2016年3月19日(土)
本日の高北幸矢館長アートトークのテーマは、「遠くを見る瞳、彫刻家舟越桂の精神世界。」
現在、三重県美術館で企画展「舟越桂 私の中のスフィンクス」(4/10まで)が
開催されているのに合わせたものです。
すでにご覧になった方もいらっしゃると思いますが、
「遠くを見る瞳」をもつ作品の世界観を損なわないよう、作品と作品のあいだに空間をたっぷり確保してあるので、
舟越ワールドにひたれる素敵な展示空間になっています。
三重県美術館 舟越桂展は→こちら
さて、舟越桂への注目度が高まっていることもあってか、いつにも増して大勢の方が集まってくださいました。
舟越桂は、1951年、彫刻家である舟越保武を父として生まれます。
彩色をした上半身の木彫で広く知られ、小説の表紙などにもたびたび採用されています。
黒、灰、青といった落ち着いた色調が使われ、どこか瞑想的で静寂な雰囲気。
この雰囲気は何に由来するのでしょうか。
特徴はその表情です。
大理石がはめ込まれた瞳はわずかに外向きにずらしてあることが多く、
わたしたちが像の前に立って見ても、視線が合いません。どこか遠くを見ているよう。
この、遠くを見やり物思いにふけるような表情の人物は、
文学的で暗示的なタイトルとあいまって、作品の詩情をいっそう高めています。
男性、女性という性別を超えて、中性的な魅力を放つ作品も。
最近では、両性具有の人体にも取り組んでいます。
今回、館長は「異形の人」というテーマから、ここ三十年ほどの舟越作品の変遷を紹介しました。
肩が盛り上がり、山のような景色を生み出している人物。
頭から角や人工物が突き出ている人物。
背中から手が生えている人物。
胴体を共有するふたりの人物。
これらは、通常の状態から逸脱した「異形(いぎょう)」です。
作品から伝わってくるのは、その異形の者たちを蔑視し排除するのではなく、
人間を深く理解しようとする、人間愛のまなざし。
舟越桂はこう言っています。「個人はみな絶滅危惧種という存在」だと。
「異形」というテーマは、見る人の心を強烈にとらえる魅力をもっています。
そして、アートだからこそ取り組めるものです。
常に標準的であり明瞭を旨とするデザインではとても扱えない。
今回の館長アートトークは、舟越桂の作品の魅力に迫るだけでなく、
デザインとの比較を通してアートの特性にも迫る内容でした。
舟越作品は慎重に「異形」の度合いを増し、
近年ついに、「スフィンクス」のシリーズを生み出すに至りました。
首や耳など、これまで以上にデフォルメ(変形)を加えられたその生き物の威容は、
大いなる自然を内包し、人間の力を超えた、超越的な存在に見えます。
スフィンクスは、わたしたちに人間存在とは何かを問いかける怪物。
私自身も三重県美術館の展示を拝見しましたが、
屹立するスフィンクスの前に立つと、人間は一体どこへ向おうとしているのか?と
問いを投げかけられているように感じました。
次回の館長アートトークは4月30日(土)16:00~
「造形を着る、三宅一生のファッションスピリット」
2016年度上半期のスケジュールはこちらをご確認ください。
【開催中の展覧会】 貸ギャラリー展示
■高橋遊写真展「み仏」
会 期:2016年3月15日(火)~3月21日(月・祝)
開館時間:10:00~19:00(最終日16:00まで)
■こどもデザイン室展2016
会 期:2016年3月16日(水)~3月21日(月・祝)
開館時間:10:00~19:00(最終日17:00まで)