30. 8月 2021 · 鑑賞の場をつくる② はコメントを受け付けていません · Categories: 展覧会

鑑賞の場をつくる①からつづく)

移動空間のシンボル

 

――フィールドワークを経てからの空間づくりについて、具体的に教えてください。

ポスターが掲示されている状況を再現するやり方として、移動空間におけるシンボルのようなものを入れたいなと思いました。

駅の広告って、真正面からまじまじと見ることってほとんどないと思うんですね。移動しているときにちらっと視界に入ってきたりする。はるひ美術館の細長く曲面で構成された展示室をプラットホームに見立てて、歩くところと立ち止まるところをつくる、歩きながら見るという状況をつくることを考えました。

そこで出てきたのが、柱と壁、ブリッジです。柱とブリッジによって人の動きを誘導し、空間をひとつなぎにしながら腰壁で緩やかに領域を分ける、高さのあるブリッジによって歩いている人と止まっている人の視界を変えることを目指しました。

 

――まさに、みるための「場所をつくる」ってことですね。では展示室1のほうはどうでしょう?

大きな展示ケースを中心にボトル、季刊誌、車内広告、CMをエリアで分けて配置しました。

とくにボトルを展示した展示ケースは、こちらも単調にならないように可動パネルを規則的に配置して変化をつけましたが、展示ケースを隠すために使われていたパネルの新しい使い方だったと思います。

 

――全体の構成が決まり、模型や図面での細かい検討が繰り返されましたが、次のステップとしてはどんなことを進めていったんでしょう?

ブリッジから何がどう見えたらよいのか、ということを学芸員さんと考えていきました。作品を何点、どこに、どのように配置するか。学芸員さんの考えた8つの章立てに沿った動線上で、どこでどのように作品が現れて、見切れるか、全体が見えるか、というようなことも含めて場面、風景を考えていったという感じですね。

あとは予算と工期の制限があるなかで、できるだけ無駄のないようにサイズを調整したり素材や作り方を検討したり。安全性の問題もあったので、手すりやブリッジの高さなども配慮が必要でした。

キャプションや会場ハンドアウトなどグラフィック関係もデザイナーを介さないということだったので、今回はすべて僕と学芸員さんでデザインしています。

 

展示室におさまらないフィールドで

 

――低予算・短期間でのハードワーク、大変ご苦労をおかけしました・・・では最後に、全体を通してこの仕事、やってみてどうでしたか

広告という展示物に対して、都市や社会など展示室におさまらないフィールドで考察ができて、参加しがいのあるプロジェクトでした。いいちこのポスターを通して、みる、という感覚について体験してほしいと思います。

また、今後は展覧会という形式にとらわれない会場づくりができればとも思います。

 

――美術館では、作品をたんにお見せするだけでなく、どのように見せるか、ということも大きな課題の一つです。学芸員としてはどうしても展示室の中だけで考えてしまいますが、建築、都市空間など広い視野での解釈は新鮮でした。

今回の会場構成を通して私自身も学ばせていただきましたし、今後の展覧会づくりにおいても「鑑賞の場づくり」は丁寧に取り組んでいきたいところです。本日はありがとうございました!

 

O

http://www.museum-kiyosu.jp/echibition/kawakitahideya/

※緊急事態宣言の発令に伴い、2021年8月27日(金)から9月12日(日)まで臨時休館いたします。(9月13日(月)は通常の休館日)。開館後のお越しをお待ちしております。

 

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30. 8月 2021 · 鑑賞の場をつくる① はコメントを受け付けていません · Categories: 展覧会

さて、前回の記事でもお伝えした通り、河北秀也のiichiko design展では、作品の見せ方・空間のつくり方にこだわっています。

会場構成を担当してくださったのは建築家の桂川大さん。

従来は学芸員が作品の選定~展示構成~会場構成を担うことが一般的ですが、今回は客観的かつ新鮮に空間を扱う視点を求めて、お力をお借りしました。

そもそも「会場構成」という言葉自体、聞きなれないものかもしれません。展示空間をつくることについて、学芸員Oが桂川さんにお聞きしました。

 


桂川 大(かつらがわ・だい)

