鉢の絵》油彩、キャンバス 91×116cm(2 点)2025 年

 

《植木鉢の絵》のもととなるコラージュ (阪本さんのアトリエにて筆者撮影)

加藤:スピード感のある線が多いように思うのですが、描く時のスピードについて意識していることはありますか?

阪本:線が一発で決まるとは思っていなくて、何度もやり直して描くから一回の判断が早いのだと思います。形を探ってる線も(作品に)残っているのですが、その線が“たくさん見た”ことの痕跡というか、物を見ることのリアリティとして線がたくさんある状態が 、私の思う「風景を見て描く絵」の形かなと思っています。それがブレてアニメーションのように見えてよりスピード感が出るのかもしれないです。

加藤:最初に当たりをつけるような線も消さずに描き進めるんですね。一方で《泥団子》は少し描き方が違うように思います。これは近所の子どもたちがつくった泥団子を並べて、それを見て描いたものでしたね。

《泥団子》油彩、キャンバス 15×21cm 2023 年

阪本:ずっと大きなサイズの絵を描く研究をしてきたので、小さい絵を描こうとした時、大きな作品のミニチュアを描いても意味がない、何か象徴的なイメージがないかなと思い、直感的に泥団子がいいんじゃないかと。最小限の風景のようなイメージです。

加藤:サイズによって描き方の違いは何か意識されましたか?

阪本:色をたくさん入れると情報があふれてしまうので、まずはモノクロにしました。線の手数もたくさん入れると何を描いているか分からなくなるので、シンプルに情報がそぎ落とされています。泥団子は割と抽象的、幾何学的な形態なのでスケール感もあまり分からない。

加藤:ありがとうございます。また、他のお2人からのご質問もお聞きしてよいでしょうか?

谷内:額装されている作品《背割堤》などは、事前にエスキース(下絵)のようなものとして描いているのでしょうか?

《背割堤》ペン、紙 41×52cm 2024 年

阪本:エスキースではなく作品として描いています。これも小さい作品を描く練習のひとつなのですが、このサイズを筆で描くとすぐに終わってしまうので、悩んだ結果ミリペンを使っています。筆先がミリなら線をいっぱい引いても同じ密度になるんじゃないかという発想で(笑)。去年、一昨年ぐらいから始めている実験的なシリーズです。

谷内:色がない(モノクロな)ので、他の作品と少し違う感じがして。大きな作品は動きがありますが、額装作品になると動きよりも集中して迫ってくる感じがあると思いました。

植田:制作過程について、コラージュをされるとおっしゃっていましたが、実際に紙を使ってコラージュをつくるのか、デジタル上でおこなうのか。また、コラージュしてイメージを重ねる時のルールのようなものがあるのか気になりました。

阪本:撮った写真は全部モノクロで印刷したものをハサミで切ってノリで貼ってコラージュしています。1メートル四方のものを一塊として1個のコラージュをつくります。好きなだけコラージュをつくった上で、キャンバスにあわせて必要な部分をつくり足したり、合体させたり、切り取ったりします。そのコラージュを見ながら、この風景が目の前に広がっていると想像して描き進めていく。《Landsccapes》では半端に残ったコラージュをどんどん足していけば永久に描けるという設定で制作していて、全体では9点作品があるのですが、今回は壁に収まる点数として6点を展示しました。

作品制作のためのコラージュ(阪本さんのアトリエにて筆者撮影)


物を見ることのリアリティ、そして作品に線がたくさんある状態が 私の思う「風景を見て描く絵」の形、という言葉がとても印象的でした。阪本さん、ありがとうございました。

リレートーク、次回のブログでは植田陽貴さんを取り上げます。
どうぞお楽しみに!

