2016年11月6日(日)
今回の展覧会の見どころは、何といっても当館の細長い展示室をいかした作品の上映です。
幅5メートル、長さ約28メートルのきわめて細長く、しかも湾曲したこの展示室は、
学芸員泣かせと言ってもよいイレギュラーな形状で、普段私たちは、
どうしたら作品が映える展示にできるか、お客様の動線をいかにスムーズにつくるか、展示の度に頭を悩ませています。
ところが今回は、この細長く湾曲した壁がとても役に立ちました。
絵巻状に長い作品《É in Motion No.2》を、横幅23メートルの大スクリーンでご覧いただくことができます。
映像にすっぽりと包まれた、圧倒的な鑑賞体験。
《É in Motion No.2》は《浮楼》の手法を継承・発展させた作品で、
光と闇、生と死、言葉と沈黙、戦争と平和、創造と破壊。。。
つまり世界のすべてが詰まった壮大な叙事詩です。
作品のフォーマットからして、またしても型破りなアニメーション。
人が絵巻を見るとき右から左に繰り進めるように、映像もまた全体がゆっくりと動いていきます。
止まって見ていても、まるで歩いているかのように、世界が次々と現れては消えていく様子は、
私たちの歴史を走馬灯のように眺めている感覚と言ったらいいでしょうか。
この作品と対峙していると、人間の来し方行く末についての瞑想に誘われていきます。
榊原澄人さんは《É in Motion No.2》を制作する際、絵巻物に着想を得ましたが、
本作が絵巻物と違うのは、始まりも終わりもないということ。そして、エンドレスにループし続けるということ。
《É in Motion No.2》は、円環状の輪になったスクリーンへの上映を念頭に作られた作品なのです。
ご来館のお客様にお配りしている作品リストに《É in Motion No.2》の全貌が載せてあります。
←作品リスト
なので、これを輪っかにしてみていただければ、左右の端っこがつながり、
円環状に構想された作品だというのがお分かりいただけると思います。
作品リスト自体も、榊原さんが絵巻に着想を得て《É in Motion No.2》を制作したことにちなみ、
巻物を模したデザインとしました。巻いた状態で自立します。
当館では円環状のスクリーンはご用意できませんでしたが、《É in Motion No.2》のためにプロジェクター5台を連結し、
弧を描く壁面いっぱいに美しい絵が流れていく、という展示空間ができました。
彼の世界観は十分にお楽しみいただけます。
なお、本展の展示プランは、榊原さんご本人によるものです。
まだ実際に美術館にお越しいただいていない打ち合わせの段階で、展示室の図面をお見せしたところ、
すぐさま、この場所にこの作品をこういう形で上映したらどうかと、イラストで描いてくださいました。
その時の構想は、ほぼ実現されています。改めて、榊原さんの的確な判断に脱帽です。
【開催中の展覧会】
会期:2016年10月4日(火)~12月11日(日)
開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)
休館日:月曜日
観覧料:一般500円 中学生以下無料