15. 4月 2023 · April 15 , 2023* Art Book for Stay Home / no.117 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい』森山大道(青弓社、2000年)

対談、独白、インタビューで綴られる森山大道の著である。したがって本文全てが大道の話しことばである。読後、大道の口癖「ぼくは、ぼくの、ぼくとしては・・・」が脳にくり返される。誰でもそうであるが、話し言葉は少し乱暴で、むだな言葉が挟まれて、少々くどめである。聞いている分には、何も問題なく意味がわかるが、それが文章になるとまどろっこしくなる。しかし、そこに本音が直接心に響いて来て、「だよ、だよね、解るよ」と読者である自分も話し言葉で理解するのである。

そこから立ち上がってくる大道のキャラクターは、無頼で、少々荒っぽく、ざっぱで、生理的である。ところが読み進めていくと、繊細で、いたるところに気遣いが感じられ、やさしい兄貴であり、おじさんである。

森山大道の写真は、写真の領域を越えて、現代美術の分野でも評価が高い。私も同感であるが、本人にとってみれば「余計なお世話だ」だろう。芸術として評価を得ようなんてことは大道にとっては全くどうでも良いことである。しかし、鑑賞の側に立ってみれば、本人の意志などどうでも良いことで、写真という媒体に関係なく、現代美術の魅力に溢れているのである。

大道の言葉「よく写真は芸術か記録かという質問を受けるけれど、もちろん写真が芸術なんかである必要はまったくないと思っている 。 しかしまた写真は記録であるといったところでそれは自明の理であって、そんなこと言ってもはじまらない。ぼくは、写真は芸術とか記録を超えて、もっとハイブリッドなものだと思う。そんなふうに考えつづけ、それをいつか自分なりの方法を通して確認してみたいと思っていた。」の「写真が芸術なんかである必要はまったくない」が好きである。「写真が芸術なんかではまったくない」と言っているわけではない。

本書で一箇所、話しことばではなく、著述がある。後記のところだ。理路整然と知的な文章力で明解に書かれている。それはちょっとしらけるほどだ。