清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズプラス 対話する風景

12. 11月 2025 · アーティストシリーズ+ 対話する風景 リレートーク[谷内春子] はコメントを受け付けていません · Categories: はるひ絵画トリエンナーレ, 展覧会

公募展「清須市はるひ絵画トリエンナーレ」の受賞者・入選者による展覧会「アーティストシリーズ」。開館当初からこれまで100名以上のアーティストを紹介してきたこの展覧会は、新進作家たちの挑戦の場という役割も担ってきました。

今年度は「アーティストシリーズ+(プラス)」として、過去の入選者から植田陽貴さん、阪本結さん、谷内春子さんをグループ展形式でご紹介しています。各々の特徴的な絵筆の動き、そして3人の作品に共通するテーマ「風景」をもとに、それぞれの作品がひとつの展示室の中で繋がっていく心地のよい展示空間となりました。

今回は10月11日に開催した関連イベント「アーティストリレートーク」より、谷内春子さんのトークをご紹介します。

谷内春子(撮影:谷澤撮影)

アーティストリレートーク
日時:2025年10月11日(土) 13:30~(1時間ほど)
出演:植田陽貴、阪本結、谷内春子(いずれも出品作家)
聞き手:加藤恵(清須市はるひ美術館学芸員)

展示風景・作品写真|撮影:麥生田兵吾


谷内:これまでの制作から「風景」を自分の中で捉え直していた時に、庭(日本庭園)における見立てや、空間の伸び縮みが気になることだったと感じて。色と形によって絵はできているという割り切りの中で、風景をつくり替えていく時にどのような見立てが成り立つのか。絵があることで、観ている人に作用する、そんなやり取りができる場を提案できるのではないかと思って制作しています。

加藤:「空間の伸び縮み」はとても面白い言葉ですね。具体的にもう少しお聞きしてもよいですか?

谷内:例えば《Lie on #1》《Lie on #2》の青い横軸の帯や、緑の濃い色、薄い色は、一見すると絵具のストロークですが、それが田園や湖など見る側がイメージを寄せていくことで急に広い風景に見えてきたりする。観ている人の想像によって絵が伸びたり縮んだりするとも言えると思います。

展示風景
中央:右《Lie on #1》、左《Lie on #2》 膠彩、麻紙 2025年

加藤:抽象的な色と形の配置という点では、ヨゼフ・アルバースの色彩構成などが思い浮かびますが、そういった考え方と谷内さんの作品はまた違うようにも思います。その理由はやはり風景を描いているということなのかなと。「風景を描く」ことについて考えていることはありますか?

谷内:さっきも庭の話が出ましたが、枯山水などを見ることが好きで、岩が山だったり、砂利が海だったり、風景に置き換えて見立てる感覚に寄り添える面白さがあります。いつもさりげなく見ている風景の記憶が積み重なって自分の中でイメージとして生まれてくる。風景って誰しもが持っている共通の記憶という感覚があるのかなと思います。

加藤:谷内さんは自分が見た風景を描いているのかもしれないけれど、 作品を観る人はそれぞれの記憶の風景と繋げることができる。 さっきの「伸び縮み」の話にも繋がっていくように思いました。谷内さんはプリズムの光をテーマにされているとのことですが、「Lie on」シリーズなどもそうですか?

谷内:はい、黄色の形は光の動きのようなイメージが最初にあります。 プリズムから分光した虹の光そのものを描いているのではなく、プリズムの光を使って部屋の中で遊んだ時に光がチラチラ動く感じを記憶していて、 その動きだったり、光がたどる空間の感覚だったりを絵の中で置き換えて成立できないかと考えています。また、画面の奥にある帯状(グリーンとブルーの部分)をグラデーションにしているのは若干その時の記憶から来ています。

展示風景
手前:《四角形の空想・5つの対話》 奥:《四角形の空想・器》 膠彩、白金泥、銀箔、紗 2025年

加藤:「四角形の空想」シリーズは、なかなか観たことのないタイプの作品だなと思いました。とても薄い布に描かれていて、描かれている形と後ろの影が一体になって浮かんでいるように見えます。

谷内:最初はもう少し半透明の絹本に描いていてそれが透明に対する答えだったのですが、 白い膜が邪魔になってきて。 本当に透明になったらどうだろうと思い紗の素材にたどり着きました。 実像と虚像、絵具と影、そういうものがつくり出す世界、頭の中で重なって見えてくる不思議を、 実際の影と絵具で描かれたイリュージョンによって見えてきたら面白いかなと思い描き始めました。