1990年岐阜県生まれ。建築家。alt_design studio主宰。名古屋工業大学大学院博士前期課程を修了後、一級建築士事務所Eurekaに勤務。名古屋工業大学大学院博士後期課程在籍。岐阜、愛知を拠点に建築設計をはじめ、都市や風景の観察・採集・再現をするフィールドワーク、会場構成、場づくりをおこなっている。主な会場構成・デザインに「ナゴヤオリンピックリサーチコレクティブ(assembridge nagoya2019)」、「物語としての建築ー若山滋と弟子たち展ー(清須市はるひ美術館)」、「都市のみる夢(東京都美術館)」など。

https://aadk.cargo.site/


 

建物だけでなく、「場」をつくりたい

—―まずは自己紹介からお願いします。

岐阜県に生まれて、名古屋の大学で建築を学びました。東京の設計事務所で何年か修行したのち独立して、現在は愛知と岐阜を中心に仕事をしています。また大学の博士課程にも在籍していて、論文もコツコツ書いています。

 

――具体的にはどんな仕事を?

いろいろですが、もともと「建築物をつくる」というよりは人が集う場所をつくることに興味があって、愛知に戻ってからはあいちトリエンナーレに関わったり、築地口にあるMAT(Minatomachi Art Table, Nagoya)のプロジェクトに参加したり、アートセンターのようなコミュニティスペースを新たにつくったりしてきました。もちろんいわゆる建築物の設計などの仕事もしています。

 

――iichiko design展に関わることになった経緯について、改めて教えてください。

まずは昨年2020年にここで開催された「物語としての建築ー若山滋と弟子たち展ー」がきっかけです。はるひ美術館の建物を設計した若山滋さんは、今僕が在籍している名古屋工業大学で長く教えられていた先生だったこともあり、大学と美術館が協同で企画する形になりました。僕は大学チームのまとめ役のようなポジションで関わりました。

それと同時期に、個人の活動として「都市のみる夢」(都美セレクション・東京都美術館)という展覧会に携わっていて、学芸員のOさんに自身の会場構成づくりを知ってもらう機会になったようです。

 

――ここで「会場構成」という言葉が出てきましたが、そもそもこれってどういう風にとらえたらいいでしょう?

自分が学んできたことの延長で言うと、それも場所をつくることと近しくて、どういう鑑賞の場をつくれるかということだと思います。それは美術館であってもなくても変わらないし、展覧会という形式にとらわれないと考えています。

ただ展示内容によって会場構成の仕事は大きく変わってくると思います。今回は僕が介入しやすいというか、任せられる部分が大きかったので、ある意味やることは多かったですね。

 

場をつくる根拠

――ほうほう。では今回の展覧会について、具体的にどのように取り組んだのか、振り返ってみましょうか。

まずは与件の整理からですね。美術館からは、

●河北秀也さんというアートディレクターがいいちこのプロモーションを手掛けていて、ポスター作品をメインとして展示したい。

●過去にもメーカー(三和酒類)主催で展覧会は何度か開催されているため、美術館主催の企画展として差別化を図りたい。

●同サイズ、平面のポスターを単調にならないように見せたい。かつ、ポスターをみる行為を意識できるような空間にしたい。

というようなオーダーがありました。

広告をみる/展示物をみるってどういうことなんだろう?と思って、実際にポスターが掲示されている現場のリサーチを始めました。

 

(調査協力:平山龍太郎、西村怜朗、高橋昌幹、時吉遼)

 

――いいちこB倍判ポスターが毎月掲示される地下鉄駅構内がどういう環境か、ということを調べたわけですね。

基本的には計測と観察です。掲出される駅のうち20か所くらいをあたって、どこに何があるかとか、大きさ、長さ、あとは人の動き・視線・ふるまいなどを記録しました。このフィールドワークは到底1人でできるものではなく、公募でメンバーを募って実施しました。

「こんなんだったっけ?」というか、駅というあまりにも身近な空間において僕たちがいかにものを見ていないか、無意識的であるかということが一番衝撃的で、たくさんの気付きがありました。

ちなみに余談ですが、駅の構内っていうのは建築物ではないんですね。測定してみると、通路の幅や照明の明るさは駅によってバラバラだし、使いやすいとはいえないところもある。地下空間は地形的な制約や周囲の施設との兼ね合い、電車の運行状況などによって条件が決まってくるので、物理的に人の使いやすさを優先できないんです。

 

――確かに、毎日使っていても必要な場所しか通らないし、どこに何がどんな風にあるかなんて意識したことないかもしれませんね。それでこの調査は会場構成にどのように役立ったのでしょう?

