はるひ絵画トリエンナーレで評価された作家から選抜して個展形式でご紹介するアーティストシリーズ。
美術館に足を運びづらい状況ということもあり、ごく一部ではありますが、ブログでその内容を綴りたいと思います。
2018年の第9回展で入選に選ばれた幸山ひかりさんは、鶏頭(ケイトウ)の花をモチーフに、人の生と死を日本画で描き続けています。
今回の展覧会は、「胎内めぐり」をテーマに構成されました。
タイトルの‟Go To Trip”は、話題の「Go To Travel」をもじって、地獄やあの世への小旅行をイメージしています。
入口が可動壁でちょっと狭くなっています。地獄への入口、あるいは胎内へと遡る産道のごとく・・・
小さな作品たちが奥へと誘います。
土の山や宇宙空間をあらわした作品のなかに、「九相図(くそうず:外に打ち捨てられた死骸が朽ちていく様子を描いた仏教絵画の画題)」に寄せた鶏頭の花が。
埋葬され、肉体は滅び、魂や精神と分離していく。枯れゆく鶏頭が人の死に重なります。
鶏頭の花って、ちょっとグロテスクですよね。とくに久留米鶏頭と言われる種類は、その色も相まって、人間の脳みそや内臓を思い起こさせます。
1点だけ強くスポットの当たる作品《hito》。
幸山さんは、鶏頭を花としてというより、人に近いものとして(わかりやすく言えば、擬人化して)描き出しています。
産道を抜け視界が拓けると、もうそこは彼岸の世界。
3つのケースの中には写生画が収まっています。日本画の基礎であり、作品が生まれる前の大切な修練でもある写生。
実物を観察しながらその輪郭を丁寧になぞり、生命の本質をとらえる作業です。
それぞれのケースには「遺物」「餞(はなむけ)」「イメージへの昇華」というテーマがあります。
視線を上に移すと、新作《まんまんちゃんあん》が吊り下がっています。
こちらは実物を前にした写生ではなく、幸山さんの記憶に刷り込まれたいわば「想像上の鶏頭」。朱の線描で、さまざまな形の鶏頭が描かれています。それはまるで祈りのような作業。
仏画のような神聖さを醸す10点の連作は、ゆらゆらと宙に浮き迷路のように空間を分断して私たちを惑わせます。
《まんまんちゃんあん》部分
「鶏頭」はその名の通り鶏のトサカに似ていることからつけられた名前ですが、学名は「燃え盛る炎」という意味だそう。
幸山さんの描く鶏頭も、しばしば炎や蝋燭の灯のイメージに重ねられています。
壁面には大作が並びます。
暗く不毛な大地に咲く幾種類かの鶏頭の花。強い存在感は人間の情念のようなものまで感じさせます。
《まんまんちゃんあん》の迷路を抜けて行き着いた最深部(展示室の入口付近からは奥が見えないように配置しています)には、不動明王の迦楼羅炎のごとく激しく燃え盛る炎のなかで凛と発光する白い鶏頭。
最果ての世界の景色です。
さらにその奥の壁面に亡霊のごとく浮かび上がる、その名も《秋霊》。
普段はあまり作品を展示しない場所ですが、あえてここにしてみました。鑑賞者は少し離れた場所からしか見ることができません。
ぐるりと一周りして、最後は《此岸より》。
旅を終え、彼岸の世界をあとにして、此岸の世界へ再び戻っていきます。
瞑想空間のような展示室で、‟Trip”をお楽しみください。
O
清須市はるひ絵画トリエンナーレ
アーティストシリーズVol.93 幸山ひかり展
「Go To Trip!最果ての景色へ」
2020年12月5日(土)ー12月27日(日)
http://www.museum-kiyosu.jp/exhibition_info/2020/artistseries_koyama/index.html