《四角形の空想・5つの対話》部分

谷内:実は、四角形にたどり着いたきっかけもプリズムです。 四角形の形を絵に写していると、平面だけど奥行きを感じるなど不思議な感覚が四角という形態にはあり、そして(複数の)四角形を重ねると最初は見えていなかった奥行きが見えてくる。そういったドローイングの中で起こっていることは、 描いている人は(途中の過程や変化を通して)知っているけれど、 出来上がったものからはあまり感じられない。そのような経験から、この作品では観る人が動くと影と絵の角度も変わり、見え方が変化する、影も含めることで(そういった経験が)生まれないかなという考えもありました。

加藤:今回、谷内さんが執筆された博士論文などを資料コーナーで展示していて実際に読む事がことができます。谷内さんの文章の中に「知覚する」という言葉が度々出てくるのですが、まさにこの作品でも大事なキーワードではないかと思います。作品と鑑賞者の間にある「知覚する」ということについてお聞きしてよいでしょうか。

谷内:それは庭を見る時の感覚ともつながっています。人間だからこそ感じられる奥行き感がとても面白いなと思っていて、それを作品化しようとした時の試みが(作品には)全部入っています。 人間の頭の中でつくり出されるイリュージョンと、 物質との間に起こる不思議な関係を見えるようにすることが、知覚している感覚を見せるということなのかなと自分では考えています。

加藤:谷内さんが「四角形の空想」シリーズを描いている時、図像と同時にその影も現れてくる。 そういった制作過程で起こる知覚を、鑑賞者と作品との関係にも共有していると言えるかもしれませんね。

《Nature -Whispers of sea and mountain#1》膠彩、麻紙 2025年

加藤:《Nature -Whispers of sea and mountain#1》は、この夏に谷内さんが高知県で滞在制作をされた時に、現地でウニを収集してそのトゲをすりつぶして顔料にして使用していると伺っています。

谷内:(現地では)ウニが海の中で大量発生して漁師さんたちが困っていました。ウニは岩を食べてしまい餌がなくなって魚にとっては悪い存在という厄介者なのですが、(トゲの)色はすごく綺麗で。紫ウニという種を使っていて、 濃い黄色い紙に描いているのでちょっと茶色に発色していますが、紫色の絵具になるんですね。日本画では(鉱物や貝などを)つぶして細かくした顔料を膠という接着剤でつけることで絵具として使用できるので、この作品では(滞在制作先の)地元の素材を絵具にして描きました。

加藤:今回の展覧会へ向けた打合せの中で、今度高知へ行ってウニを顔料にしてみようと思っているというお話を聞いた時はびっくりしましたが、 実際に作品を観たらとても綺麗な色ですね。高知の滞在制作ではウニの他にも、水晶などの鉱物も収集されていて、そういった自然物も資料コーナーで展示しています。

資料コーナー(部分) 高知県で滞在制作した際に収集した自然物

加藤:最後に、リレートークということで他のお2人の作家さんから谷内さんの作品についてご質問などあればお願いします。

植田:「四角形の空想」シリーズは、制作時に影まで想定して(壁から)浮かせて描いているのでしょうか?

谷内:実際に描いている時は(作品のフレームを)直接壁に引っ掛けて描いているので、(この展示のように)ここまで壁から離して描けてはいないです。 なので影と絵の関係のブレは少ないのですが、ただ、展示する時の照明によっても結構見え方が変わるので、ライティングの調整でも見え方の操作はできるなと思います。今回は少し斜めから照明をあててもらいました。

《四角形の空想・5つの対話》部分

阪本:出品作品の中で《Nature -Whispers of sea and mountain#1》だけ直線で構成されているように思いました。描く時の気持ちの違いなどあったのでしょうか?

谷内:プリズムの光は平らな場所だと直線の光が走るのでモチーフは同じです。自分の中で感覚的なところを作品に出すと直線になるという傾向があって、今回は直線を素直に使って、メインは海だったり、素材の見え方がささやいているようにしたいというところがありました。素材自体をより敏感に出すには形があまり主張しないほうがいいということもあり、この作品は直線にしました。

展示風景


制作にまつわる貴重なお話をしてくださった谷内さん、ありがとうございました。

リレートークはまだまだ続きます。
次回のブログでは阪本結さんを取り上げます。
どうぞお楽しみに!

清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズプラス 対話する風景

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