みなさんはこれまでに、「詩」というものにどれだけ触れてきたでしょうか。
言葉による表現のひとつとして、教科書などで一度は必ず目にするものではありますが、正直なところ私は少し苦手な分野でした。
つかみどころがなく、どのように受け取ればよいのかわからなかったからです(これは多くの人が美術に対して感じていることでもありますね)。
そんな私でもよく知っている「谷川俊太郎」という存在は、現在の日本においてまず名前が挙がる詩人なのではないでしょうか。
20代から90歳を超えた現在に至るまで、ずっと第一線で活躍する詩人・谷川さんの絵本に注目したのが、「谷川俊太郎 絵本★百貨展」です。
これまで手掛けた絵本は200冊にものぼる谷川さん。
親しみある作品で「これ谷川俊太郎だったんだ!」とはじめて知るものもいくつかありました。
【世界を違う角度からみてみる】
例えば、円柱を横に切ると切断面は円ですが、縦に切ると長方形ですね。
世界は多面的で、いろんな角度からながめることで新たな気付きが得られます。
これは谷川絵本の特徴のひとつでもあります。
・当時としては珍しい、写真による絵本(『こっぷ』『なおみ』など)
・何気ない日常、身の回りのものについて深掘りする(『いっぽんの鉛筆のむこうに』『このえほん』など)
・異なる視点の比較によってものごとをとらえる(『わたし』『へいわとせんそう』など)
目の前の現実がどのようにできているのか、ということについて考えるきっかけをくれる絵本たちは、子どもにも大人にも新鮮な驚きをもたらします。
幼少期は童話などのいわゆる「物語絵本」よりも図鑑やカタログのほうが好きだったという谷川さん。
言葉だけでは表現できないこと、絵だけでは表現できないことを総合的に伝えられる絵本ならではの価値を最大限に活かすことを重視しています。
【ナンセンス、そして声に出して読みたい】
名作『もこ もこもこ』をはじめとして、谷川絵本には「意味がよくわからない」作品が多くあります。
「ナンセンス絵本」と言われたりもしますが、ことばそのものに向き合い続けてきた谷川さんの真骨頂と言えるでしょう。
ことばあそび(『ことばあそびうた』)やオノマトペ(『ぴよぴよ』)だけでできた絵本はユーモアがちりばめられていて、意味がなくてもなんだかおもしろい。
抽象的な作品は簡単につくられているように思われがちですが、意味を超えたところにあることばを成立させるのは容易いことではないと思います。
ほとんどひらがなで書かれているこれらの絵本は、声に出して読まれることを想定して書かれています。既存の言葉のように決まったアクセントやイントネーションがないだけに、語り手によって十人十色の『もこ もこもこ』が生まれます。
文字や単語をもたない赤ちゃんが発することばのように、声や音をからだで響かせる楽しさは根源的に人間に備わっているように思います。
先日開催した「詩作ワークショップーまんまえ投壜通信」にて、詩人の村田仁さんから興味深いお話を聞きました。
投壜通信、いわゆるボトルメールは、もとは沈みゆく難破船から送られた最期のメッセージでした。
自らの終わりを悟りながら、ここではないどこか、今ではない未来の誰かにことばを届ける行為。
詩を書くことは、そんな投壜通信の在り方に通じるとおっしゃっていました。
絵本という形で届けられた谷川さんのことばは、多くの人の成長過程に影響を与えてきました。
彼の存在は時を超えて、これからも私たちに大切なものを残していくのでしょう。
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http://www.museum-kiyosu.jp/exhibition/tanikawa/