場所をつくるうえでの根拠を得られましたね。環境の調査から設計につながることも実際にあって、今回も自分で思っていた以上に手ごたえがありました。

ただポスターを並べるだけにはしたくない、という美術館からの希望をもとに、現実のポスターのリアルな在り方を再現するという方針で検討を重ねました。

 

鑑賞の場をつくる②へつづく・・・

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13. 8月 2021 · ミスマッチストーリィ 河北秀也のiichiko design はコメントを受け付けていません · Categories: 展覧会

7月22日から始まった本展は早いものでもう3週間が経過。

お客さまの反応が気になる今日この頃ですが、こっそりエゴサをしながらおおむね好評いただいてると認識しております!ありがとうございます!

(どこの美術館でも、感想をSNSやアンケートでいただけると大変喜びます。)

 

さて本展は、三和酒類株式会社の麦焼酎「いいちこ」のプロモーションを約40年にわたって手掛けてきた、アートディレクター・河北秀也さんについてご紹介するものです。

作品についての詳しい内容は実際に美術館でごらんいただくとして、ここでは展覧会の意図やキーポイントをお伝えしたいと思います

 

①なぜ、「いいちこ」?

なぜこの展覧会を開催することになったかというと、学芸員(私)がいいちこポスターのファンだから。

個人的な趣味を仕事に持ち込んで大変申し訳ないですが・・・しかし企画も研究も、はじまりは個人の関心から。

自分が良いと思ったものを客観的に分析して、美術館という公的施設で不特定多数のお客さまに説得力をもってお伝えすること、それが学芸員の仕事とも言えます。

 

通勤途中にいいちこポスターを見かけるようになって(ちなみに地元ではたぶん見たことないです。全国どこにでも掲出されているわけではないそうです。)、ほかのポスターとは明らかに違うそのオーラに引き寄せられ、徐々に「なんだか気になる存在」に(恋?)。

デザインやポスターにもともと関心があったこと、アートを身近な存在として扱うことの多い当館の方向性とも合うことから、展覧会企画に至りました。

これらがすべて河北秀也という一人のデザイナーによって生み出されていることを知ったのは少し後のことです。

 

②デザインって、何?

造形的に凝ったファッションや家具など、「なんとなくオシャレ」なものとしてのイメージがある「デザイン」という言葉。

それは間違いではありませんが、広い意味では「問題解決のための手段」ととらえられます。

目を引くためのデザイン、売り上げを伸ばすためのデザイン、自己表現のためのデザイン、使いやすくするためのデザイン、、、すべて何か課題があって、それらを解決することを目的にした行為です。

河北さんはデザインに対しまさにそのような包括的な考え方をもっていて、私たちにとって大切なことは何か、ということをデザインを通して伝えようとしています。

目まぐるしく移り変わる世界、コロナ禍でますます加速する「余裕のなさ」みたいなものに対して少し立ち止まり、いつも目にするポスターと河北秀也のデザイン思考から何かヒントを得ていただければと思います。

 

③みる、ということ

今回特筆すべき点は、モノの配置や見せ方を総合的に考えた空間づくりです。

美術館で芸術作品を見る環境と、街中でポスターを見る環境はまったく異なりますよね。一方は見る(あるいは感じる)行為に集中できるよう特化した環境、もう一方はさまざまな雑多な要素が含まれる環境。

芸術作品もポスターも同様に見られることを前提として作られていますが、「どのように見られるか」という文脈から離れてしまうと、その在り方が大きく変わってしまいます。

本展では、広告をみる環境を、美術館という鑑賞の場において解釈することを試みています。

小難しい書き方をしてしまいましたが、とにかく複雑な空間になっています。(説明しづらい)

「みる」ってどういうことだろう?と考えるきっかけになれば幸いです。

 

③については後日、詳しく記事にできればと思います。

そんなこんなで、展覧会を見た後にはいいちこが飲みたくなるはず~

※白状すると担当者でありながらまったくお酒が飲めません。

※あと残念ながら館内で酒類は販売しておりません。

写真©Fumio Kohama

 

O

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