当館恒例企画のアーティストシリーズは、開館当初からおこなっている絵画(平面作品)の公募展「はるひ絵画トリエンナーレ」の受賞者のなかから選抜してご紹介する展覧会です。
新しい審査体制となった第9回はるひトリエンナーレで大賞を受賞した田岡菜甫さんの個展を開催中です。
田岡さんの作品を予備知識なしで見たとき、「なんだかよくわからないけどなんか変??」みたいな感想を抱く人が多いのではないかと思います。
描かれているものはなんとなくわかるけど、どうやって描いているのか、画面上で何をしているのかがとらえがたいというか、ノイズが入った途切れ途切れの音声のような、捕まえられそうで捕まえられないもどかしさを感じます。
田岡さんの関心は、オリジナリティの追求にあります。
芸術作品である以上それは当たり前といえば当たり前のことなのですが、田岡さんの場合は制作の過程がおもしろい。
例えば、
・実物を見て描いた絵と、描いた絵を見ながらそっくりそのまま写した絵を並べる
・両手で同じ題材を同時に描く
・キャンバスの四辺から異なる題材を描く
・自由に手を動かして引いた線を避けながら、別の絵を重ねて描く
・モノの輪郭線の一部を写し取り、脈絡なく別の部分のラインを繋ぎ合わせていく
・見たことのないものを想像で描く
等々、作品ごとにいろいろなことをおこなっているのですが、すべて描くうえでストレスとなるような行為であることがポイントです。
自分の好きなものを描いたり、思い通りに描くことをせずに、あえて「やりにくい」状態で描くことで、オリジナリティ(制御されてもなお発生してくるもの、癖や無意識の領域にあるようなもの)をあぶり出していく、という手法で制作しています。
田岡さんは、完成した一枚のキャンバスではなく、描く前の画材選びから展示空間にすべての作品を配置するところまでを含んで一つの作品ととらえています。
綿密に練られた展示構成のなかでは、見上げるような高さにある作品や、床に平置きされている作品、壁に立てかけられているだけの作品も。
また絵に描かれた題材の実物や造花などのモノも重要な役割を果たしています。
そういう、「なんか変」な展示のなかで、私たちは否応なく作品とモノを見比べたり、見る角度を変えてみたり、「なんでこれがこんなところにあるんだろう?」とか、「隣同士にあるこの作品たちはこういうところが共通しているな」とか、単純に「なんか変な組み合わせだな~」とか、翻弄されたりヒントを得たりしながら鑑賞していくことになります。
「全く同じ家」という展覧会タイトルには、コピーやトレース、シンクロといったイメージが含まれていますが、展示の内容と合わせて想像を膨らませていただければと思います。
かめばかむほどおもしろい“スルメ作品”ですので、ぜひ会場にて空間全体をじっくり鑑賞してみてください。
【開催中の展覧会】
清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズVol.88 田岡菜甫展「全く同じ家」
会期:2019年月1月16日(水)~2月8日(金)
開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)
休館日:月曜日(ただし祝日の場合は開館、翌火曜日が休館)
観覧料:一般200円 中学生以下無料
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